最高裁判所HP 知的財産裁判例集より

「TRIPP TRAPP」子供用椅子不競法事件(対Noz)控訴審

知財高裁令和6.9.25令和5(ネ)10111不正競争行為差止等請求控訴事件PDF

知的財産高等裁判所第2部
裁判長裁判官 清水 響
裁判官    菊池絵理
裁判官    頼 晋一

*裁判所サイト公表 2024.10.10
*キーワード:純粋美術、応用美術、著作物性、商品等表示、一般不法行為

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■事案

子供用椅子のデザインの模倣性が争点となった事案の控訴審

控訴人(1審原告) :家具製造販売会社ら
被控訴人(1審被告):家具製造販売会社

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■結論

控訴棄却

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■争点

条文 著作権法2条1項1号、2条2項、不正競争防止法2条1項1号、2号、民法709条

1 不正競争行為性
2 著作権侵害性
3 一般不法行為論

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■事案の概要

『原告オプスヴィック社は、デザイナーであるAから原告製品に係る著作権を取得し、原告ストッケ社は、原告オプスヴィック社から同著作権の独占的利用権を取得し、原告製品を製造販売等している。原告製品の形態は、別紙「原告製品の形態」(原判決「事実及び理由」中の第2の2(2)参照)記載のとおりである。
 他方、被告は、被告各製品を製造販売等している。被告各製品の形態は、別紙「被告各製品の形態」(原判決「事実及び理由」中の第2の2(4)参照)記載のとおりである。』

『本件は、原告らが、被告に対し、被告による被告各製品の製造販売等の行為が次の(1)から(3)までの各行為に該当するなどと主張し、以下のアからエまでの各請求をする事案である。
(1) 原告らの商品等表示として周知又は著名なものと同一の商品等表示を使用する不正競争行為(不競法2条1項1号、2号)。
(2) 仮に(1)に該当しないとしても、原告製品について、原告オプスヴィック社が有する著作権及び原告ストッケ社が有するその独占的利用権の各侵害行為(著作権法21条、27条)。
(3) 仮に(1)(2)に該当しないとしても、取引における自由競争の範囲を逸脱する行為であり、原告らの営業上の利益を侵害する不法行為(民法709条。なお、本件では結果発生地法である日本法が不法行為の準拠法となる。)。(以下、略)』

『原審は、原告らの請求をいずれも棄却した。その理由の要旨は以下のとおりである。(以下、略)』
(2頁以下)

■特徴1〜3

特徴1:原告製品が、左右一対の側木(床から斜め上向きに平行に伸びる2本の棒状の部位をいう。)の2本脚であり、かつ、座面板及び足置板が左右一対の側木の間に床面と平行に固定されている点

特徴2:左右方向から見て、側木が床面から斜めに立ち上がっており、側木の下端が脚木(側木の下側端部から後ろ方向に平行に伸びている2本の棒状の部位をいう。)の前方先端の斜めに切断された端面でのみ結合されて直接床面に接していることによって、側木と脚木が約66度の鋭角による略L字型の形状を形成している点

特徴3:側木の内側に形成された溝に沿って座面板と足置板の両方をはめ込み固定する点

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■判決内容

<争点>

1 不正競争行為性

(1)商品等表示該当性及び周知著名性(不正競争防止法2条1項1号)

原告製品の本件顕著な特徴は、少なくとも特徴1から特徴3までが結合して存在することによって認められるなどとして、特別顕著性があり(商品等表示該当性)、また、周知性についても控訴審は結論として肯定しています(16頁以下)。

(2)商品形態の類否

控訴審は、被告各製品の形態が、原告らの商品等表示の特徴3を備えていないといった点を踏まえ、結論として、『被告各製品は、本件顕著な特徴を備えていないから、取引の実情の下において、取引者、需要者が、両者の外観、称呼、又は観念に基づく印象、記憶、連想等から両者を全体的に類似のものとして受け取るおそれがあるものということはできない。よって、原告らの商品等表示と被告各製品の形態が類似すると認めることはできない。』(25頁以下)と判断しています。

なお、2条1項2号の主張についても、控訴審は認めていません(27頁)。

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2 著作権侵害性

控訴審は、応用美術論に言及した上で、『原告製品のような実用品の形状等の創作的表現について著作物性が認められるのは、それが実用的な機能を離れて独立の美的鑑賞の対象となるような部分を含む場合又は当該実用品が専ら美的鑑賞目的のために制作されたものと認められるような場合に限られると解するのが相当である』として、分離可能性基準を説示。
そして、
『本件について検討すると、原告製品については、特徴1から特徴3まで及び側木と脚木をそれぞれ一直線とするデザインという本件顕著な特徴があり、これにより原告製品の直線的な形態が際立ち、洗練されたシンプルでシャープな印象を与えるものとなっていると認められることは、前記のとおりである。しかし、本件顕著な特徴は、2本脚の間に座面板及び足置板がある点(特徴1)、側木と脚木とが略L字型の形状を構成する点(特徴2)、側木の内側に形成された溝に沿って座面板等をはめ込み固定する点(特徴3)からなるものであって、そのいずれにおいても高さの調整が可能な子供用椅子としての実用的な機能そのものを実現するために可能な複数の選択肢の中から選択された特徴である。また、これらの特徴により全体として実現されているのも椅子としての機能である。したがって、本件顕著な特徴は、原告製品の椅子としての機能から分離することが困難なものである。すなわち、本件顕著な特徴を備えた原告製品は、椅子の創作的表現として美感を起こさせるものではあっても、椅子としての実用的な機能を離れて独立の美的鑑賞の対象とすることができるような部分を有するということはできない。』(27頁以下)
などとして、結論として、著作権侵害性を否定しています。

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3 一般不法行為論

控訴審も、被告各製品の製造販売等は、不競法又は著作権法が保護の対象とする原告らの利益を侵害するものとはいえず、被告各製品の製造販売等行為において、社会通念上自由競争の範囲を逸脱するものと認めることもできないとして、一般不法行為の成立を否定しています(31頁)。

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■コメント

原審同様、控訴審も棄却の判断となっています。
子供用椅子のL字脚のデザイン部分に著作物性成立を認めた2015年(平成27年)の知財高裁判決(対カトージ事件)との比較検討が待たれます。

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■過去のブログ記事

東京地裁令和5.9.28令和3(ワ)31529不正競争行為差止等請求事件
原審記事