最高裁判所HP 知的財産裁判例集より

「ゾンビ」字幕事件

東京地裁令和6.5.29令和4(ワ)2227等損害賠償請求事件PDF

東京地方裁判所民事第46部
裁判長裁判官 柴田義明
裁判官    杉田時基
裁判官    仲田憲史

*裁判所サイト公表 2024.12.13
*キーワード:映画、字幕、翻訳、許諾、複製権、同一性保持権、氏名表示権、DVD、ブルーレイディスク

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■事案

映画字幕の同一性保持権侵害性などが争点となった事案

第1事件原告兼第2事件原告:外国映画日本語字幕翻訳業者
第1事件被告兼第2事件被告:映画企画制作会社
第1事件被告兼第2事件被告:映画DVD販売会社
第2事件被告       :映像・音楽ソフト制作販売会社

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■結論

請求一部認容

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■争点

条文 著作権法21条、20条、19条

1 原告は本件各字幕の複製及び頒布について許諾したか
2 本件商品字幕4を作成したことは原告の同一性保持権を侵害するか
3 本件商品2から本件商品4まで及び本件商品6から本件商品9までについて、字幕翻訳者として原告の氏名を表示しなかったことは原告の氏名表示権を侵害するか
4 消滅時効の成否
5 被告ハピネットは氏名表示権侵害並びに頒布権及び複製権侵害の責任を負うか
6 損害論

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■事案の概要

『本件は、外国語の映画である別紙映画目録記載の各映画を翻訳して日本語の字幕データを制作した原告が、被告らに対し、(1)被告スティングレイ及び被告フィールドワークスが(1)別紙商品目録記載1のDVD−BOXを、被告らが(2)別紙商品目録記載2から9までの各DVD又はブルーレイディスク若しくはブルーレイBOXを、原告が制作した字幕データを無断で使用して制作し、販売又は出荷したことで、上記字幕データについての原告の著作権(複製権及び頒布権)又は原著作者としての権利(複製権及び頒布権)が侵害され、また、(2)上記字幕データを原告に無断で改変して原告の著作者人格権(同一性保持権)を侵害し、(3)別紙商品目録記載2から4まで及び同目録記載6から9までの各商品に、字幕の翻訳者として原告の氏名を表示せず原告の著作者人格権(氏名表示権)を侵害したと主張して、いずれも不法行為による損害賠償請求権(民法709条、719条)に基づき、被告スティングレイ及び被告フィールドワークスに対し、各自478万5000円((1)(1)の字幕の使用料相当損害金385万円、(2)の慰謝料50万円、(3)弁護士費用相当損害金43万5000円)及びこれに対する不法行為の日である平成22年4月23日から支払済みまで平成29年法律第44号による改正前の民法(以下「改正前民法」という。)所定の年5分の割合による遅延損害金の支払(ただし、各被告らの債務は連帯債務)を、被告らに対して、各自2993万8832円((1)(2)の字幕の使用料相当損害金合計2246万6860円、(2)の慰謝料350万円、(3)弁護士費用相当損害金259万6686円に加え、(1)(2)の一部についての平成26年12月1日までの確定遅延損害金)及び内金2856万3546円に対する不法行為の日である平成26年12月2日から支払済みまで改正前民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払ただし、各被告らの債務は連帯債務)を求めた事案である。』
(2頁以下)

<経緯>

S53 本件映画3が北米で公開
S54 本件映画2が日本で公開
H6  本件映画1が日本で公開
H21 シネ・マイスターが原告に字幕制作を依頼
H21 被告スティングレイと被告フィールドワークスが共同事業契約締結
H22 DVD―BOX販売開始
H22 被告フィールドワークスと被告ハピネットが独占販売契約締結
R3  原告が被告らに通知
R4  第1事件、第2事件提起

本件各映画:タイトル「ゾンビ」
映画目録:「ゾンビ ディレクターズ・カット版」など
商品目録:DVD「ソンビ 新世紀完全版5枚組DVD−BOX」など

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■判決内容

<争点>

1 原告は本件各字幕の複製及び頒布について許諾したか

裁判所は、原告が本件映画1の音声を翻訳して本件字幕1を、本件映画4の音声を翻訳して本件字幕4を、本件映画5のうちの約半分の部分の音声を翻訳して本件字幕5を、それぞれ制作した上で、本件映画2において本件字幕1で不足する部分の音声の翻訳をして本件字幕2を制作し、かつ本件字幕1を短縮して本件字幕3を制作したと認定。
これらのことから、原告が本件各字幕の著作者であり、本件各字幕の著作権者であると判断しています(34頁)。
その上で、本件各字幕の複製及び頒布に関し、原告の許諾の有無について、裁判所は、結論として、原告は、DVDの製造及び販売については許諾していたと認められるものの、ブルーレイの製造及び販売については許諾をしたとは認められないと判断。
ブルーレイである本件商品5から本件商品8までの製造及び販売について、原告の複製権及び頒布権の侵害があると判断しています。

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2 本件商品字幕4を作成したことは原告の同一性保持権を侵害するか

本件商品1のDISC1に収録されている本件映画4に付された本件商品字幕4は、本件字幕4から「もはや政府がこの事態を」の部分を欠落させたものであり、裁判所は、当該欠落は「改変」にあたり、また、著作者である原告の「意に反する」ものであると判断。また、著作権法20条2項4号の「やむを得ない」ものにもあたらないとして、結論として、被告スティングレイ及び被告フィールドワークスは、本件商品字幕4を作成したことにより、原告の同一性保持権を侵害したと裁判所は判断しています(41頁以下)。

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3 本件商品2から本件商品4まで及び本件商品6から本件商品9までについて、字幕翻訳者として原告の氏名を表示しなかったことは原告の氏名表示権を侵害するか

本件商品2から本件商品4まで及び本件商品6から本件商品9までに原告の氏名が表示されていないことについて、結論として、裁判所は、原告の氏名表示権を侵害したと判断しています(42頁以下)。

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4 消滅時効の成否

被告が主張する消滅時効はいずれも完成しておらず、その援用による債務の消滅は認められないと裁判所は判断しています(44頁以下)。

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5 被告ハピネットは氏名表示権侵害並びに頒布権及び複製権侵害の責任を負うか

裁判所は、被告ハピネットについて、頒布権侵害について過失があったとは認められないものの、氏名表示権侵害については過失があると判断。
結論として、被告ハピネットは、複製権及び頒布権については損害賠償義務を負わないものの、氏名表示権侵害については損害賠償義務を負うと判断しています(45頁以下)。

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6 損害論

(1)同一性保持権侵害

慰謝料1万円

(2)氏名表示権侵害

商品ごとに7万円

(3)複製権及び頒布権侵害

出荷数から算出される売上金額の1%の金額
合計78万1320円で

(4)弁護士費用相当額

各損害の10%

(48頁以下)

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■コメント

原告代理人には小倉秀夫先生が就かれておいでです。