最高裁判所HP 知的財産裁判例集より

シナリオ制作契約事件

東京地裁令和6.11.29令和3(ワ)5411著作権侵害差止等請求事件、損害賠償請求反訴事件PDF
別紙1
別紙2

東京地方裁判所民事第29部
裁判長裁判官 國分隆文
裁判官    間明宏充
裁判官    塚田久美子

*裁判所サイト公表 2024.12.24
*キーワード:漫画、シナリオ、翻案、二次的著作物、名誉毀損、二次利用、制作契約

   --------------------

■事案

制作したシナリオの漫画化といった二次利用の範囲などが争点となった事案

原告(反訴被告):執筆業者
被告(反訴原告):弁理士兼同人誌発行者

   --------------------

■結論

本訴棄却、反訴一部認容

   --------------------

■争点

条文 著作権法18条、19条、20

1 原告シナリオを漫画化すること等についての許諾の有無
2 著作者人格権侵害の成否
3 本訴提起による不法行為の成否
4 名誉毀損の成否
5 名誉感情侵害の成否
6 原告の故意又は過失の有無
7 損害論

   --------------------

■事案の概要

1 本訴事件

『本訴事件は、原告が、被告に対し、原告の制作した著作物であるシナリオを別紙漫画目録記載の漫画(以下「本件漫画」という。)にした行為は、原告の同シナリオに係る翻案権を侵害するものであり、同シナリオの二次的著作物である本件漫画を書籍及び電子書籍として販売している行為は、原著作者の権利として専有する本件漫画に係る複製権、譲渡権及び公衆送信権を侵害するものであって、さらに、それらの行為は、原著作者である原告の著作者人格権(公表権、氏名表示権及び同一性保持権)も侵害するものであると主張して、不法行為に基づく損害賠償として、著作権侵害に基づく損害金200万0160円(著作権法114条2項により算定される額)、著作者人格権侵害に基づく慰謝料150万円及び弁護士費用相当損害金50万円の合計400万0160円並びにこれに対する訴状送達の日の翌日である令和3年4月17日(不法行為後の日)から支払済みまで民法所定年3パーセントの割合による遅延損害金の支払を求める事案である。』

2 反訴事件
『ア 原告による本訴の提起が不当訴訟に当たると主張して、不法行為に基づく損害賠償として、本件漫画が販売できなくなったことによる逸失利益25万2580円、信用毀損による損害金200万円及び本訴事件の応訴に要した弁護士費用相当損害金24万7420円の合計250万円並びにこれに対する反訴状送達の日の翌日である令和4年5月7日(不法行為後の日)から支払済みまで民法所定年3パーセントの割合による遅延損害金の支払を、
イ 原告による別紙名誉毀損主張対比表記載の各投稿が被告に対する名誉毀損及び名誉感情侵害に当たると主張して、不法行為に基づく損害賠償として、慰謝料200万円及び弁護士費用相当損害金20万円の合計220万円並びにこれに対する令和3年1月24日(不法行為後の日)から支払済みまで民法所定年3パーセントの割合による遅延損害金の支払を、それぞれ求める事案である。』
(2頁以下)

<経緯>

H30.01 被告が原告にアプリ用シナリオ制作依頼
H30.04 原告が被告にプロット送付
H30.05 被告が原告にRPGゲーム風セリフ付きCG集用シナリオ制作依頼
H30.07 原告がCG集用シナリオ送付
H30.11 被告が本件漫画制作をEiに依頼
H30.12 被告が本件漫画販売
H30.12 被告が報酬10万円支払
H31.04 原告がシナリオ送付
R02.11 被告がアプリ販売
R03.03 原告が本件訴訟提起
R03.06 虎の穴らに対する訴え取り下げ

本件漫画:サキュバス♀に強制転職させられた俺♂

   --------------------

■判決内容

<争点>

1 原告シナリオを漫画化すること等についての許諾の有無

原告シナリオを改変して漫画化することや販売することについての被告の許諾の有無に関して、裁判所は、仮に、本件漫画が原告シナリオの二次的著作物であったとしても、原告は、被告に対して、原告シナリオを書き直した上で漫画化して本件漫画を制作し、かつ、本件漫画を書籍として頒布及び電子書籍として販売をすることを許諾したものと認められると判断。
被告が原告シナリオに係る原告の翻案権並びに本件漫画に係る原著作者の権利としての原告の複製権、譲渡権及び公衆送信権を侵害したとはいえず、原告の著作権侵害を理由とする損害賠償請求を認めていません(22頁以下)。

   --------------------

2 著作者人格権侵害の成否

裁判所は、結論として同一性保持権、公表権、氏名表示権のいずれの侵害の成立も認めていません(27頁以下)。

   --------------------

3 本訴提起による不法行為の成否

結論として、本訴提起が不法行為に当たるとの被告の主張を裁判所は認めていません(29頁以下)。

   --------------------

4 名誉毀損の成否

結論として、裁判所は、本件投稿1(1)、(3)及び(6)並びに本件投稿2(8)ないし(15)は、被告の名誉を毀損する違法な行為であると判断しています(30頁以下)。

   --------------------

5 名誉感情侵害の成否

結論として、裁判所は、本件投稿が被告の名誉感情を侵害する違法な行為に当たるとは認めていません(52頁以下)。

   --------------------

6 原告の故意又は過失の有無

原告は、本件投稿1(1)、(3)及び(6)並びに本件投稿2(8)ないし(15)をするに当たり、被告の名誉を毀損しないよう、事実関係を調査した上、当該事実関係に沿った適切な表現を用いるべき注意義務があったにもかかわらず、これを怠ったものといわざるを得ないとして、裁判所は結論として、原告には少なくとも過失があったと判断しています(53頁)。

   --------------------

7 損害論

(1)慰謝料 10万円

(2)弁護士費用相当額損害 1万円

合計11万円(53頁以下)

   --------------------

■コメント

発注したシナリオの二次利用の範囲や名誉毀損が争点となっています。
本件漫画はR-18指定の作品のようです。