最高裁判所HP 知的財産裁判例集より

映画「天空の花」脚本改変事件

大阪地裁令和6.5.30令和5(ワ)531著作者人格権侵害差止等請求事件PDF

大阪地方裁判所第21民事部
裁判長裁判官 武宮英子
裁判官    阿波野右起
裁判官    峯健一郎

*裁判所サイト公表 2024.6.26
*キーワード:脚本、共同脚本、映画、同一性保持権

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■事案

映画の脚本の制作にあたり脚本家間で齟齬が生じた事案

原告:脚本家
被告:映画脚本家

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■結論

請求一部認容

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■争点

条文 著作権法20条

1 原告の著作者人格権(同一性保持権)侵害の有無
2 原告の損害の有無及び額
3 謝罪広告掲載の必要性

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■事案の概要

『本件は、原告が、別紙作品目録記載の映画(以下「本件映画」という。)の脚本原稿(以下「第10稿」という。)を作成したところ、被告が原告に無断で第10稿の内容を変更し、原告の著作者人格権(同一性保持権)を侵害したと主張して、被告に対し、不法行為に基づく損害賠償金110万円及びこれに対する訴状送達日の翌日である令和5年2月3日から支払済みまで民法所定の年3分の割合による遅延損害金の支払、並びに、著作権法115条に基づく名誉回復措置としての別紙謝罪広告目録記載の謝罪広告の掲載を請求する事案である。
 なお、原告は、株式会社ドッグシュガー、X3及び太秦株式会社(以下、それぞれ「ドッグシュガー」、「X3」及び「太秦」という。)をも被告として本件訴訟を提起したが、この3名との間では口頭弁論終結後に裁判上の和解(解決金支払等の条項を含む。)が成立した。』
(2頁)

<経緯>

H25.8 原告が被告から指導助言を受け始める
    原告が第8稿執筆
R3.5  被告が原告に第8稿をX3に送付指示
R3.8  映画化補助金交付決定
R3.8  原被告、X3、X5で打ち合わせ
R3.8  原告が第9稿、第10稿を作成。第10稿を準備稿
R3.10 被告が第11稿作成
R3.10 被告、X3、X5、X4で打ち合わせ
R3.10 被告が第12稿作成
R3.11 第12稿に基づきクランクイン
R4.8  初号試写
R4.11 原告が脚本料、慰謝料等を請求
R4.12 本件映画公開
R6.5  太秦株式会社らとの和解成立

本件映画:「天空の花」
本件小説:萩原葉子「天上の花―三好達治抄―」

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■判決内容

<争点>

1 原告の著作者人格権(同一性保持権)侵害の有無

まず、第10稿までの被告の修正については、脚本作成の創作的関与とまではいえず、第10稿は原告作成による原告の著作物と認定。そして、第10稿から第12稿に至るまでに被告によって改稿が行われ、両稿には少なくとも本件変更の箇所の相違があることが認定されています。
そのうえで、被告による改稿は、著作者の人格的利益を通常害しないと認められる程度の些細な変更とはいえないと判断。
結論として、被告による改稿(本件変更)は、第10稿に実質的な変更を加えるものであり、本件変更には原告の同意を要するところ、被告が本件変更に際して原告の同意を得ていないことは明らかであり、被告による本件変更は、第10稿に関する原告の意に反する改変に当たり、原告の同一性保持権を侵害すると裁判所は判断しています(8頁以下)。

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2 原告の損害の有無及び額

慰謝料 5万円
弁護士費用相当額損害 5000円

(11頁以下)

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3 謝罪広告掲載の必要性

結論として、謝罪広告掲載の必要性は認められていません(12頁)。

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■コメント

「天空の花」製作運動体のXの2024年5月16日付ツイートには、脚本家と製作・配給会社等との和解が報告されています。
映画「天空の花」2024/5/16和解報告

また、同日付で製作チーム、配給側からの謝罪文も掲載されています。
映画「天空の花」2024/5/16謝罪文

原作者と脚本家との関係性については、「セクシー田中さん」事案(日テレと小学館の報告書など)があり色々と考えさせられましたが、師弟関係のある共同脚本家間での今回の紛争についても、考えさせられるところが多くありました。

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■参考サイト

「脚本改変どこまで? 映画「天上の花」巡り、司法が認めた権利侵害」
(朝日新聞デジタル 有料記事)
大滝哲彰 平岡春人 赤田康和 2024年5月30日21時28分配信
記事

「「この作品に本気だった」東出昌大(34)“主演復帰映画”で脚本をめぐる泥沼訴訟トラブル《知らぬ間にシーンの追加と脚本改変、脚本料は10万円…》」
文春オンライン 2022/12/26
記事#1

「《主演映画で訴訟トラブル》東出昌大(34)が「昨今の週刊誌報道の風潮」に物申す!「個々人の対話が優先されるべき」「善悪二元論だけで語れない」」
文春オンライン 2022/12/26
記事#2