最高裁判所HP 知的財産裁判例集より

年賀はがきキャンペーンアイデア盗用事件(控訴審)

知財高裁令和6.8.28令和6(ネ)10016損害賠償請求控訴事件PDF

知的財産高等裁判所第2部
裁判長裁判官 清水 響
裁判官    菊池絵理
裁判官    頼 晋一

原審
東京地裁令和6.1.18令和4(ワ)70089債務不存在確認等請求事件等
添付別紙

*裁判所サイト公表 2024.9.10
*キーワード:アイデア、実用新案、葉書

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■事案

年賀はがきキャンペーンにアイデアが盗用されたなどとして争われた事案

控訴人 (1審本訴被告・反訴原告):実用新案権者
被控訴人(1審本訴原告・反訴被告):日本郵便

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■結論

請求一部変更

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■争点

条文 民法709条

1 原告の被告に対する本件実用新案権等の侵害の不法行為に基づく損害賠償債務又は不当利得返還債務がいずれも存在しないことの確認(本訴)
2 原告の被告に対する不法行為に基づく損害賠償請求権の有無(本訴)
3 原告に生じた損害の有無及びその額(本訴)
4 被告の原告に対する不法行為に基づく損害賠償請求権の有無(反訴)

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■事案の概要

原審より

『本訴
 本訴は、原告が、被告に対し、以下の請求をする事案である。
ア 平成31年用年賀はがきに関する原告の販売促進施策「送る人にも福来たるキャンペーン」)(以下「本件施策」という。)について、被告が、平成30年11月頃から、原告に対し、別紙被告実用新案権等目録各記載の実用新案権(以下「本件実用新案権」という。)又は著作権(以下「本件著作権」といい、本件実用新案権と併せて「本件実用新案権等」という。)の侵害等を理由に継続的に金銭の支払等を要求した旨を主張して、原告の被告に対する本件実用新案権等の侵害の不法行為に基づく損害賠償債務又は不当利得返還債務がいずれも存在しないことの確認請求。
イ 原告は、平成31年4月頃、被告に対し、上記要求には応じない旨を回答したにもかかわらず、その後も3年以上にわたり執拗に自己の要求を繰り返した被告の一連の行為は原告に対する不法行為に当たる旨を主張して、不法行為に基づき、200万円の損害賠償請求及びこれに対する不法行為後の日である令和5年1月15日(訴状送達の日の翌日)から支払済みまで民法所定の年3%の割合による遅延損害金請求。』

『反訴
 反訴は、被告が、本件施策は被告が考案して平成26年頃に原告に提案した「送る人も受け取る人も伴に徳をもたらす」というアイデア(以下「被告アイデア」という。)と同じ意味、目的を有するものであるところ、原告が被告の了解なく本件施策を実施した行為は被告アイデアの盗用であり、また、原告訴訟代理人が、平成31年から令和4年12月まで、被告に対し、民事・刑事を問わず法的措置を執るなどと述べて被告を脅迫したことも被告に対する不法行為を構成する旨を主張して、原告に対し、不法行為に基づき、2000万円の損害賠償請求(一部請求)を求める事案である。』

控訴審より

『原審は、原告の本訴請求は、前記債務が存在しないことの確認を求め、また50万円及び遅延損害金の支払を求める限度で理由があるとして一部認容し、その余の本訴請求及び被告の反訴請求は理由がないとしていずれも棄却した。これに対し、被告が敗訴部分を不服として本件控訴を提起した。』

被告実用新案権等:

1 実用新案権
登録日 平成26年5月28日
登録番号 実用新案登録第3191266号
出願日 平成25年11月27日
考案の名称 ハガキ
実用新案権者 被告、C

2 著作権
登録年月日 平成28年9月1日
表示番号 第37619号
著作物の題号 当選くじ付き年賀ハガキシステム
著作者の氏名 被告、C
著作物が最初に公表された年月日 平成元年1月20日

被告アイデア:

被告が原告に対し平成26年頃に提案した「送る人も受け取る人も伴に徳をもたらす」というアイデア

本件施策:

年賀はがきに関する販売促進施策として原告が実施した「送る人にも福来たるキャンペーン」

<経緯>

H26 被告がアイデアを原告に提案
H30 被告が原告に金銭支払い要求

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■判決内容

<争点>

1 原告の被告に対する本件実用新案権等の侵害の不法行為に基づく損害賠償債務又は不当利得返還債務がいずれも存在しないことの確認(本訴)

原告の本件施策は、被告アイデアに基づいて実施されたものではなく、原告による本件施策の実施は、被告との関係で何ら被告の法的に保護すべき利益を侵害するものではなく、不法行為を構成しないと控訴審は判断。
結論として、原審同様、控訴審も原告の本訴請求のうち、原告の被告に対する本件実用新案権等の侵害の不法行為に基づく損害賠償債務又は不当利得返還債務がいずれも存在しないことの確認を求める部分に理由があると判断しています(6頁)。

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2 原告の被告に対する不法行為に基づく損害賠償請求権の有無(本訴)

控訴審は、被告は原告に対して一方的に対価の支払を要求し続けたものであって、その態様に照らして、社会的に相当な範囲を超えて原告の業務を妨害したものとして違法であり、原告に対する不法行為を構成するというべきであると判断。原告は、被告に対して不法行為(民法709条)に基づく損害賠償請求権を有すると判断しています(9頁以下)。

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3 原告に生じた損害の有無及びその額(本訴)

控訴審は、原告は被告の不法行為によってその業務を妨害され、本件訴訟を提起するなど対応を余儀なくされて有形無形の損害を被ったと認めるのが相当であり、被告の不法行為に係る原告の損害額は10万円、弁護士費用相当額損害1万円の合計11万円を損害額として認定しています(11頁以下)。

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4 被告の原告に対する不法行為に基づく損害賠償請求権の有無(反訴)

原審同様、控訴審も被告の反訴請求である被告の原告に対する不法行為に基づく損害賠償請求には理由がないと判断しています(6頁以下)。

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■コメント

控訴審では損害額が50万円から11万円に縮減されています。
別紙で著作権登録されている内容が分かりますが、そのことによって具体的に実施されたキャンペーンを規制できるかといえば、著作権ではアイデアは保護しないので、ハードルが高い判断になるかと思われます。