最高裁判所HP 知的財産裁判例集より

臨床看護書籍事件(控訴審)

大阪高裁令和6.11.29令和6(ネ)1544著作権侵害差止請求控訴事件PDF

大阪高等裁判所第8民事部
裁判長裁判官 森崎英二
裁判官    奥野寿則
裁判官    山口敦士

*裁判所サイト公表 2025.1.22
*キーワード:学会、論文、草案、草稿、同一性

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■事案

看護に関する完成した論文と推敲過程の論文草稿の同一性などが争点となった事案の控訴審

控訴人(1審被告) :看護研究者
被控訴人(1審原告):看護研究者

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■結論

原判決取消、被控訴人請求棄却

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■争点

条文 著作権法21条

1 一審原告は、原告表の共有著作権を喪失したか

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■事案の概要

『本件は、被控訴人(以下「一審原告」という。)が、控訴人(以下「一審被告」という。)を編著者とする被告書籍の発行により、一審原告において他の者と共同で作成した未公表の学術論文の草稿に掲載した原告表に係る一審原告の共有著作権(複製権又は翻案権)が侵害されたと主張して、一審被告に対し、著作権法112条1項に基づき、被告表を掲載する被告書籍の発行等の差止めを求める事案である。
 原審が一審原告の請求を全部認容したところ、一審被告が控訴を提起した。』
(1頁)

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■判決内容

<争点>

1 一審原告は、原告表の共有著作権を喪失したか

一審原告は、原告表が甲5論文に掲載された甲5表とは異なる著作物であると主張し、原審では、甲3論文案(原告表は甲3論文案に掲載)と甲5論文は、論文の草稿と完成した論文との関係にあるが、別個の著作物と解すべきであると判断されていました。
この点について、控訴審は、原告表と甲5表は表現は実質的に同一であって、原告表が著作物であるとしても、甲5表は原告表の複製物にすぎず、それらは異なる著作物であるとはいえないと判断。
その上で、控訴審は、「一審原告を含む本件共同著作者は、甲5論文中に甲5表を含めることによって、甲5論文作成前に作成した原告表を甲5論文に含めたものということができるから、その甲5論文を日本教育工学会に投稿し、同学会論文誌への採録が決定されたことにより、原告表が著作物であって著作権が認められるとしても、原告表の著作権は甲5論文の著作権と一体のものとして同学会に移転し、その結果、本件共同著作者のうちの一人である一審原告は、その著作権を喪失したということになる。」と判断。
原審では、一審原告が原告表の共有著作権を喪失したとは認められないと判断していましたが、控訴審ではこれと異なり、喪失したと判断をしています。

結論として、一審原告の請求は棄却すべきであると判断しています(4頁以下)。

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■コメント

原審と異なる判断となっています。完成した論文と推敲過程の論文草稿の一体性について評価が分かれました。

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■過去のブログ記事

大阪地裁令和6.6.27令和5(ワ)3064著作権侵害差止請求事件
原審記事