最高裁判所HP 知的財産裁判例集より
勝ち馬予想情報プログラム事件(控訴審)
知財高裁令和7.3.25令和5(ネ)10057損害賠償等請求控訴事件PDF
知的財産高等裁判所第2部
裁判長裁判官 清水 響
裁判官 菊池絵理
裁判官 頼 晋一
*裁判所サイト公表 2025.6.13
*キーワード:営業秘密、プログラム、著作物性
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■事案
勝ち馬予想情報プログラムの著作物性、営業秘密性などが争点となった事案の控訴審
控訴人(1審原告) :競馬情報提供会社
被控訴人(1審被告):競馬情報提供会社、原告元従業員ら
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■結論
一部変更
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■争点
条文 著作権法2条1項1号、不正競争防止法2条1項4号、2条6項
1 不正競争防止法関連の争点
2 著作権法関連の争点
3 損害論
4 本件分配契約及びその債務不履行の有無
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■事案の概要
『本件は、原告が、被告らに対し、不競法違反又は著作権法違反を主張して、次の各請求をする事案である。すなわち、原告は、原審において、次の各請求をした(このほか、原告は、被告Y1のブログに関する削除や決済対応プログラムの使用禁止等を求める請求もしていたが、これらの請求は、当審において取り下げられた。)。
ア−1 被告らが、共謀の上、被告Y1及び被告Y2において、原告の営業秘密である本件情報が記録された本件パソコン等を事務所から持ち出し、不正の利益を得る目的で本件情報を使用するなどした行為が、不正競争行為(営業秘密不正取得行為・図利加害目的使用行為、不競法2条1項4号又は7号)に該当すると主張して、被告らに対し、不競法3条1項に基づき、本件情報を競馬レース情報の作成・販売に使用・開示すること等の差止めを求めるとともに(控訴の趣旨4項〔なお、5項の請求のうち、不競法に基づく請求部分は、実質的に4項の請求に包摂される。〕)、不競法3条2項に基づき、本件情報に関するプログラム及びデータが記録された記録媒体からの当該プログラム及びデータの削除(控訴の趣旨7項)、並びに本件情報3及び本件情報4に関するデータが記載された印刷物の廃棄を求め(控訴の趣旨8項)、
ア−2 被告会社において、原告が著作権を有する本件プログラムを利用して競馬新聞を作成し顧客に提供した行為が、著作権侵害行為(複製権・翻案権、送信可能化権、公衆送信権、著作権法21条、23条、27条、2条1項15号、7号の2、9号の5)に該当すると主張して、被告らに対し、著作権法112条1項に基づき、本件プログラムを競馬レース情報の作成・販売に使用・開示することの差止めと、本件プログラムの複製・翻案・送信可能化・公衆送信の差止めを求めるとともに(控訴の趣旨2項、3項、5項〔本件プログラムに係る部分〕)、著作権法112条2項に基づき、本件プログラムを記録した記録媒体からの当該プログラムの削除(控訴の趣旨6項)を求め、
イ−1 被告会社、被告Y1及び被告Y2が、共謀の上、被告会社が原告に分配すべき売上金の一部を隠匿するなどして原告への支払を免れさせたなどと主張して、被告会社、被告Y1及び被告Y2に対し、共同不法行為に基づく損害賠償請求(民法709条、719条1項)として、1598万7468円及びこれに対する不法行為後の日である令和2年8月27日から支払済みまで改正前民法所定の年5分の割合による遅延損害金の連帯支払を求め、
イ−2 前記ア−1、ア−2の不正競争行為又は著作権侵害行為により損害を被ったとして、被告らに対し、不競法4条又は民法709条に基づく損害賠償請求として、3960万8184円及びこれに対する前同日から支払済みまで改正前民法所定の年5分の割合による遅延損害金の連帯支払を求める
事案である。』
『原審は、原告の請求をいずれも棄却したため、原告は、これを不服として、本件控訴を提起した。』
『原告は、当審において、請求を一部減縮したほか、前記(2)イ−1の請求について、被告Y3の主体的な関与が判明したとして前記(2)イ−1及び(2)イ−2の損害賠償請求を次のウ−1とおり整理(被告Y3に対する損害賠償請求の追加、損害の計算方法の変更、請求する損害の拡張)するとともに、被告会社に対する予備的請求として、次のウ−2を追加した。すなわち、
ウ−1 被告らは、共謀の上、利益の隠匿による請求権侵害の不法行為並びに不正競争行為及び著作権侵害行為に及んだと主張して、被告らに対し(被告会社に対しては主位的請求として)、民法709条、719条、不競法5条2項・3項、著作権法114条2項・3項に基づく損害賠償請求として、2億4440万8819円、並びに年ごとの各内金に対する遅延損害金の起算日及び利率について、改正法の施行日(令和2年4月1日)前の分については同年3月31日から支払済みまで改正前民法所定の年5分の割合による、施行日後の分については各年最終日(令和6年分については同年8月末日)から支払済みまで民法所定の年3%の割合による、各遅延損害金の連帯支払(控訴の趣旨9項)を求め、
ウ−2 被告会社は、原告との間で、「ハイブリッド競馬新聞」について売上の75%相当額を、「マキシマム競馬新聞」について売上の70%相当額を、原告に配分する契約を締結していたにもかかわらず、同利益分配相当額を支払わないなどと主張して、被告会社に対する予備的請求として、債務不履行損害賠償として、1億8052万7846円、並びに年ごとの各内金に対する遅延損害金の起算日及び利率について、改正法の施行日(令和2年4月1日)の前後による区分に応じて施行日前の分については同年3月17日から支払済みまで改正前民法所定の年5分の割合による、施行日後の分については別表1の「原告請求額合計」項の「予備的請求」の各「遅延損害金起算日」から支払済みまで民法所定の年3%の割合による、各遅延損害金の支払(控訴の趣旨10項)を求める
ものとした。』
(3頁以下)
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■判決内容
<争点>
1 不正競争防止法関連の争点
(1)本件情報は営業秘密に該当するか
本件情報の営業秘密性(不正競争防止法2条6項)について、控訴審は、IDM指数作成プログラムやIDM構成要素データ、デジタル競馬新聞作成システムプログラム、顧客管理名簿の営業秘密性を結論として肯定しています(29頁以下)。
(2)不正の手段性(2条1項4号)、図利加害目的性(同項7号)、共同不法行為性の有無
控訴審は、結論として、被告らは共謀の上、令和元年9月及び10月における被告会社の売上から原告への分配金の支払を免れさせたという利益隠蔽に係る共同不法行為をしていること、また、同年11月以降は、共謀の上、不正の利益を得る目的又は原告に損害を加える目的で原告の営業秘密(本件情報)を使用したという営業秘密の使用に係る不競法違反行為をしたものと認められると判断しています(36頁以下)。
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2 著作権法関連の争点
(1)本件プログラムは原告の著作物として保護されるか
控訴審は、本件プログラムの著作物性(著作権法2条1項1号)について、結論として、本件プログラムがExcel及びAccessのマクロ計算を利用する指令の表現自体、指令の表現の組合せ、表現順序から成るプログラム全体の選択の幅において、ありふれた表現ではなく、作成者の個性が表れているものとまで認めることはできないと判断。本件プログラムが原告の著作物として保護されるものということはできず、原告の被告らによる著作権侵害行為に基づく請求はいずれも理由がないと判断しています(47頁以下)。
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3 損害論
(1)利益隠蔽に係る共同不法行為
623万3908円(47頁以下)
(2)営業秘密の使用に係る不競法違反行為(不正競争防止法5条2項)
1億3116万5548円(別表2)
(1)(2)の合計 1億3739万9456円(46頁以下)
(3)弁護士費用相当額損害
1300万円
(1)(2)(3)の合計 1億5039万9456円
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4 本件分配契約及びその債務不履行の有無
控訴審は、結論として、本件分配契約は、令和元年10月28日に原告に到達した通告書において、被告会社の代理人弁護士が利益支払を拒絶する旨の通知をしたことにより、終了したと認めるのが相当であると判断。被告会社の債務不履行の存在を認めていません(51頁以下)。
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■コメント
退職従業員との紛争事案の控訴審となります。原審では棄却の判断でしたが、控訴審では著作物性の判断については、原審同様、否定しており、不正競争防止法の争点について一部変更の判断となっています。
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■過去のブログ記事
大阪地裁令和5.4.24令和2(ワ)4948損害賠償等請求事件
原審記事
勝ち馬予想情報プログラム事件(控訴審)
知財高裁令和7.3.25令和5(ネ)10057損害賠償等請求控訴事件PDF
知的財産高等裁判所第2部
裁判長裁判官 清水 響
裁判官 菊池絵理
裁判官 頼 晋一
*裁判所サイト公表 2025.6.13
*キーワード:営業秘密、プログラム、著作物性
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■事案
勝ち馬予想情報プログラムの著作物性、営業秘密性などが争点となった事案の控訴審
控訴人(1審原告) :競馬情報提供会社
被控訴人(1審被告):競馬情報提供会社、原告元従業員ら
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■結論
一部変更
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■争点
条文 著作権法2条1項1号、不正競争防止法2条1項4号、2条6項
1 不正競争防止法関連の争点
2 著作権法関連の争点
3 損害論
4 本件分配契約及びその債務不履行の有無
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■事案の概要
『本件は、原告が、被告らに対し、不競法違反又は著作権法違反を主張して、次の各請求をする事案である。すなわち、原告は、原審において、次の各請求をした(このほか、原告は、被告Y1のブログに関する削除や決済対応プログラムの使用禁止等を求める請求もしていたが、これらの請求は、当審において取り下げられた。)。
ア−1 被告らが、共謀の上、被告Y1及び被告Y2において、原告の営業秘密である本件情報が記録された本件パソコン等を事務所から持ち出し、不正の利益を得る目的で本件情報を使用するなどした行為が、不正競争行為(営業秘密不正取得行為・図利加害目的使用行為、不競法2条1項4号又は7号)に該当すると主張して、被告らに対し、不競法3条1項に基づき、本件情報を競馬レース情報の作成・販売に使用・開示すること等の差止めを求めるとともに(控訴の趣旨4項〔なお、5項の請求のうち、不競法に基づく請求部分は、実質的に4項の請求に包摂される。〕)、不競法3条2項に基づき、本件情報に関するプログラム及びデータが記録された記録媒体からの当該プログラム及びデータの削除(控訴の趣旨7項)、並びに本件情報3及び本件情報4に関するデータが記載された印刷物の廃棄を求め(控訴の趣旨8項)、
ア−2 被告会社において、原告が著作権を有する本件プログラムを利用して競馬新聞を作成し顧客に提供した行為が、著作権侵害行為(複製権・翻案権、送信可能化権、公衆送信権、著作権法21条、23条、27条、2条1項15号、7号の2、9号の5)に該当すると主張して、被告らに対し、著作権法112条1項に基づき、本件プログラムを競馬レース情報の作成・販売に使用・開示することの差止めと、本件プログラムの複製・翻案・送信可能化・公衆送信の差止めを求めるとともに(控訴の趣旨2項、3項、5項〔本件プログラムに係る部分〕)、著作権法112条2項に基づき、本件プログラムを記録した記録媒体からの当該プログラムの削除(控訴の趣旨6項)を求め、
イ−1 被告会社、被告Y1及び被告Y2が、共謀の上、被告会社が原告に分配すべき売上金の一部を隠匿するなどして原告への支払を免れさせたなどと主張して、被告会社、被告Y1及び被告Y2に対し、共同不法行為に基づく損害賠償請求(民法709条、719条1項)として、1598万7468円及びこれに対する不法行為後の日である令和2年8月27日から支払済みまで改正前民法所定の年5分の割合による遅延損害金の連帯支払を求め、
イ−2 前記ア−1、ア−2の不正競争行為又は著作権侵害行為により損害を被ったとして、被告らに対し、不競法4条又は民法709条に基づく損害賠償請求として、3960万8184円及びこれに対する前同日から支払済みまで改正前民法所定の年5分の割合による遅延損害金の連帯支払を求める
事案である。』
『原審は、原告の請求をいずれも棄却したため、原告は、これを不服として、本件控訴を提起した。』
『原告は、当審において、請求を一部減縮したほか、前記(2)イ−1の請求について、被告Y3の主体的な関与が判明したとして前記(2)イ−1及び(2)イ−2の損害賠償請求を次のウ−1とおり整理(被告Y3に対する損害賠償請求の追加、損害の計算方法の変更、請求する損害の拡張)するとともに、被告会社に対する予備的請求として、次のウ−2を追加した。すなわち、
ウ−1 被告らは、共謀の上、利益の隠匿による請求権侵害の不法行為並びに不正競争行為及び著作権侵害行為に及んだと主張して、被告らに対し(被告会社に対しては主位的請求として)、民法709条、719条、不競法5条2項・3項、著作権法114条2項・3項に基づく損害賠償請求として、2億4440万8819円、並びに年ごとの各内金に対する遅延損害金の起算日及び利率について、改正法の施行日(令和2年4月1日)前の分については同年3月31日から支払済みまで改正前民法所定の年5分の割合による、施行日後の分については各年最終日(令和6年分については同年8月末日)から支払済みまで民法所定の年3%の割合による、各遅延損害金の連帯支払(控訴の趣旨9項)を求め、
ウ−2 被告会社は、原告との間で、「ハイブリッド競馬新聞」について売上の75%相当額を、「マキシマム競馬新聞」について売上の70%相当額を、原告に配分する契約を締結していたにもかかわらず、同利益分配相当額を支払わないなどと主張して、被告会社に対する予備的請求として、債務不履行損害賠償として、1億8052万7846円、並びに年ごとの各内金に対する遅延損害金の起算日及び利率について、改正法の施行日(令和2年4月1日)の前後による区分に応じて施行日前の分については同年3月17日から支払済みまで改正前民法所定の年5分の割合による、施行日後の分については別表1の「原告請求額合計」項の「予備的請求」の各「遅延損害金起算日」から支払済みまで民法所定の年3%の割合による、各遅延損害金の支払(控訴の趣旨10項)を求める
ものとした。』
(3頁以下)
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■判決内容
<争点>
1 不正競争防止法関連の争点
(1)本件情報は営業秘密に該当するか
本件情報の営業秘密性(不正競争防止法2条6項)について、控訴審は、IDM指数作成プログラムやIDM構成要素データ、デジタル競馬新聞作成システムプログラム、顧客管理名簿の営業秘密性を結論として肯定しています(29頁以下)。
(2)不正の手段性(2条1項4号)、図利加害目的性(同項7号)、共同不法行為性の有無
控訴審は、結論として、被告らは共謀の上、令和元年9月及び10月における被告会社の売上から原告への分配金の支払を免れさせたという利益隠蔽に係る共同不法行為をしていること、また、同年11月以降は、共謀の上、不正の利益を得る目的又は原告に損害を加える目的で原告の営業秘密(本件情報)を使用したという営業秘密の使用に係る不競法違反行為をしたものと認められると判断しています(36頁以下)。
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2 著作権法関連の争点
(1)本件プログラムは原告の著作物として保護されるか
控訴審は、本件プログラムの著作物性(著作権法2条1項1号)について、結論として、本件プログラムがExcel及びAccessのマクロ計算を利用する指令の表現自体、指令の表現の組合せ、表現順序から成るプログラム全体の選択の幅において、ありふれた表現ではなく、作成者の個性が表れているものとまで認めることはできないと判断。本件プログラムが原告の著作物として保護されるものということはできず、原告の被告らによる著作権侵害行為に基づく請求はいずれも理由がないと判断しています(47頁以下)。
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3 損害論
(1)利益隠蔽に係る共同不法行為
623万3908円(47頁以下)
(2)営業秘密の使用に係る不競法違反行為(不正競争防止法5条2項)
1億3116万5548円(別表2)
(1)(2)の合計 1億3739万9456円(46頁以下)
(3)弁護士費用相当額損害
1300万円
(1)(2)(3)の合計 1億5039万9456円
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4 本件分配契約及びその債務不履行の有無
控訴審は、結論として、本件分配契約は、令和元年10月28日に原告に到達した通告書において、被告会社の代理人弁護士が利益支払を拒絶する旨の通知をしたことにより、終了したと認めるのが相当であると判断。被告会社の債務不履行の存在を認めていません(51頁以下)。
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■コメント
退職従業員との紛争事案の控訴審となります。原審では棄却の判断でしたが、控訴審では著作物性の判断については、原審同様、否定しており、不正競争防止法の争点について一部変更の判断となっています。
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■過去のブログ記事
大阪地裁令和5.4.24令和2(ワ)4948損害賠償等請求事件
原審記事