最高裁判所HP 知的財産裁判例集より

臨床看護書籍事件

大阪地裁令和6.6.27令和5(ワ)3064著作権侵害差止請求事件PDF

大阪地方裁判所第26民事部
裁判長裁判官 松阿彌隆
裁判官    島田美喜子
裁判官    西尾太一

*裁判所サイト公表 2024.7.19
*キーワード:学会、論文、書籍、引用、依拠性、差止

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■事案

看護に関する文献の著作権の学会帰属の有無や引用の成否が争点となった事案

原告:看護研究者
被告:看護研究者

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■結論

請求認容

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■争点

条文 著作権法21条、32条、112条

1 被告は原告表に依拠して被告表を作成したか
2 原告は原告表の共有著作権を喪失したか
3 被告表の掲載は32条1項の引用として適法か

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■事案の概要

『被告書籍の作成、発行等が原告表に係る原告の共有著作権(複製権又は翻案権)の侵害であることを前提とする、原告の被告に対する、著作権法(以下「法」という。)112条1項に基づく、被告表を掲載する被告書籍の発行等の差止請求』
(2頁)

<経緯>

R1.09 原告がアンケート調査を学会抄録に掲載
R2.06 原告らが甲7書籍刊行
R2.11 日本教育工学会論文誌に甲5論文掲載
R2.11 被告書籍刊行
R5.01 原告が被告に警告

甲7書籍:「OJTで使える! 臨床での指導に必要な「教え方」のスキル13」
被告書籍:「効果的・効率的・魅力的な教育・研修を企画・運営できるようになる!院内研修パーフェクトBOOK」

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■判決内容

<争点>

1 被告は原告表に依拠して被告表を作成したか

被告による原告表の了知等について、裁判所は、結論として、被告は原告表に依拠して被告表を作成したと判断しています(6頁)。

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2 原告は原告表の共有著作権を喪失したか

被告は、甲3論文案と甲5論文の各著作権が一体であることを前提に、甲5論文の著作権が日本教育工学会に移転したことをもって、原告が甲3論文案の共有著作権を喪失したと主張しました。
この点について、裁判所は、甲3論文案と甲5論文は、論文の草稿と完成した論文との関係にあるものの、別個の著作物と解すべきであると判断。原告が原告表の共有著作権を喪失したとは認められないと判断しています(7頁)。

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3 被告表の掲載は32条1項の引用として適法か

裁判所は、被告表に対応する甲7表の「引用、一部改変」元として、甲7書籍に記載のある甲1学会抄録を被告表の引用元には挙げてられておらず、このような引用元の表示は、著作物の出所を的確に表示するものとはいえず、公正な慣行に合致するものとはいえないと判断。著作権法32条1項の「引用」として適法とはいえないと判断しています(7頁以下)。

結論として、被告による被告表の作成等は、原告の原告表に係る共有著作権を侵害するものと認められ、本件提訴前の事情や本件訴訟経過における被告の応訴態度等に照らして、被告表を掲載した被告書籍の作成等の差止めの必要性があると裁判所は判断しています。

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■コメント

被告書籍について、侵害部分目録(別紙)記載の表を全て削除しない限り、書籍を発行、販売、頒布してはならないとの認容判決となっています。