最高裁判所HP 知的財産裁判例集より

雑誌記事無断複製事件(対出版社)

東京地裁令和6.4.18令和5(ワ)70559著作権侵害損害賠償請求事件PDF

東京地方裁判所民事第40部
裁判長裁判官 中島基至
裁判官    小田誉太郎
裁判官    尾池悠子

*裁判所サイト公表 2024.7.17
*キーワード:複製、翻案、一般不法行為論、ルポルタージュ、ノンフィクション

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■事案

雑誌記事などが無断複製、翻案されたかどうかが争点となった事案の別訴

原告:ジャーナリスト
被告:出版事業社

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■結論

請求棄却

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■争点

条文 著作権法21条、27条、民法709条

1 著作権及び著作者人格権の侵害の成否
2 デッドコピーによる不法行為の成否
3 氏名不表示による不法行為の成否
4 社内調査結果の不説明による不法行為の成否

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■事案の概要

『ジャーナリストである原告は、別紙著作物対比表「原告記述」欄記載の各記述(以下、符号の順に「原告記述1」、「原告記述2」といい、併せて「原告各記述」という。)の著作権を保有し、出版物の発行及び販売を業とする被告は、上記対比表「被告記述」欄記載の各記述(以下、符号の順に「被告記述1」、「被告記述2」といい、併せて「被告各記述」という。)を記載する雑誌及び書籍を発行又は販売した。
 本件は、原告が、被告各記述の発行及び販売は、原告各記述の著作権(複製権、翻案権)及び著作者人格権(同一性保持権、氏名表示権)を侵害すると主張するとともに、仮に、上記著作権侵害が成立しない場合であっても、(1)被告各記述は原告各記述のデッドコピーであり、(2)被告各記述には原告の氏名が表示されず、(3)被告各記述に関する社内調査の結果を原告に説明していないため、これらの行為がいずれも不法行為に該当すると主張して、被告に対し、不法行為に基づく損害賠償請求として、慰謝料10万円の支払を求める事案である。』
(1頁以下)

<経緯>

H24.04 「奨学金「取り立て」ビジネスの残酷−「借金漬け」にして暴利貪る」記事掲載
H25.10 「若者の借金奴隷化をたくらむ「日本学生支援機構」−延滞金を膨らませて骨までしゃぶる“奨学金”商法」書籍掲載
H26.11 雑誌「Journalism」刊行
H29.02 書籍「奨学金が日本を滅ぼす」刊行
R04.02 別訴東京地裁令和3(ワ)10987棄却
R04.08 知財高裁令和4(ネ)10035棄却
R05.02 最高裁令和4(オ)1768棄却、(受)2209不受理決定

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■判決内容

<争点>

1 著作権及び著作者人格権の侵害の成否

原告記述と被告記述の類否について、裁判所は、複製、翻案の意義について言及した上で、本件について、思想、アイデア、事実又は事件など、表現それ自体でない部分又は表現上の創作性を認めることはできない部分において、被告各記述は原告各記述と同一性を有するにすぎないため、被告各記述の発行又は販売は、複製にも翻案にも当たらないと判断しています(8頁以下)。
結論として、被告各記述は、原告各記述に係る原告の著作権を侵害するものではなく、原告の著作者人格権(氏名表示権、同一性保持権)を侵害するものでもないと判断されています。

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2 デッドコピーによる不法行為の成否

一般不法行為論の成否について、裁判所は原告の主張を認めていません(14頁)。

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3 氏名不表示による不法行為の成否

原告は、被告が本件書籍に原告の氏名を表示しなかったことは、書籍の編集や出版業界の社会通念に照らして著しく非常識な行為であり、不法行為を構成する旨主張しましたが、裁判所は認めていません(14頁)。

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4 社内調査結果の不説明による不法行為の成否

原告は、原告各記述と被告各記述が類似していることに関して被告に対して事情の説明を求めたものの、被告が調査の上、回答する旨約束しておきながら、その後調査結果について説明をしなかったことは、社会通念に照らして著しく不適当であり、不法行為を構成する旨主張しました(14頁以下)。
結論として、裁判所はこの点についての原告の主張を認めていません。

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■コメント

別訴は大学教授を被告とするものでした。
本事案では判決文の末尾に別紙著作物対比表が添付されているので、具体的な表現部分が分かります。
過払い回収マニュアル本事件(名古屋地裁平成23.9.15、名古屋高裁平成24.9.20)やホンダ50年社史ノンフィクション事件(東京地裁令和3.12.8、知財高裁令和4.7.14)を想起しますが、先行する記述を参考にしているものの、事実や著作物性がない部分での類似になるかと考えられるところです。

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■過去のブログ記事

別訴(対大学教授)
雑誌記事無断複製事件
東京地裁令和4.2.24令和3(ワ)10987著作権侵害損害賠償請求事件
原審記事

知財高裁令和4.8.31令和4(ネ)10035著作権侵害損害賠償請求控訴事件
判決文

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■参考判例

過払い回収マニュアル本事件
名古屋地裁平成23.9.15平成21(ワ)4998著作権侵害等に基づく損害賠償等請求事件
判決文

ホンダ50年社史ノンフィクション事件
東京地裁令和3.12.8令和2(ワ)2426不当利得返還請求事件
判決文
別紙