最高裁判所HP 知的財産裁判例集より

東日本大震災ノンフィクション映画事件(控訴審)

知財高裁令和6.5.30令和5(ネ)10100損害賠償請求控訴事件PDF

知的財産高等裁判所第1部
裁判長裁判官 本多知成
裁判官    遠山敦士
裁判官    天野研司

*裁判所サイト公表 2024.7.1
*キーワード:映画、小説、翻案、一般不法行為論、ノンフィクション

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■事案

東日本大震災を描いた小説が映画を翻案したものであるかどうかが争点となった事案の控訴審

控訴人(1審原告) :映画製作者
被控訴人(1審被告):ノンフィクションライター
被控訴人補助参加人:出版社

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■結論

控訴棄却

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■争点

条文 著作権法27条、19条、20条、民法709条

1 本件書籍の執筆、出版及び販売により、本件映画に係る控訴人の翻案権が侵害されたか
2 本件書籍の執筆、出版及び販売により、本件映画に係る控訴人の同一性保持権及び氏名表示権が侵害されたか
3 本件書籍の執筆、出版及び販売により、控訴人の人格権又は法的保護に値する人格的利益が侵害されたか

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■事案の概要

『本件は、ドキュメンタリー映画「Life」(以下「本件映画」という。)の著作者である控訴人が、被控訴人が書籍「捜す人 津波と原発事故に襲われた浜辺で」(以下「本件書籍」という。)を執筆し、被控訴人補助参加人にこれを出版、販売させた行為により、本件映画に係る控訴人の著作権(翻案権)、著作者人格権(同一性保持権及び氏名表示権)及び人格権又は法的保護に値する人格的利益がそれぞれ侵害されたと主張して、被控訴人に対し、各不法行為による損害賠償請求権に基づき、損害賠償金合計346万円及びこれに対する平成30年8月10日(本件書籍の販売開始日)から支払済みまで平成29年法律第44号による改正前の民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める事案である。』

『原判決は、被控訴人が本件書籍を執筆等したことは、本件映画に係る控訴人の翻案権、同一性保持権、氏名表示権を侵害するものではなく、控訴人の人格権又は人格的利益を侵害するものでもないとして、控訴人の請求を棄却した。』
(1頁以下)

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■判決内容

<争点>

1 本件書籍の執筆、出版及び販売により、本件映画に係る控訴人の翻案権が侵害されたか

控訴審は、まず翻案の意義について言及した上で、本件について控訴人各映像と被控訴人各記述とを、その共通すると主張される部分について検討しています(16頁以下)。
結論として、控訴審は別紙著作物対比表の控訴人各映像と被控訴人各記述とは、いずれも表現それ自体でない部分又は表現上の創作性がない部分において同一性を有するにすぎないなどとして、本件書籍は本件映画を翻案したものとはいえないと判断しています。

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2 本件書籍の執筆、出版及び販売により、本件映画に係る控訴人の同一性保持権及び氏名表示権が侵害されたか

争点1の通り、本件書籍が本件映画を翻案したものとはいえないことに照らせば、被控訴人が本件書籍を執筆し、出版したことにより、本件映画に係る控訴人の同一性保持権又は氏名表示権が侵害されたとはいえないとして、控訴人の主張には理由がないと控訴審は判断しています(29頁)。

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3 本件書籍の執筆、出版及び販売により、控訴人の人格権又は法的保護に値する人格的利益が侵害されたか

結論として、控訴審は人格権又は法的保護に値する人格的利益が侵害された旨の控訴人の主張を認めていません(29頁以下)。

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■コメント

結論として控訴審でも原審の判断が維持されています。

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■過去のブログ記事

東京地裁令和5.9.27令和3(ワ)28914損害賠償請求事件
原審記事