最高裁判所HP 知的財産裁判例集より

映画「天空の花」脚本改変事件(控訴審)

大阪高裁令和7.2.27令和6(ネ)1431著作者人格権侵害差止等請求控訴事件PDF

大阪高等裁判所第8民事部
裁判長裁判官 森崎英二
裁判官    久末裕子
裁判官    山口敦士

*裁判所サイト公表 2025.3.12
*キーワード:共同脚本、映画、同一性保持権

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■事案

映画の脚本の制作にあたり脚本家間で齟齬が生じた事案の控訴審

控訴人兼被控訴人(1審原告):脚本家
被控訴人兼控訴人(1審被告):映画脚本家

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■結論

1審被告敗訴部分取り消し、1審原告控訴棄却

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■争点

条文 著作権法20条

1 1審原告の著作者人格権(同一性保持権)侵害の有無

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■事案の概要

『本件は、一審原告が作成した脚本原稿(第10稿)を、一審被告が、一審原告に無断でその内容を改変して第12稿を作成し、一審原告が有する第10稿についての著作者人格権(同一性保持権)を侵害したと主張して、一審原告が、一審被告に対し、(1)不法行為に基づく損害賠償として、110万円及びこれに対する訴状送達の日の翌日である令和5年2月3日から支払済みまで民法所定の年3分の割合による遅延損害金の支払を求め、(2)著作権法115条に基づく名誉回復措置として、原判決別紙謝罪広告目録記載の謝罪広告の掲載を求め、(3)著作者人格権(同一性保持権)に基づき第10稿を変更して作成された第12稿を脚本として制作された原判決別紙作品目録記載の映画(本件映画)の上映等の差止めを求めた事案である。』

『なお、一審原告は、併せて、本件映画の映画監督であるX3、X3が代表者を務める本件映画の制作プロダクションであるドッグシュガー及び本件映画の配給会社である太秦を一審被告の共同被告として本件訴訟を提起し、X3については一審被告と協議して第12稿を作成させ映画監督として本件映画を制作したことが、ドッグシュガーについては第12稿に基づいて本件映画を制作したことが、いずれも一審原告の同一性保持権を侵害し、太秦については本件映画を配給していることが一審原告の上映権、複製権を侵害するほか同一性保持権を侵害していると主張して、これらの者に対し、一審被告とともに、上記(1)の損害賠償の連帯支払及び上記(3)の上映等の差止めを求め、さらにドッグシュガーに対しては、一審被告とともに上記(2)の謝罪広告の掲載のほか、脚本料として適正額からの不足額及び遅延損害金の支払を求めていたが、原審における口頭弁論終結後、X3、ドッグシュガー及び太秦との間で和解し、また、一審被告に対する上記(3)の差止めに係る訴えを取り下げた。』

『原審は、一審原告の上記(1)の不法行為に基づく損害賠償請求については、一審被告による第10稿から第12稿への変更のうちの本件変更が一審原告の同一性保持権の侵害に当たると認めて、不法行為に基づき慰謝料5万円及び弁護士費用5000円並びにこれらに対する遅延損害金の支払を求める限度で理由があるとして認容し、その余を棄却し、一審原告の上記(2)の謝罪広告掲載請求については、理由がないとしてこれを棄却した。』

『これに対し、一審被告は、敗訴部分を不服として控訴を提起して前記第1の2記載の裁判を求め、他方、一審原告は、前記第1の1記載のとおり、上記(1)の不法行為に基づく損害賠償請求についての敗訴部分のみにつき控訴を提起したので、当審での審判の対象は、上記(1)の不法行為に基づく損害賠償請求のみである。』
(2頁以下)

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■判決内容

<争点>

1 1審原告の著作者人格権(同一性保持権)侵害の有無

結論として、裁判所は、1審原告が作成した第10稿に本件変更を加えて第12稿を作成した1審被告の行為は、1審原告が本件映画の脚本制作のため同意している行為の範囲内で行われたと評価できると判断。
その限度において本件変更は1審原告の意に反する改変ではなく、著作者人格権(同一性保持権)侵害には当たらないとして、著作者人格権(同一性保持権)侵害を理由とする1審原告の1審被告に対する不法行為に基づく損害賠償請求は理由がないと判断しています(7頁以下)。

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■コメント

原審と異なり、控訴審では脚本原稿の変更に関する原告の同意が認定されています。

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■過去のブログ記事

大阪地裁令和6.5.30令和5(ワ)531著作者人格権侵害差止等請求事件
原審記事