最高裁判所HP 知的財産裁判例集より

「完全病理学」出版契約事件(控訴審)

知財高裁令和8.7.30令和8(ネ)10027著作権侵害出版差し止め、損害賠償請求控訴事件PDF
要旨

知的財産高等裁判所第1部
裁判長裁判官 増田 稔
裁判官    頼 晋一
裁判官    天野研司

*裁判所サイト公表 2026.8.5
*キーワード:出版契約、支払合意、債務不履行、出版権設定契約、解除

原審:東京地方裁判所令和5(ワ)70736(裁判所サイト未登載)

   --------------------

■事案

出版契約の内容を巡って紛争になった事案の控訴審

控訴人(1審原告) :著者
被控訴人(1審被告):出版社

   --------------------

■結論

原判決一部変更

   --------------------

■争点

条文 著作権法83条2項、民法415条、651条1項、656条、709条

1 本件各書籍の出版に係る著作権使用料の支払合意の有無
2 本件各書籍の著作権に基づく複製及び頒布の差止請求の可否
3 本件各書籍1から13までの電子書籍化に係る著作権侵害の成否

   --------------------

■事案の概要

『本件は、控訴人が、被控訴人との間で、原判決別紙「出版物目録と推定売上総額」記載1から14までの書籍(本件各書籍)に係る出版契約(その内容につき当事者間に争いがある。)を締結したところ、被控訴人が著作権使用料を支払わないことは、同出版契約上の債務不履行に当たり、また、被控訴人が控訴人の許諾なく本件書籍1から13までを電子書籍化したことは、控訴人の著作権(公衆送信権)を侵害する不法行為に当たると主張して、被控訴人に対し、(1)債務不履行又は不法行為による損害賠償請求権に基づく損害賠償金2200万円の支払、(2)著作権法112条1項に基づく本件各書籍の複製及び頒布の差止め、(3)同条2項に基づく本件各書籍の廃棄、(4)本件各書籍に係る出版契約の解除による原状回復請求権に基づく本件各書籍に係るデータが記録された媒体の返還をそれぞれ求める事案である。』

『原判決は、控訴人の請求を全部棄却したところ、控訴人がこれを不服として控訴を提起した。
 控訴人は、控訴に際して、上記(1)の請求額を600万円に減縮し、上記(3)及び(4)の請求を取り下げた。』(1頁以下)

本件各書籍:完全病理学

   --------------------

■判決内容

<争点>

1 本件各書籍の出版に係る著作権使用料の支払合意の有無

控訴審も、本件各書籍に係る出版契約に際して著作権使用料の合意がされた事実を認定するに足りる客観的な証拠はないなどとして、支払合意の存在を否定しています(5頁以下)。

   --------------------

2 本件各書籍の著作権に基づく複製及び頒布の差止請求の可否

(1)出版権設定契約の成否

控訴人は、本件各書籍に係る出版契約について、存続期間の定めがない出版権設定契約とみるべきところ、被控訴人に設定された出版権は、著作権法83条2項の規定により、その設定後最初の出版行為があった日から3年が経過したことにより消滅した旨主張しました。
この点について、控訴審は、本件出版契約に際して契約書等は作成されておらず、その契約内容は、控訴人が本件各書籍の出版を許諾する点を除いては判然としないなどとして、結論として、本件各書籍に係る出版契約が出版権設定契約であることを前提とする控訴人の主張は採用することができないと判断しています(6頁以下)。

(2)本件各書籍に係る出版契約の解除の成否

控訴人は、当審における第1回口頭弁論期日(令和8年6月16日)において、被控訴人に対し、本件各書籍に係る出版契約を解除する旨の意思表示をした。
そして、控訴人は、民法656条、651条1項の規定により、いつでも、本件各書籍に係る出版契約を将来に向かって解除することができることから、同出版契約は、令和8年6月16日をもって解除され、被控訴人は、本件各書籍を複製又は頒布する権原を有しないと控訴審は判断。
被控訴人は、本件各書籍の原稿及び在庫を保有していることが認められることから、被控訴人による本件各書籍の複製及び頒布の差止めを認める必要があると判断しています(7頁以下)。

結論として、被控訴人に対し、本件各書籍の複製及び頒布の差止めを求める控訴人の請求には理由があると判断されています。

   --------------------

3 本件各書籍1から13までの電子書籍化に係る著作権侵害の成否

控訴人は、本件書籍1から13までの電子書籍化を許諾したことはなく、また、Aが図書館配信を行うことについては、全く知らされていなかった旨主張しました。
この点について、控訴審は、控訴人は、被控訴人に対して、本件書籍1から13までを電子書籍化すること等を許諾していたと判断。控訴人の主張を認めていません(8頁)。

   --------------------

■コメント

原審の判断が基本的には維持されていますが、控訴審以降での解除が認められています。