最高裁判所HP 知的財産裁判例集より

漫画無断配信取締役責任追及事件

東京地裁令和6.12.20令和4(ワ)70097損害賠償請求事件PDF
添付文書1
添付文書2
添付文書3

東京地方裁判所民事第29部
裁判長裁判官 國分隆文
裁判官    間明宏充
裁判官    木村洋一

*裁判所サイト公表 2025.1.20
*キーワード:準拠法、通則法、取締役の責任、漫画、配信

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■事案

漫画の無断配信について個人あるいは法人役員としての責任の成否が争点となった事案

原告:漫画家ら
被告:米国法人代表者

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■結論

請求棄却

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■争点

条文 通則法17条、会社法429条1項

1 不法行為の成否
2 現任の取締役としての責任の有無
3 退任した取締役としての責任の有無

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■事案の概要

『本件は、原告らが、被告に対し、被告自ら又は被告が代表者兼取締役として登記されている法人が、インターネット上に開設した別紙ウェブサイト目録記載の各ウェブサイト(以下、これらを総称して「本件サイト」という。)に、原告らの著作物である別紙著作物目録1ないし3記載の各漫画(以下、これらを総称して「本件漫画」という。)を許諾なく掲載し、原告らの著作権(公衆送信権)を侵害したと主張して、民法709条(主位的請求)及び会社法429条1項(第1次予備的請求として現任の取締役としての責任、第2次予備的請求として退任した取締役としての責任)に基づく損害賠償として、
 原告Aiにつき、損害金95万8869円(一部請求)及びこれに対する令和元年9月17日(別紙損害一覧表の「1 原告Ai」の「掲載日」欄記載の日付のうち最も後の日)から支払済みまで民法所定年3パーセントの割合による遅延損害金、
 原告Biにつき、損害金430万6596円(一部請求)及びこれに対する平成30年3月12日(別紙損害一覧表の「2 原告Bi」の「掲載日」欄記載の日付のうち最も後の日)から支払済みまで民法所定年3パーセントの割合による遅延損害金、
 原告Ciにつき、損害金793万4535円(一部請求)及びこれに対する令和3年4月15日(別紙損害一覧表の「3 原告Ci」の「掲載日」欄記載の日付のうち最も後の日)から支払済みまで民法所定年3パーセントの割合による遅延損害金
の各支払を求める事案である。』
(1頁以下)

<経緯>

H14 米国ハワイ州でレッド社設立
H15 被告が本件口座開設
H27 各サイトで原告らの作品が掲載
R03 本件サイト1、2閉鎖

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■判決内容

<争点>

1 不法行為の成否

(1)準拠法について

結論として、裁判所は、主位的請求については、法の適用に関する通則法17条本文により、加害行為の結果が発生した地である日本法を適用すべきであると判断しています(19頁以下)。

(2)本件サイトに本件漫画を掲載したのは本件口座の管理者であるか否かについて

結論として、裁判所は、本件口座の管理者が本件サイトに本件漫画を掲載したと認めることはできないと判断しています(20頁)。

(3)レッド社の法人格が形骸化しているか否かについて

原告らは、レッド社の法人格は形骸化しており、外形的にレッド社の活動とされるものは、実質的には代表者である被告による個人営業によるものであると主張しました。
この点について、裁判所は、結論として、レッド社の法人格が形骸化しているということはいえず、外形的にレッド社の活動とされるものが被告の個人営業によるものであるとの原告らの主張を採用することはできないと判断しています(21頁以下)。

(4)被告が個人として本件サイトへの本件漫画の掲載に関与したか否かについて

裁判所は、結論として、本件全証拠によっても、被告が個人として本件サイトへの本件漫画の掲載に関与したと認めることはできないと判断しています(22頁以下)。

結論として、主位的請求である民法709条に基づく原告の損害賠償請求は理由がないと裁判所は判断しています。

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2 現任の取締役としての責任の有無

(1)準拠法について

結論として、裁判所は、第1次予備的請求については、通則法17条本文により、加害行為の結果が発生した地である日本法を適用すべきであると判断しています(23頁)。

(2)被告がレッド社の取締役の職務を行うについて悪意又は重大な過失があったかについて

結論として、裁判所は、本件サイトに本件漫画が掲載されたことに関し、被告がレッド社の取締役の職務を行うについて悪意又は重大な過失があったと認めることはできないと判断しています(23頁以下)。

結論として、被告が、本件サイトに本件漫画が掲載されたことに関し、レッド社の現任の取締役としての責任を負うとの原告らの主張を採用することはできないと裁判所は判断しています。

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3 退任した取締役としての責任の有無

裁判所は、第2次予備的請求についても、通則法17条本文により、加害行為の結果が発生した地である日本法を適用すべきであるとしたうえで、結論として、被告が、本件サイトに本件漫画が掲載されたことに関し、レッド社の退任した取締役としての責任を負うとの原告らの主張を採用することはできないと裁判所は判断しています(32頁以下)。

上記争点2、3のまとめとして、会社法429条1項に基づく原告の損害賠償請求は理由がないと判断されています。

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■コメント

外国設立法人が関係する著作権侵害事案において、個人あるいは法人役員としての責任を追及した事案となります。