最高裁判所HP 知的財産裁判例集より

手漉和紙染描紙事件(控訴審)

知財高裁令和5.12.25令和5(ネ)10038著作権侵害差止等請求控訴事件PDF

知的財産高等裁判所第3部
裁判長裁判官 東海林保
裁判官    今井弘晃
裁判官    水野正則

*裁判所サイト公表 2024.2.13
*キーワード:手漉和紙、画材、著作物性、応用美術論、翻案、黙示の許諾

   --------------------

■事案

内装や画材などに使われる手漉和紙の模様の著作物性などが争点となった事案の控訴審

控訴人(1審原告) :手漉和紙販売事業者
被控訴人(1審被告):日本画家、空港ターミナル管理会社、国際線旅客ターミナルビル管理会社

   --------------------

■結論

控訴棄却

   --------------------

■争点

条文 著作権法2条1項1号、2条2項

1 本件各染描紙の著作物性
2 1審原告が利用を黙示に許諾していたか
3 本件各展示物の展示に当たり1審原告の氏名を表示しないことを1審原告が黙示に許諾したか

   --------------------

■事案の概要

『本件は、控訴人が被控訴人らに対して以下の請求をしている事案である。
(1) 著作権に基づく請求
 控訴人は、被控訴人Y’が、控訴人の著作物を複製又は翻案して本件各展示物を制作し、控訴人の著作権(複製権又は翻案権)を侵害し、控訴人はこれによって損害を受けたと主張し、被控訴人Y’に対し、不法行為に基づく損害賠償請求として、損害金806万円(本件展示物15から20について各132万円、本件展示物1から14について各1万円。一部請求。)及びこれに対する不法行為より後の日である平成22年11月1日から支払済みまで民法(平成29年法律第44号による改正前のもの。以下同じ。)所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求めている。
(2) 著作者人格権に基づく請求
 控訴人は、被控訴人Y’が、著作者名として控訴人の氏名を表示せず、自己の作品であるとして、本件展示物15から20を被控訴人ビルデングに、本件展示物1から14を被控訴人ターミナルに、それぞれ譲渡し、被控訴人ビルデング及び被控訴人ターミナルは、譲り受けた本件各展示物を展示する際に著作者として控訴人の氏名を表示せず、これにより、被控訴人らは共同して本件各展示物に係る控訴人の著作者人格権を侵害し、控訴人はこれにより損害を受けたと主張し、(1)被控訴人Y’に対し、不法行為に基づく損害賠償請求として、損害金の一部である194万円(本件展示物15から20について各30万円、本件展示物1から14について各1万円)及びこれに対する平成22年11月1日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求めるとともに、著作権法115条に基づき、謝罪広告の掲載を求め、(2)被控訴人ビルデングに対し、同法112条1項又は同法115条に基づき、本件展示物15から20の展示の差止めを求め、同法112条2項又は同法115条に基づき、本件展示物15から20の廃棄を求めるとともに、不法行為に基づく損害賠償請求として、不法行為の日の後である令和元年6月24日から、本件展示物15から20の各撤去の日まで、1日当たり各5000円の割合による損害金の支払を求め、(3)被控訴人ターミナルに対し、同法112条1項又は同法115条に基づき、本件展示物1から14の展示の差止めを求め、同法112条2項又は同法115条に基づき、本件展示物1から14の廃棄を求めるとともに、不法行為に基づく損害賠償請求として、不法行為の日の後である令和2年7月22日から、本件展示物1から14の各撤去の日まで、本件展示物1から9につき1日当たり各2500円の、本件展示物10から14につき1日当たり各1500円の、各割合による損害金の支払を求めた事案である。』

『原判決は控訴人の請求をいずれも棄却し、控訴人が原判決を不服として控訴した。』
(2頁以下)

   --------------------

■判決内容

<争点>

1 本件各染描紙の著作物性

(1)本件染描紙1から14

控訴審は、本件染描紙1から14及び本件展示物1から14に関する控訴人(1審原告)の主張は採用することができず、結論として、原審同様、本件染描紙1から14に係る控訴人の著作権又は著作者人格権が侵害されたとは認められないと判断しています(15頁)。

(2)本件染描紙15から20

控訴審は、原審同様、本件染描紙15から20は控訴人の著作物であると認めています。そして、本件展示物15から20は、本件染描紙15から20を翻案したものであると判断しています(17頁以下)。

   --------------------

2 1審原告が利用を黙示に許諾していたか

控訴審も、控訴人(1審原告)が本件染描紙15から20を加工して利用することを黙示に承諾していたと認め、被控訴人Y’が本件染描紙15から20を用いて本件展示物15から20を制作したこともこの黙示の承諾の範囲に含まれると判断しています(18頁以下)。

   --------------------

3 本件各展示物の展示に当たり1審原告の氏名を表示しないことを1審原告が黙示に許諾したか

本件展示物15から20の関係について、控訴人(1審原告)は、その制作、販売する染描紙について、その購入者が染描紙に加工して新たな作品を制作することを黙示に許諾していたと認められるところ、染描紙の購入者に対し、染描紙を加工して制作した作品を発表する際に控訴人の氏名を表示するよう求めていたとは認められないと控訴審は判断。
結論として、被控訴人Y’及び被控訴人ビルデングが、本件展示物15から20の公衆への提示に際して、控訴人の氏名を表示しなかったことは、控訴人の著作者人格権(氏名表示権)を侵害しないと判断しています(19頁以下)。

   --------------------

■コメント

原審の判断が控訴審でも維持されています。

   --------------------

■過去のブログ記事

東京地裁令和5.3.15平成30(ワ)39895等著作権侵害差止等請求事件等
原審記事