最高裁判所HP 知的財産裁判例集より

タオルデザイン商品化許諾契約事件

東京地裁令和6.3.28令和1(ワ)30628等損害賠償請求本訴・損害賠償請求反訴PDF
別紙

東京地方裁判所民事第40部
裁判長裁判官 中島基至
裁判官    尾池悠子
裁判官    古賀千尋

*裁判所サイト公表 2024.6.6
*キーワード:商品化許諾契約、ライセンス契約、応用美術論、消尽、オーバーロイヤリティ、パブリシティ

   --------------------

■事案

タオル向けのデザインの商品化許諾契約関係を巡って争われた事案

本訴原告兼反訴被告:マルチクリエーター、版権管理会社
本訴被告兼反訴原告:タオル製造販売会社ら

   --------------------

■結論

本訴請求棄却、反訴請求棄却

   --------------------

■争点

条文 著作権法2条2項、26条の2、20条

1 本件タオル部分の著作物性
2 本件タオル部分の著作者性
3 色や織り方の指示違反
4 本件絵柄部分の改変による著作権侵害の有無
5 許諾期間経過後の製造販売に係る合意の有無
6 譲渡権消尽の成否
7 類型番号別の個別争点
8 著作者人格権侵害の有無
9 パブリシティ権侵害の有無
10 報告義務違反の有無
11 原告らに生じた損害の有無及びその額
12 弁済の抗弁の成否
13 不作為義務違反及び協議義務違反の有無

   --------------------

■事案の概要

『1 本件訴訟に至る経緯
 原告Aの制作に係る著作物(当該著作物を商品化したものを、ATSUKOMATANOブランド〔以下「AMブランド」という。〕に関する商品をいうものとして、以下「AM商品」と総称する。)の権利を管理する原告会社は、被告タオル美術館との間で、平成10年1月1日、上記著作物の使用を許諾するマスターライセンス契約(以下「基本契約」という。)を締結し、被告タオル美術館は、被告一広に対し、上記基本契約に基づき、著作物の使用に係るサブライセンス契約を締結し、被告らは、AM商品を製造販売した(以下、被告ら製造販売に係るAM商品を「被告商品」という。)。
 しかしながら、原告会社と被告タオル美術館は、平成29年12月27日、被告タオル美術館に違法コピー等の重大な契約違反があったとして、同月31日、基本契約を解除した。その上で、被告らは、原告らとの間で、平成30年4月27日、違法コピー等に係る損害賠償金の一部弁済として、3億円の支払義務があることを認め、これを一括して支払うとともに、違法コピー等の問題を解決するために、損害賠償金の総額等の決定等につき、別途協議する旨の合意をした。
 本件本訴は、原告らが、上記にいう3億円を超える損害があると主張して、次に掲げる請求をする事案であり、本件反訴は、被告らが、原告において上記合意に違反する行為があると主張して、次に掲げる請求をする事案である。
(以下、略)』(2頁以下)

<経緯>

H10.01 原告会社と被告タオル美術館がマスターライセンス契約締結
H10.01 被告タオル美術館と被告一広がサブライセンス契約締結
H26.05 被告一広が原告会社に改善嘆願書提出
H29.10 原告らが被告タオル美術館において無断素材変更を確認
H29.12 原告会社と被告タオル美術館が合意解約、サブライセンス契約終了
H30.04 原告らと被告らが違法コピー問題の中間合意
H30.04 被告らが3億円支払
R05.06 商事調停

   --------------------

■判決内容

<争点>

1 本件タオル部分の著作物性

原告Aが制作した絵柄部分を除いた、それ以外のタオル部分(本件タオル部分)の著作物性について、裁判所は、
「被告商品は、本件タオル部分において、凹凸、陰影、配色、色合い、風合い、織り方その他の特徴があったとしても、凹凸、陰影、配色、色合いなどは、本件絵柄と共通しその実質を同じくする部分であると認めるのが相当であり、また、風合い、織り方などは、タオルとしての実用目的に係る機能と密接不可分に関連する部分であるから、当該機能と分離してそれ自体独立して美術鑑賞の対象となる創作性を備えているものとはいえない。」
などとして、本件タオル部分に著作物性を認めることはできず、本件タオル部分に係る著作権侵害に基づく原告らの請求は、いずれも理由がないと判断しています(40頁以下)。

   --------------------

2 本件タオル部分の著作者性

裁判所は、仮に、本件絵柄部分を除いた本件タオル部分に著作物性を認める立場を採用したとしても、原告Aの指示等はアイデアの域を超えるものとはいえず、美的鑑賞の対象となる創作性を表現した著作者は、タオルの製造に関する専門的技術を有する被告一広であると認めるのが相当であるとして、原告らの本件タオル部分の著作者性の主張を認めていません(44頁)。

   --------------------

3 色や織り方の指示違反

本件タオル部分に著作物性を認めることはできず、仮に色や織り方等の違反があったとしても、これが基本契約違反を構成するのは格別、本件絵柄部分を除く本件タオル部分が、著作権侵害を構成するものとはいえないと裁判所は判断しています(44頁以下)。

   --------------------

4 本件絵柄部分の改変による著作権侵害の有無

仮に、原告タオルアートから推察される本件絵柄を前提としても、原告ら主張に係る改変部分は、本件絵柄をタオル商品として具現化するに当たり行われた複製又は少なくとも翻案の範囲にとどまるものと認めるのが相当であり、本件絵柄に係る使用許諾の域を超えるものとはいえないと裁判所は判断。
本件絵柄部分の改変による著作権侵害の成立を否定しています(45頁)。

   --------------------

5 許諾期間経過後の製造販売に係る合意の有無

原告会社は、被告タオル美術館との間で、継続的に供給する本件絵柄の個別の許諾期間を合意することなく、少なくとも基本契約が終了するまでの間、本件絵柄の継続的な使用を許諾していたものと認めるのが相当であると裁判所は判断。
本件絵柄に関する個別の許諾期間についての原告の主張を認めていません(45頁以下)。

   --------------------

6 譲渡権消尽の成否

原告らは、被告一広に許諾した類型番号の各被告商品について、被告一広から百貨店等以外への譲渡は承諾されていないから権利消尽することはなく、また、被告一広と小原は一体であるのに、小原を販売元にして許諾期間を免れるのは潜脱的であるから譲渡権が消尽することはないなどと主張しました。
この点について、裁判所は、結論として、各被告商品(類型番号2、8の1、同18、19の1、2及び同20の1)は、本件絵柄の使用許諾を得た川辺又は被告一広により、小原に譲渡されたものであるから、著作権法26条の2第2項1号の規定により、本件絵柄の譲渡権は、消尽したものと判断。原告の主張を認めていません(51頁以下)。

   --------------------

7 類型番号別の個別争点

類型番号中の被告商品について、本件絵柄の著作権侵害性などが検討されています(52頁以下)。
結論として、類型番号1、3及び23の1の被告商品については、本件絵柄の著作権侵害が成立するのに対し、その他の類型番号については、著作権侵害が成立するものとはいえないと判断されています。

   --------------------

8 著作者人格権侵害の有無

原告Aは、本件14柄タオルにつき、被告らにおいて原告Aが指定した色や織り方の指示に違反した商品を製造したものであり、タオル生地として織られた場合の「凹凸、陰影、色合いや風合い」などの原告タオルアートの表現上の同一性を失わせる行為であるから、本件絵柄に係る著作者人格権(同一性保持権)を侵害する旨主張しました。
この点について、裁判所は、本件絵柄の一部に改変があったとしても、基本契約による使用許諾の範囲内として、原告Aの意に反するものとはいえず、著作者人格権を侵害するものとはいえないなどとして、原告の主張を認めていません(64頁)。

   --------------------

9 パブリシティ権侵害の有無

本件ネームタグ「ATSUKO MATANO」は、専ら被告商品の著作権を有する者の氏名を示す目的で使用されたものというべきであるとして、被告らが本件ネームタグを被告商品に付する行為は、パブリシティ権侵害に関する最高裁判例(最高裁平成24.2.2平成21(受)2056ピンク・レディー事件)にいう3類型に明らかに該当するものではなく、不法行為法上違法であるということはできないと裁判所は判断。
結論として、原告Aの主張は認められていません(64頁以下)。

   --------------------

10 報告義務違反の有無

裁判所は、結論として、原告らのロイヤリティ報告義務違反に基づく請求は、被告らにおいて報告義務違反を認める請求部分を除き、理由がないと判断しています(65頁以下)。

   --------------------

11 原告らに生じた損害の有無及びその額

(1)原告Aの損害額
114条3項 331万9647円
弁護士費用相当額損害 33万1965円

(2)原告会社の損害額
被告商品1に係る損害額  331万9647円
被告商品2に係る損害額 4274万1223円
(81頁以下)

   --------------------

12 弁済の抗弁の成否

原告Aのブランドに関する違法コピー商品、未承諾商品、ロイヤリティ未報告商品等の製造販売に関する件(違法コピー問題)の損害賠償金の一部として、被告らは、平成30年4月27日に3億円を支払っており、原告ら及び被告らは、上記3億円が違法コピー問題に係る損害金の一部であることを相互に確認していると裁判所は判断。
原告らの損害金の合計額は、その遅延損害金を参酌しても明らかに3億円を下回るものであるとして、原告らの損害賠償請求権は、3億円の上記支払によって既に全部消滅したものと認めるのが相当であるとして、原告らの本訴請求は認められていません(85頁)。

   --------------------

13 不作為義務違反及び協議義務違反の有無

被告らは、反訴として、原告らは被告らとの間で中間合意をし、同3条1項に基づき、被告らが基本契約解除後から継続的販売していた在庫商品全てに対し、ライセンサーとして権利行使をしてはならない不作為義務があったにもかかわらず、中間合意締結後、売上げのうち75%がAM商品の違法コピーである旨主張して、3億円の支払によって販売許諾が成立していた在庫商品の範囲を不当に制限し、上記不作為義務に違反したなどと主張しました。
結論として、裁判所は、不作為義務違反及び協議義務違反についての被告らの主張を認めていません(86頁以下)。

   --------------------

■コメント

タオル向けのデザインを提供する際のライセンス契約において、違法コピー商品や報告漏れなどが起因して紛争となった事案となります。