最高裁判所HP 知的財産裁判例集より

マンモグラフィ画像診断システム営業秘密事件

大阪地裁令和6.7.30令和2(ワ)1539不正競争防止法違反行為差止等請求事件PDF

大阪地方裁判所第21民事部
裁判長裁判官 武宮英子
裁判官    阿波野右起
裁判官    西尾太一

*裁判所サイト公表 2024.9.24
*キーワード:ソフトウェア、複製、翻案、退職従業員、秘密管理性

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■事案

退職従業員による医療画像診断システムのソフトに関する著作権侵害性や不正競争行為性が争点となった事案

原告:医療画像処理システム開発会社
被告:ネットワークカメラ管理システム開発会社

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■結論

請求棄却

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■争点

条文 著作権法21条、27条、不正競争防止法2条6項、2条1項5号、8号、10号

1 原告ソースコードの営業秘密性
2 原告ソースコードに関するプログラム著作権性

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■事案の概要

『本件は、別紙原告製品目録記載1の製品(以下「原告製品」という。)を製造・販売している原告が、以下の(1)及び(2)のとおり主張して、被告会社に対し、被告各ソフトウェアの複製・翻案等の差止め及び記録媒体の廃棄並びに被告製品の製造・販売等の差止め及び廃棄を求めるとともに、被告会社及びその代表者であって原告の元従業員であった被告P2に対し、損害賠償金の連帯支払を求める事案である((1)と(2)は選択的に主張している。)。』

『(1) 被告会社には、以下のアないしウのいずれかの不正競争行為が認められるから、被告会社に対し、不正競争防止法(以下「不競法」という。)3条1項に基づき、被告製品の製造・販売等の差止め(前記第1の4)を求めるとともに、同条2項に基づき、被告各ソフトウェアを記録した記録媒体及び被告製品の廃棄を求め(前記第1の3及び5)、さらに、被告P2も原告に対する加害について故意又は過失があるから、被告らに対し、共同不法行為(民法709条、719条1項)に基づき、損害賠償金の一部請求として2億6000万円及びこれに対する訴状送達日の翌日(被告P2につき令和2年3月2日、被告会社につき同月3日であり、不法行為よりも後の日)から支払済みまで平成29年法律第44号による改正前の民法所定の年5分の割合による遅延損害金の連帯支払を求める(前記第1の6)。(以下、略)』

『(2) 被告会社は、原告が著作権を有するプログラムの著作物である原告ソースコードをそのまま複製し、あるいは若干の改変を加えて翻案して被告各ソフトウェアを作成し、これを収納した被告製品を製造・販売しているものであり、かかる行為により原告の著作権(複製権、翻案権及び譲渡権)を侵害しているから、被告会社に対し、著作権法112条1項に基づき、被告各ソフトウェアの複製、翻案及び複製物の譲渡(前記第1の1及び2)並びに被告製品の製造・販売等の差止め(前記第1の4)を求めるとともに、同条2項に基づき、被告各ソフトウェアを記録した記録媒体及び被告製品の廃棄を求め(前記第1の3及び5)、さらに、被告らに対し、共同不法行為(民法709条、719条1項)に基づき、前記(1)と同様の損害賠償金及び遅延損害金の連帯支払を求める(前記第1の6)。』
(2頁以下)

<経緯>

H08.10 原告会社設立
H12.05 被告P2が原告入社
H17.10 原告製品開発
H18.07 被告会社設立
H21.10 P2退社
H21.11 P2が被告入社
H24.09 被告製品販売

原告製品:マンモグラフィ画像診断システム「mammary」
被告製品:マンモグラフィ読影診断ワークステーション「mammodite」

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■判決内容

<争点>

1 原告ソースコードの営業秘密性

営業秘密における秘密管理性(不正競争防止法2条6項)について、裁判所は、
『不競法2条6項にいう「秘密として管理されている」といえるためには、当該情報にアクセスした者に当該情報が営業秘密であることが認識できるような措置が講じられ、当該情報にアクセスできる者が限定されているなど、当該情報に接した者が、これが秘密として管理されていることを認識し得る程度に秘密として管理していることを要するというべきである。』
と説示した上で、本件のあてはめとしては、諸事情を総合的に勘案すると、原告ソースコード自体の重要性を考慮しても、その秘密管理が極めてずさんであったことなどから、原告において、原告ソースコードを含む原告各ソフトウェアのプログラムのソースコードについて、当該情報に接した者がこれが秘密として管理されていることを認識し得る程度に秘密として管理していたと認めることはできないと裁判所は判断。
結論として、秘密管理性(営業秘密性)を否定しています(27頁以下)。

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2 原告ソースコードに関するプログラム著作権性

原告ソースコードと被告製品のソースコードの類否などについて裁判所は検討しています。
結論として、裁判所は、被告会社による原告各ソフトウェア(原告ソースコード)に係る原告のプログラム著作権の侵害は認められられないと判断しています(34頁以下)。

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■コメント

原告会社の退職者複数名が被告会社に入社している事案となります。ソースコードの社内管理体制について、「極めてずさん」といった認定がされています(33頁参照)。