最高裁判所HP 知的財産裁判例集より

ホテル支配人イラスト無断使用事件

大阪地裁令和7.6.5令和6(ワ)5501損害賠償請求事件PDF

大阪地方裁判所第26民事部
裁判長裁判官 松阿彌隆
裁判官    島田美喜子
裁判官    阿波野右起

*裁判所サイト公表 2025.6.19
*キーワード:イラスト、使用者責任、損害論、消滅時効、権利濫用

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■事案

ホテルの業務委託支配人がイラストの無断使用をした事案

原告:イラストレーター
被告:ホテル運営会社

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■結論

請求一部認容

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■争点

条文 著作権法114条3項、民法715条、1条3項

1 使用者責任の成否
2 消滅時効の成否
3 権利濫用の成否
4 損害論

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■事案の概要

『原告の請求((1)と(2)は選択的請求)
(1) 本件著作権を有する原告の、本件イラストを無断掲載した被告に対する、複製権及び公衆送信権侵害の不法行為(民法709条)に基づく損害賠償金及びこれに対する不法行為の後日から支払済みまでの遅延損害金の支払請求
(2) 本件イラストを無断掲載した本件支配人又は本件従業員の各使用者である被告に対する、複製権及び公衆送信権侵害の不法行為(民法715条1項)に基づく(1)と同額の損害賠償金及び遅延損害金の支払請求』
(1頁以下)

<経緯>

H27.10 宿泊予約サイト「じゃらん」のページにイラスト掲載
R05.06 掲載削除
R06.06 本訴提起

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■判決内容

<争点>

1 使用者責任の成否

裁判所は、本件支配人又は本件従業員が本件イラストがいわゆるフリー素材(無料イラスト)であるものと誤信して本件掲載行為に及んでいるとして、過失による著作権(複製権、公衆送信権)侵害性を肯定。
その上で、被告と本件支配人等との関係について、被告に著作権侵害に関する使用者責任(民法715条1項)を肯定しています(7頁以下)。

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2 消滅時効の成否

被告の消滅時効の主張を裁判所は認めていません(9頁)。

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3 権利濫用の成否

被告は、原告が令和5年6月の被告に対する請求より何年も前から本件イラストの掲載を知っていたにもかかわらず、これを放置していながら本訴請求をしたことは、権利濫用に当たり許されないと主張しましたが、裁判所は被告の主張を認めていません(9頁)。

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4 損害論

(1)使用料相当額損害 18万円
(2)弁護士費用相当額損害 1万8000円

合計19万8000円(9頁以下)

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■コメント

ホテルと支配人が業務委託契約(準委任契約)関係にあるなかでのホテル店舗運営(販促活動)上での著作権侵害行為について、民法上の使用者責任の成否が争点の1つとなった事案となります。