最高裁判所HP 知的財産裁判例集より

武士道書籍出版事件(控訴審)

知財高裁令和6.1.10令和5(ネ)10060損害賠償請求、同反訴請求控訴事件PDF

知的財産高等裁判所第2部
裁判長裁判官 清水 響
裁判官    浅井 憲
裁判官    勝又来未子

*裁判所サイト公表 2024.1.23
*キーワード:出版契約、公表権、商人、報酬請求権

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■事案

武士道に関する書籍の出版契約の成否などが争点となった事案の控訴審

控訴人兼被控訴人(1審原告・反訴被告):武道団体局長
控訴人兼被控訴人(1審被告・反訴原告):出版社

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■結論

原被告控訴棄却、反訴一部認容

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■争点

条文 著作権法18条、60条、商法512条

1 本件出版許諾契約1の成否(反訴)
2 本件出版許諾契約2の成否(反訴)
3 被告に生じた損害及びその額(反訴)
4 著作者人格権(公表権)侵害の有無(本訴)
5 自己決定権侵害の有無(本訴)
6 原告に生じた損害及びその額(本訴)
7 商法512条に基づく報酬請求権の存否(追加)
8 商法512条に基づく報酬請求権に係る消滅時効の成否(追加)
9 契約締結上の過失に基づく損害賠償請求権の存否(追加)

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■事案の概要

『(1) Aは、平成14年頃に被告から依頼を受け、出版社である被告から書籍として出版することを予定して、武士道に関する本件書籍の原稿の執筆をしていたが、完成前の平成27年12月頃、死亡した。Aの妻である原告は、Aの有する本件書籍の出版に関する権利義務を全て相続し、被告との間で本件書籍の出版に向けた交渉をしたが、出版に係る契約(以下「出版契約」又は「出版許諾契約」という。)の締結に至らず、本件書籍は出版されなかった。』

『(2) 本訴は、原告が、被告とA又は原告との間で本件書籍の出版契約が締結されていないにもかかわらず、被告がインターネット上で本件書籍の出版予告を行ったことが、(1)本件書籍の原稿の著作者であるAの著作者人格権(公表権)を侵害し、又は、(2)原告の自己決定権を侵害したと主張して、被告に対し、不法行為に基づく損害賠償請求として、330万円及びこれに対する不法行為の後の日である令和3年7月29日(訴状送達の日の翌5 日)から支払済みまで民法所定の年3%の割合による遅延損害金の支払を求める事案である。』

『(3) 反訴は、被告が、(1)平成18年頃、Aとの間で、本件書籍を独占的に出版する旨の本件出版許諾契約1を締結し、Aの死後は原告が本件書籍の原稿の著作権及び本件出版許諾契約1上の地位を承継したにもかかわらず、又は、(2)本件書籍に係る最終稿を被告が原告に送付した令和2年10月26日までに、原告と被告との間で本件書籍の本件出版許諾契約2が成立したにもかかわらず、原告が、令和3年12月22日、本件書籍の出版を拒絶したことにより、出版することができなくなったと主張し、本件出版許諾契約1又は2に係る債務不履行に基づく損害賠償請求として、142万1345円及びこれに対する催告の後の日である令和4年5月10日(反訴状送達の日の翌日)から支払済みまで民法所定の年3%の割合による遅延損害金の支払を求める事案である。』

『(4) 原判決は、原告の本訴請求及び被告の反訴請求をいずれも棄却し、双方が控訴した。
 なお、被告は、控訴審において、反訴請求について、前記(3)の債務不履行に基づく損害賠償請求権に加え、前記(3)と同額の商法512条に基づく相当報酬請求及び契約締結上の過失に基づく損害賠償請求を選択的に追加した。』
(2頁以下)

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■判決内容

<争点>

1 本件出版許諾契約1の成否(反訴)
2 本件出版許諾契約2の成否(反訴)
3 被告に生じた損害及びその額(反訴)
4 著作者人格権(公表権)侵害の有無(本訴)
5 自己決定権侵害の有無(本訴)
6 原告に生じた損害及びその額(本訴)
7 商法512条に基づく報酬請求権の存否(追加)
8 商法512条に基づく報酬請求権に係る消滅時効の成否(追加)
9 契約締結上の過失に基づく損害賠償請求権の存否(追加)

(1)本訴請求について

控訴審は、本訴請求(争点4乃至6)について原審の判断を維持しています(11頁以下)。

(2)反訴請求について

控訴審は、争点1乃至3について、原審の判断を維持しています(11頁以下)。

控訴審で追加請求された争点7乃至9について、被告は株式会社であり、書籍出版のために編集行為等を行う「商人」に当たるところ(会社法5条、商法4条1項、502条6号)、被告が本件書籍の出版のために行ってきた作業は、「その営業の範囲内において他人のために行為をしたとき」に当たるから、被告は原告に対し、商法512条に基づく相当報酬請求権を有する旨主張しました。
控訴審は、被告が行った上記作業は、商法512条の「商人がその営業の範囲内において他人のために」した行為であると認められ、被告は、原告に対して相当額の報酬を請求することができると判断。
結論として、被告は原告に対して商法512条に基づく報酬請求権により78万1345円を請求することができると判断されています(13頁以下)。

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■コメント

控訴審で追加請求された争点以外は、原審の棄却の判断が維持されています。

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