最高裁判所HP 知的財産裁判例集より

「ゾンビ」字幕事件(控訴審)

知財高裁令和6.12.23令和6(ネ)10054損害賠償請求控訴事件PDF

知的財産高等裁判所第4部
裁判長裁判官 宮坂昌利
裁判官    本吉弘行
裁判官    岩井直幸

*裁判所サイト公表 2025.1.10
*キーワード:映画、字幕、翻訳、許諾、複製権、同一性保持権、氏名表示権、DVD、ブルーレイディスク

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■事案

映画字幕の同一性保持権侵害性などが争点となった事案の控訴審

控訴人兼被控訴人(第1事件・第2事件原告):外国映画日本語字幕翻訳業者
被控訴人兼控訴人(第1事件・第2事件被告):映画企画制作会社
被控訴人兼控訴人(第1事件・第2事件被告):映画DVD販売会社
被控訴人兼控訴人(第2事件被告)     :映像・音楽ソフト制作販売会社

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■結論

原判決一部変更

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■争点

条文 著作権法21条、20条、19条

1 第1審原告は本件各字幕の複製及び頒布について許諾したか
2 本件商品字幕4を作成したことは第1審原告の同一性保持権を侵害するか
3 本件商品2〜4、6〜9について、字幕翻訳者として第1審原告の氏名を表示しなかったことは第1審原告の氏名表示権を侵害するか
4 消滅時効の成否
5 第1審被告ハピネットは氏名表示権侵害並びに頒布権及び複製権侵害の責任を負うか
6 損害及びその数額

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■事案の概要

『第1審原告は、外国映画の日本語字幕翻訳を業とする者であるが、シネ・マイスター(第1審被告フィールドワークスから字幕制作を請け負った業者)からの依頼に基づき、「ゾンビ」というタイトルの付された外国映画(本件各映画)につき本件各字幕を制作した。その後、第1審被告らが、本件各字幕を付した本件各映画のDVD及びブルーレイの商品(本件各商品)を販売したところ、第1審原告は、本件各字幕の利用許諾はゆうばり国際ファンタスティック映画祭2010(本件映画祭)での上映の限度にとどまるなどと主張して、下表のとおりの著作権(複製権、頒布権)及び著作者人格権(同一性保持権、氏名表示権)の侵害を理由に、第1審被告らに損害賠償を求めている(以下、下表の符号A〜Dに対応する請求を、「請求A」などと表記する。なお、請求Aは第1事件、請求B〜Dは第2事件に係るものである。)。(以下略)』

『原審は、(1)本件各字幕の利用許諾の範囲につき、DVD商品には黙示の許諾が認められ著作権侵害は否定されるが(請求A、C関係)、ブルーレイ商品については許諾が認められず著作権侵害が成立する(請求B、D関係)、(2)本件商品字幕4につき、同一性保持権侵害が成立する(請求A関係)、(3)第1審原告の氏名表示がないものにつき、氏名表示権侵害が成立する(請求C、D関係)、(4)第1審被告スティングレイ及び同フィールドワークスは上記各侵害に係る損害賠償義務を免れないが、第1審被告ハピネットは氏名表示権侵害についてのみ損害賠償責任を負うなどと判断し、別紙のとおり、第1審原告の請求を一部認容した。
 これに対し、第1審原告と第1審被告らは、各自の敗訴部分全部を不服として、それぞれ控訴した。』
(2頁以下)

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■判決内容

<争点>

1 第1審原告は本件各字幕の複製及び頒布について許諾したか

結論として、控訴審は、第1審原告は本件各字幕の複製及び頒布について許諾したものというべきで、第1審原告の複製権及び頒布権侵害に基づく請求は理由がないと判断しています(20頁以下)。

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2 本件商品字幕4を作成したことは第1審原告の同一性保持権を侵害するか

結論として、原審同様、控訴審も本件商品字幕4を作成したことは第1審原告の同一性保持権を侵害すると判断しています(25頁以下)。

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3 本件商品2〜4、6〜9について、字幕翻訳者として第1審原告の氏名を表示しなかったことは第1審原告の氏名表示権を侵害するか

結論として、原審同様、控訴審も字幕翻訳者として第1審原告の氏名を表示しなかったことは第1審原告の氏名表示権を侵害すると判断しています(26頁以下)。

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4 消滅時効の成否

結論として、原審同様、控訴審も消滅時効の成立を認めていません(27頁以下)。

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5 第1審被告ハピネットは氏名表示権侵害並びに頒布権及び複製権侵害の責任を負うか

控訴審は、第1審原告はブルーレイ商品についても本件各字幕の複製及び頒布について許諾しており、第1審被告ハピネットは、頒布権及び複製権侵害について不法行為責任を負わないと判断。本件商品2〜4、6〜9については、第1審被告ハピネットの販売時点において「公衆への提供」がされて氏名表示権侵害が生じていると判断。第1審被告ハピネットの過失も認定しています(28頁以下)。

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6 損害及びその数額

(1)同一性保持権侵害

慰謝料1万円

(2)氏名表示権侵害

慰謝料 商品ごとに7万円 合計49万円

(3)弁護士費用相当額損害

合計4万9000円

(29頁以下)

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■コメント

争点1について、原審では、ブルーレイである本件商品5から本件商品8までの製造及び販売について、原告の複製権及び頒布権の侵害があると判断されていましたが、控訴審では第1審原告の許諾がブルーレイ商品についてもあったと認定され、この点についての侵害性が否定されています。

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■過去のブログ記事

東京地裁令和6.5.29令和4(ワ)2227等損害賠償請求事件
原審記事