最高裁判所HP 知的財産裁判例集より

旅館サイト写真無断使用事件

東京地裁令和6.6.21令和4(ワ)11762損害賠償等請求事件PDF
別紙

東京地方裁判所民事第29部
裁判長裁判官 國分隆文
裁判官    塚田久美子
裁判官    木村洋一

*裁判所サイト公表 2024.8.15
*キーワード:写真、著作物性、法人著作、業務委託、契約終了後の措置

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■事案

旅館システムメンテ契約終了後の提供写真無断使用の事例

原告:宿泊施設集客サービス提供会社
被告:旅館

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■結論

請求一部認容

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■争点

条文 著作権法2条1項1号、15条、20条、21条、23条、27条、114条3項

1 本件各写真等の著作物性及び著作者
2 著作権侵害の成否
3 著作者人格権侵害の成否
4 損害の発生及び額
5 謝罪広告の必要性

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■事案の概要

『本件は、原告が、被告に対し、(1)インターネットを通じたホテル予約システム、ホームページの制作等について、原告と被告との間で締結されたコンピューターメンテナンス契約(以下「本件契約」という。)に基づき、令和3年2月から同年9月までのインターネット総合集客サービス及びドメイン利用サービスの未払利用料(以下「本件利用料」という。)合計11万3854円及びこれに対する支払期限の翌日である同年11月1日から支払済みまで民法所定の年3パーセントの割合による遅延損害金の支払を求めるとともに、(2)被告が、本件契約の解約後、原告が被告に対して提供していた別紙原告写真目録記載の各写真(以下「本件各写真」という。)及び別紙原告文章目録記載の各文章(以下「本件各文章」といい、本件各写真及び本件各文章を併せて「本件各写真等」という。)の複製物又は翻案物を、被告のホームページ(以下「被告ホームページ」という。)並びにじゃらん、じゃらんダイレクト、Yahoo!トラベル(以下「ヤフートラベル」という。)及びアゴダ等の旅行予約サイト(以下、これらの予約サイトを総称して「各種予約サイト」という。)に掲載し続けており、このような掲載行為は原告の本件各写真等に係る著作権(複製権、翻案権又は公衆送信権)及び著作者人格権(同一性保持権)を侵害するものであると主張して、民法709条に基づき、損害金260万円(著作権侵害に係る損害210万円(著作権法114条3項により算定される額)及び著作者人格権侵害に係る無形損害50万円)及びこれに対する訴状送達の日の翌日である令和4年7月8日から支払済みまで民法所定の年3パーセントの割合による遅延損害金の支払を、著作権法115条に基づき、謝罪広告の掲載を、それぞれ求める事案である。
 なお、上記(1)について、被告が、原告に対し、本件利用料として合計11万3854円及びこれに対する支払期限の翌日である令和3年11月1日から支払済みまで民法所定の年3パーセントの割合による遅延損害金の支払義務を負っていることは当事者間に争いがない。』
(2頁以下)

<経緯>

H26.06 原被告がサイト代行メンテナンス契約締結
R03.02 契約解約

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■判決内容

<争点>

1 本件各写真等の著作物性及び著作者

(1)本件各写真の著作物性

本件各写真は、本件旅館の施設及び本件旅館で提供されている料理等を撮影したものでした。
裁判所は、これらの写真の著作物性を肯定しています(15頁)。

(2)本件各文章の著作物性

本件各文章は、本件旅館の宿泊プラン、本件旅館で提供される料理、本件旅館の設備等を紹介する内容のものでした。
裁判所は、これらの文章の著作物性を肯定しています(15頁以下)。

(3)本件各写真等の著作者

本件各写真と本件各文章は、原告代表者又は原告の従業員が原告の発意に基づき作成したものであり、かつ、原告によって被告ホームページや各種予約サイトに掲載されていたものであるとして、裁判所は、職務著作としてその著作者が原告とされる結果(著作権法15条1項)、その著作権が原告に帰属すると判断しています(16頁以下)。

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2 著作権侵害の成否

令和3年3月1日からの原告の写真や文章を旅行サイト等に掲載する行為は、原告の著作権(本件改変写真以外の各写真に対応する掲載行為については複製権及び公衆送信権、本件改変写真に対応する掲載行為については翻案権及び公衆送信権、被告各文章に対応する掲載行為については複製権又は翻案権及び公衆送信権)を侵害するものと裁判所は判断しています(17頁以下)。

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3 著作者人格権侵害の成否

本件改変写真は、トリミング又は写真内に番号が付加された状態で掲載されていたものでした。
このような被告による改変について、裁判所は、原告の許諾を得ていなかったものであって、原告の意に反する改変といえるとして、被告による本件改変写真の作成行為は原告の著作者人格権(同一性保持権)を侵害すると判断しています(19頁)。

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4 損害の発生及び額

(1)著作権侵害に係る損害額(著作権法114条3項により算定される損害額)

月額8万5000円(被告が原告に対して支払っていた利用料などを勘案)
令和3年3月1日から同年9月22日まで(約6.6か月間)

合計56万1000円(8万5000円×6.6)
(20頁以下)

(2)著作者人格権侵害に係る無形損害の額

本件改変写真の枚数9枚
合計5万円
(21頁以下)

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5 謝罪広告の必要性

裁判所は、謝罪広告を掲載する必要性を認めていません(22頁)。

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■コメント

旅館業の多くがコロナ禍で経営が傷んだことが背景にありそうです。
契約終了後に提供された宣材を使い続けていた事例ですと、看板図柄の著作物性は否定されましたが、勝沼ワイナリー案内看板事件(知財高裁平成25.12.17平成25(ネ)10057著作物頒布広告掲載契約に基づく著作物頒布広告掲載料未払請求控訴事件、原審 東京地裁平成25.6.5平成24(ワ)9468)を思い出します。

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■過去のブログ記事

勝沼ワイナリー案内看板事件
控訴審判決文
記事
原審判決文