最高裁判所HP 知的財産裁判例集より

木枯し紋次郎キャラクター事件(控訴審)

知財高裁令和7.9.24令和6(ネ)10007著作権侵害差止等請求控訴事件PDF
要旨

知的財産高等裁判所第3部
裁判長裁判官 中平 健
裁判官    今井弘晃
裁判官    水野正則

*裁判所サイト公表 2025.10.--
*キーワード:消滅時効、著作物性、複製、翻案、公衆送信権、商品等表示性、キャラクター、二次的著作物、アイデア、商品等表示

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■事案

被控訴人が、ラベルや外袋に特定の図柄を用いた商品を製造し、この商品の画像をウェブサイトに掲載したことが、小説を原作としたテレビドラマに係る著作権(翻案権、公衆送信権)の侵害に当たるとして、控訴人らの被控訴人に対する差止請求及び損害賠償請求を一部認容した事例

控訴人(1審原告) :故小説家相続人訴訟承継人、著作権管理会社ら
被控訴人(1審被告):食品製造販売会社

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■結論

原判決変更

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■争点

条文 著作権法28条、27条、23条、26条の2、不正競争防止法2条1項1号

1 著作権侵害の有無
2 不正競争該当性
3 亡B、亡A及び控訴人らの許諾の有無
4 権利濫用又は権利失効の原則の適用の有無
5 消滅時効
6 損害論
7 差止め及び廃棄の必要性

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■事案の概要

『亡笹沢左保ことBは、「紋次郎」という名の渡世人を主人公とする「木枯し紋次郎」シリーズの小説(以下「本件小説」という。)を執筆し、本件小説を原作とする漫画、テレビドラマ及び映画が制作された。亡Aは亡Bの妻であり、控訴人X1及び控訴人X2は亡Bと亡Aの間の子であり、控訴人X3及び控訴人X4は亡Aの養子である。亡Bが有した本件小説の著作権は、亡Bが平成14年(2002年)10月21日に死亡した後は、遺産分割により亡Aが取得した。控訴人会社は、亡Aから、亡Bの著作物の独占的利用の許諾を受けた。』

『本件の第1審は、亡A及び控訴人会社が、被控訴人が原判決別紙「被告図柄目録」記載の図柄を、別紙1「被控訴人商品目録」各項の「商品名」の箇所に記載された名称を有し、同各項に掲載された写真の容器又は包装を用いた商品(以下、これらを併せて「被控訴人商品」という。)の外装(ラベル又は外袋)に付して製造販売し、同商品の画像をウェブサイトに掲載することは、亡Aが取得した本件小説、本件小説を原作とする漫画、テレビドラマ又は映画に係る著作権(複製権又は翻案権、公衆送信権及び譲渡権)、控訴人会社の独占的利用許諾を受けた地位を侵害するとともに、被控訴人が上記図柄を付して被控訴人商品を製造販売することは、不正競争防止法(以下「不競法」という。)2条1項1号又は2号の不正競争に当たると主張し、被控訴人に対し、著作権法112条1項、2項又は不競法3条1項、2項に基づき被控訴人商品の製造販売等の差止め及び廃棄を請求するとともに、亡A及び控訴人会社各自に対し、不法行為(著作権侵害)に基づく損害賠償請求又は不競法4条本文に基づく損害賠償請求として、1億5126万1000円及びこれに対する不法行為の後である令和5年(2023年)4月8日(訴状送達の日の翌日)から支払済みまで民法所定の年3パーセントの割合による遅延損害金の支払を求めた事案である。』

『原判決は亡A及び控訴人会社の請求をいずれも棄却したので、亡A及び控訴人会社が原判決を不服として控訴した。
 当審係属中の令和6年(2024年)8月8日に亡Aが死亡し、その相続人である控訴人X1、控訴人X2、控訴人X3及び控訴人X4が亡Aの訴訟承継人となった(以下、これらの控訴人4名を併せて「控訴人亡A訴訟承継人ら」という。)。亡Aが有していた著作権は、遺産分割により控訴人X2、控訴人X3及び控訴人X4が取得した。当審において、金銭請求につき、控訴人亡A訴訟承継人らは請求を減縮し、控訴人会社は請求を拡張し、各控訴人の請求金額は前記第1の4ないし8のとおりとなった。』
(4頁以下)

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■判決内容

<争点>

1 著作権侵害の有無

控訴審は、複製又は翻案の成否について、その意義に言及した上で、「本件テレビ作品紋次郎」の画像(本件画像)は、
「本件テレビ作品の紋次郎の画像を具体的に示すものであるから、本件画像を被控訴人図柄と対比することにより、本件テレビ作品の紋次郎の画像と被控訴人図柄の対比が明らかにされるものと認められる。そして、本件テレビ作品が本件小説の二次的著作物であることからすれば、このような本件テレビ作品の紋次郎の画像は、本件小説の二次的著作物であると認められる。」と判断。
そして、被控訴人図柄から、本件画像の創作的な表現をなす部分であり、表現上の本質な特徴をなすものと認められる4点、
(1)通常のテレビドラマや映画等で用いられるものよりも大きな三度笠をかぶっている
(2)通常のテレビドラマや映画等で用いられるものよりも長く、模様が縦縞模様である道中合羽を身に着けている
(3)細長い楊枝をくわえている
(4)長脇差を携えている
について、表現上の特徴を感得し得るかについて検討されています。

結論として、控訴審は、被控訴人図柄から本件画像の創作的な表現をなす部分であり、表現上の本質な特徴をなすものと認められる前記(1)ないし(4)の表現上の特徴をすべて感得し得るものと判断。
そして、
「被控訴人図柄は、本件テレビ作品の紋次郎の画像に依拠し、その画像の表現上の本質的な特徴の同一性を維持しつつ、具体的な表現に変更を加えて、新たに思想又は感情を創作的に表現したものであり、被控訴人図柄に接する者が本件テレビ作品の紋次郎の画像に係る表現上の本質的な特徴を直接感得することができるといえるから、被控訴人図柄は、本件テレビ作品の紋次郎の画像の翻案であると認められる。」
と判断しています(26頁以下)。

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2 不正競争該当性

結論として、不正競争行為性については、原審同様、否定されています(39頁以下)。

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3 亡B、亡A及び控訴人らの許諾の有無

被控訴人は、亡B、亡A及び控訴人らが異議を述べず権利行使をしなかったのであるから、被控訴人商品に被控訴人図柄を使用することについて、少なくとも黙示的に許諾を行った旨主張しましたが、控訴審は容れていません(40頁以下)。

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4 権利濫用又は権利失効の原則の適用の有無

控訴審は、控訴人らの被控訴人に対する権利行使について、これが権利濫用であるとか、権利失効の原則により認められないと解すべき根拠となる事情は認められないと判断しています(44頁以下)。

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5 消滅時効

結論として、控訴人らが行使している損害賠償請求権について、消滅時効の成立又は除斥期間の経過によってその一部が消滅したとは認められないと控訴審は判断しています(45頁以下)。

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6 損害論

(1)控訴人亡A訴訟承継人ら4名の損害(52頁以下)

(ア)使用料相当額損害(著作権法114条3項)

販売額10億1367万7534円×1%=1013万6775円

(イ)弁護士費用相当額損害

1名につき、25万円

(2)被控訴人会社の損害(54頁以下)

(ア)使用料相当額損害(著作権法114条3項)

販売額41億0822万2466円×1%=4108万2224円

(イ)弁護士費用相当額損害

410万円

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7 差止め及び廃棄の必要性

被控訴人商品の製造や宣伝のための画像の公衆送信の差止めの必要が認められています(56頁以下)。

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■コメント

言語の著作物である小説に登場するキャラクターについて、その著作物性の検討というよりは、テレビ番組などでの実演画像に関して、過去に例を見ない特徴のあるキャラクターであることも踏まえ、テレビ画像などの具体的な表現の創作性を検討し、被告商品図柄はテレビ画像などの二次的著作物を翻案していると控訴審は認めた結果となっています。

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■過去のブログ記事

東京地裁令和5.12.7令和5(ワ)70139著作権侵害差止請求事件
原審記事