最高裁判所HP 知的財産裁判例集より

「TRIPP TRAPP」子供用椅子不競法事件(対Noz)上告審

最高裁令和8.4.24令和7(受)356不正競争行為差止等請求事件PDF

最高裁判所第二小法廷
裁判長裁判官 岡村和美
裁判官    三浦 守
裁判官    尾島 明
裁判官    高須順一

*裁判所サイト公表 2026.4.24
*キーワード:tripptrapp、純粋美術、応用美術、著作物性、大量生産品、量産実用品、意匠法

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■事案

量産されて日常生活の中で実用に供されることが予定されている物品(幼児用椅子)の著作物性が争点となった事案の上告審

上告人(控訴人、1審原告)  :工芸デザイン権利保有会社、家具製造販売会社
被上告人(被控訴人、1審被告):家具製造販売会社

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■結論

上告棄却

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■争点

条文 著作権法2条1項1号、2条2項、10条1項4号、意匠法2条1項

1 量産実用品の著作物性

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■事案の概要

『1 原審の適法に確定した事実関係の概要は、次のとおりである。
(1) 上告人ストッケ社は、上告人オプスヴィック社から許諾を得て、製品名を「TRIPP TRAPP」とする別紙製品目録記載の子供用の椅子(以下「本件椅子」という。)を製造販売しており、本件椅子の世界累計販売台数は1400万台に上る。
(2) 本件椅子の形状は、上記目録の「形状」欄記載のとおりである。
(3) 被上告人は、原判決別紙被告製品目録記載の各製品を製造販売等している。
2 本件は、上告人らが、本件椅子は、上告人オプスヴィック社が著作権を有する著作物であり、上告人ストッケ社が独占的利用権に基づいて製造販売しているものであって、被上告人による上記各製品の製造販売等が本件椅子に係る上告人らの複製権や独占的利用権を侵害しているなどと主張し、被上告人に対し、損害賠償等を求める事案である。』(1頁)

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■判決内容

<争点>

1 量産実用品の著作物性

最高裁は、量産実用品の著作物性について、意匠法の存在意義や著作権法(著作者人格権、長期の保護期間)での保護による権利関係の複雑化への懸念(意匠法の目的の阻害のおそれ)から、量産実用品に関しては、直ちに美術の範囲に属する著作物に当たると解釈することはできないと言及。
その上で、
「量産実用品の全体又は部分における形状等が、観念上、機能に由来する構成とは別個に、思想又は感情の創作的な表現として把握することができるものである場合には、当該量産実用品の全体又は部分は、著作権法2条1項1号にいう著作物のうち、美術の範囲に属するものに当たるというべきである。」と説示。
本件へのあてはめとして、略L字型のデザイン部分について、
「子供用の椅子としての機能に由来する構成である脚、座面板及び足置板の配置による形状が美感を起こさせるものであることを基礎付ける事情にすぎない。そして、本件椅子の全体又は部分における形状等は、子供用の椅子としての機能に由来する構成としてしかこれを把握することができず、当該構成とは別個に、思想又は感情の創作的な表現として把握することができるものではない。よって、本件椅子は、著作物に当たるとはいえない。」
と判断。
結論として、棄却の判断をした原審の判断を是認しています。

なお、尾島明裁判官の補足意見が付されています。

『原判決は、「原告製品のような実用品の形状等の創作的表現について著作物性が認められるのは、それが実用的な機能を離れて独立の美的鑑賞の対象となるような部分を含む場合又は当該実用品が専ら美的鑑賞目的のために制作されたものと認められるような場合に限られる」としている。一方、法廷意見は、「量産実用品の全体又は部分における形状等が、観念上、機能に由来する構成とは別個に、思想又は感情の創作的な表現として把握することができるものである場合」とし、「美的鑑賞」という語を用いていない。その趣旨は、本件で問題になっているのは、美術の著作物該当性であり、また意匠の定義の中に「視覚を通じて美感を起こさせるもの」という要素があることから(意匠法2条1項)、何らかの「美」の存在が措定されるものではあるが、「美的鑑賞」の語からはあたかも高度な創作性や芸術性が必要であるかのような誤解が生じかねず、また、そもそも美的な芸術としての鑑賞に値するか否かを裁判所が判断するのは不適当と思われるからである。
 法廷意見のいう「量産実用品の全体又は部分における形状等が、観念上、機能に由来する構成とは別個に、思想又は感情の創作的な表現として把握することができるものである場合」という要件も、抽象度が高いものであるが、法廷意見が本件椅子についてその当てはめの判断を行っているように、その要件の具体的適用については、今後様々な事例の積み重ねに期待することとなろう。』
(6頁以下)


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■コメント

実用的な幼児用椅子のデザインが著作権で保護される可能性を認めた平成27年知財高裁判決は当時、衝撃的でしたが、時を経て、最高裁でシンプルな分離評価基準が示されました。補足意見からすると、椅子のデザインの著作権法での保護については、北欧デザインのレベルのものでは困難で、結局のところ岡本太郎の「坐ることを拒否する椅子」くらいのものでないと難しそうです。

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■参考判例


一審
東京地裁令和5.9.28令和3(ワ)31529不正競争行為差止等請求事件
判決文

控訴審
知財高裁令和6.9.25令和5(ネ)10111不正競争行為差止等請求控訴事件
判決文
要旨

「TRIPP TRAPP」椅子形態模倣事件(対カトージ)控訴審
知財高裁平成27.4.14平成26(ネ)10063著作権侵害行為差止等請求控訴事件
判決文
要旨

「TRIPP TRAPP」椅子形態模倣事件(対アップリカ)
東京地裁平成22.11.18平成21(ワ)1193著作権侵害行為差止請求事件
判決文
別紙