最高裁判所HP 知的財産裁判例集より

演芸小道具事件(控訴審)

知財高裁令和7.4.24令和6(ネ)10079損害賠償請求控訴事件PDF

知的財産高等裁判所第2部
裁判長裁判官 清水 響
裁判官    菊池絵理
裁判官    頼 晋一

*裁判所サイト公表 2025.5.22
*キーワード:演芸、小道具、著作物性、氏名表示権

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■事案

演芸用小道具の著作物性や著作者性が争点となった事案の控訴審

控訴人(1審原告) :小道具制作者
被控訴人(1審被告):演芸家

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■結論

控訴棄却

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■争点

条文 著作権法2条1項1号、19条1項

1 本件各小道具の著作物性
2 原告の著作者性
3 氏名表示権侵害性
4 本件合意の成否

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■事案の概要

『本件は、原告が、演芸家として活動する被告に対し、原告は本件各小道具を制作して被告に提供したとした上で、(1)本件各小道具は原告が著作した著作物であり、被告が著作者名を表示しなかったことが著作者人格権(氏名表示権)侵害に当たると主張して、不法行為に基づき、慰謝料500万円及びこれに対する不法行為の後である令和4年7月12日(訴状送達日の翌日)から支払済みまで民法所定の年3分の割合による遅延損害金の支払、並びに著作権法115条に基づく名誉回復措置として謝罪文の掲載を求めるとともに、(2)原告が本件各小道具の制作者である旨を被告が公表する旨の合意(本件合意)があったと主張して、債務不履行(履行遅滞)に基づき、前記同額の損害賠償金の支払(単純併合)を求める事案である。』

『原審が、(1)原告は著作者名を表示しないことに同意したと認められるから、氏名表示権の侵害は認められない、(2)原被告間で本件合意が成立したとは認められないとして、原告の請求をいずれも棄却したところ、原告がこれを不服として控訴した。』
(2頁)

<経緯>

H26.08 被告がライブ用小道具制作を原告に発注

被告演芸 :被告が演じた、段ボール等で立体的に制作された小道具を使用するコント等のお笑いの演芸

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■判決内容

<争点>

1 本件各小道具の著作物性

控訴審は、本件各小道具の著作物性について、
「本件各小道具は、演芸に使用する目的で制作されたものではあっても、それぞれ手造りされたものであって、他に同一のものは存在しない。その意味において、本件各小道具は、一品物として制作者の個性を反映したものである。それが一般に想起される物や実在する物の形状に基づいたり、既存のイラストを参照したりして制作されたものであったとしても、デッドコピーではない以上、現実に三次元の物体として具体的に表現するに当たっては、形状、色彩等につき様々な選択肢がある。そして、選択された表現には制作者の個性が反映されており、視覚を通じて一定の美観を起こさせる一方、工業上利用することができる意匠として利用されることは予定されていないから、本件各小道具について美術の著作物性を否定することはできないというべきである。」

として結論として、本件各小道具すべての著作物性を肯定しています(12頁以下)。

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2 原告の著作者性

控訴審は、制作の経緯などを踏まえ、結論として、原告が本件各小道具の制作者であり、かつ、著作者であると判断しています(15頁以下)。

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3 氏名表示権侵害性

原告は、被告が本件各小道具を被告演芸に使用して公衆に提示しながら、被告演芸後も長期間にわたり、本件各小道具の制作者が原告であることを表示しなかったことが、原告の氏名表示権を侵害する旨主張しました。
控訴審は、この点について、本件各小道具(本件小道具1を除く)が被告演芸において、それぞれ提示される際、制作者である原告の氏名を表示しないことについて、当時、原告が同意を与えていたものと判断。
結論として、被告による氏名表示権侵害性を否定しています(17頁以下)。

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4 本件合意の成否

小道具の制作者が原告であることを被告が公表するとの本件合意の成否について、控訴審は、結論として、その成立を否定しています(21頁以下)。

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■コメント

原審の棄却の判断が控訴審でも維持されています。