最高裁判所HP 知的財産裁判例集より

面会交流審判主張書面事件

東京地裁令和7.3.14令和3(ワ)33644等損害賠償請求、債務不存在確認請求事件、投稿記事削除請求反訴事件PDF

東京地方裁判所民事第46部
裁判長裁判官 高橋 彩
裁判官    勝又来未子
裁判官    吉川 慶

*裁判所サイト公表 2025.5.23
*キーワード:主張書面、定型書面、著作物性、虚偽事実告知、損害論

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■事案

弁護士が作成した面会交流事件に関する主張書面の著作物性などが争点となった事案

原告(反訴被告):サイト管理者
被告(反訴原告):弁護士ら

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■結論

本訴請求一部却下、一部認容、反訴一部認容

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■争点

条文 著作権法2条1項1号、32条1項、41条、不正競争防止法2条1項21号

1 訴えの適法性
2 本件各記事の掲載による不法行為の成否
3 差止めの必要性の有無
4 損害論
5 甲5記事の掲載による不正競争の成否

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■事案の概要

『本訴は、「E」と題し、URLをhttps:// 以下省略とするページをトップページとするウェブサイト(以下「本件サイト」という。)の管理及び運営をする原告が、(1)被告らに対し、本件サイトに被告らに関する記事を掲載したことに関し、不法行為に基づく損害賠償債務の不存在の確認を求めるとともに(本訴請求の趣旨(1))、(2)被告Cに対し、被告Cが同人のウェブサイトに記事を掲載したことが不正競争防止法(以下「不競法」という。)2条1項21号の不正競争に当たるとして、同法4条に基づき、損害賠償金150万円及びこれに対する不正競争行為以後の日である令和4年3月24日(訴状送達の日の翌日)から支払済みまで民法所定の年3パーセントの割合による遅延損害金の支払を求める(本訴請求の趣旨(2))事案である。』

『反訴は、(1)被告らが原告に対し、人格権に基づく侵害排除又は侵害予防請求として別紙投稿記事目録記載2から4までの各記事の削除を求め(反訴請求の趣旨(1))、(2)被告Cが原告に対し、人格権に基づく侵害排除又は侵害予防請求として同目録記載5から11までの各記事の削除を求めるとともに、同目録記載2、3及び5から11までの各記事の全部若しくは一部又は同各記事の原稿の全部若しくは一部の複製のインターネット上への掲載の差止め(反訴請求の趣旨(2)及び(3))を求め、(3)被告Cが原告に対し、同目録記載5から11までの各記事の掲載が不法行為に当たるとして、慰謝料160万円(一部請求)及びこれに対する不法行為以後の日である令和5年5月22日(同各記事の最後掲載日)から支払済みまで民法所定の年3パーセントの割合による遅延損害金の支払を求める(反訴請求の趣旨(4))事案である(以下、請求の趣旨の項数に応じ、「本訴請求(1)」などということがある。)。』
(3頁以下)

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■判決内容

<争点>

1 訴えの適法性

(1)訴訟物の特定

本訴請求(1)オについて、裁判所は、債務不存在確認の対象となる損害賠償債務が特定されているとはいえず、訴訟物の特定として不十分であると判断しています(23頁)。

(2)確認の利益

本件訴えのうち、(1)本訴請求(1)アの不存在確認請求、(2)本訴請求(1)ウのうち本件記事2から14、16及び17に係る債務の不存在確認請求、(3)本訴請求(1)エのうち本件記事11及び17に係る債務の不存在確認請求に係る部分は、適法であるものの、別紙却下部分記載の請求に係る部分は不適法であると裁判所は結論として判断しています(23頁以下)。

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2 本件各記事の掲載による不法行為の成否

(1)本件記事1の掲載による被告Cの本件主張書面案の著作権侵害の成否

本件記事1は、原告による表題や文章部分の複数回の改訂を経ながら本件サイトに掲載されたもので、被告C作成の本件主張書面案の全文が含まれているものでした。
裁判所は、本件主張書面の著作物性(著作権法2条1項1号)について、
「本件主張書面案は、子の別居親が子との宿泊付き面会交流及び多数回・長時間の面会交流を求める面会交流審判事件において、相手方である同居親が提出することを想定した主張書面の例を示すものであり、相手方である同居親が相当と考える面会交流の回数・内容を主張するとともに、その理由について過去の具体的な経緯も踏まえて詳細に説明する内容となっており、体裁こそ定型的なものであるものの、その内容は何らかの定型があるものではなく、主張の根拠となる事情や判断に当たり考慮すべき事情等として記載する事項の取捨選択及びそれぞれの具体的表現等には被告Cの個性が表れており、思想又は感情を創作的に表現した著作物に当たると認められる。」
として、その著作物性を肯定しています。

なお、原告は、本件主張書面案の掲載は、32条1項の引用や41条の時事の事件の報道のための引用にあたると主張しましたが、裁判所は認めていません(27頁以下)。
結論として、裁判所は、原告が、本件サイトに本件主張書面案の全文を含む本件記事1を掲載したことは、被告Cの著作権(公衆送信権)侵害に当たると判断しています。

(2)名誉権及び名誉感情侵害による不法行為の成否

裁判所は、結論として、(1)本件記事2及び4の全部、本件記事3の一部が被告らの名誉権を侵害する、(2)本件記事5乃至10の全部が被告Cの名誉権を侵害する、本件記事11の全部が被告らの名誉権を侵害する、(3)本件記事12乃至14及び16は被告Cの名誉権を侵害する、本件記事17は被告らの名誉権を侵害する、いずれもそうした表現を含むものと認めています(28頁以下)。

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3 差止めの必要性の有無

(1)本件記事2乃至11の削除の必要性

被告らは本件記事2及び4について、被告Cは本件記事5乃至11について、人格権に基づき、削除を求めることができると裁判所は判断しています(53頁以下)。

(2)本件記事2、3及び5乃至11の掲載の差止めの必要性

裁判所は、本件記事2、3及び5乃至11の削除命令を実効あらしめるためには、これら記事の削除に加えて、本件記事2、3及び5乃至11の全部又は一部を新たにインターネット上に掲載することについても差止めを認める必要があると判断しています(55頁以下)。

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4 損害論

原告の本件記事1、5乃至14、16及び17の本件サイトへの掲載により被告らに生じた損害額について、

(1)本件記事1の掲載による被告Cの本件主張書面案(著作権侵害)
   本件主張書面案の使用料相当額 50万円

(2)本件記事5乃至14、16及び17(名誉権及び名誉感情侵害)
   被告Cの慰謝料額 合計100万円
   
と裁判所は認定しています(56頁以下)。なお詳細は、別紙「認定額一覧」に依ります。

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5 甲5記事の掲載による不正競争の成否

裁判所は、甲5記事の内容が虚偽であると認めず、甲5記事の掲載は不正競争防止法2条1項21号の不正競争に当たらないことから、原告の被告Cに対する不競法違反を理由とする損害賠償請求には理由がないと判断しています(58頁以下)。

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■コメント

弁護士が面会交流に関するガイド資料を作成・販売しており、購入者に特典として面会交流事件に関する主張書面案が提供されていました。この主張書面案の著作物性などが争点となった事案となります。