最高裁判所HP 知的財産裁判例集より
木枯し紋次郎キャラクター事件
東京地裁令和5.12.7令和5(ワ)70139著作権侵害差止請求事件PDF
東京地方裁判所民事第40部
裁判長裁判官 中島基至
裁判官 小田誉太郎
裁判官 古賀千尋
*裁判所サイト公表 2023.12.28
*キーワード:キャラクター、著作物性、アイデア、商品等表示、ポパイ
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■事案
木枯し紋次郎のキャラクターの著作物性が争点となった事案
原告:故小説家相続人、著作権管理会社
被告:食品製造販売会社
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■結論
請求棄却
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■争点
条文 著作権法2条1項1号、不正競争防止法2条1項1号
1 著作権侵害の有無
2 不正競争該当性
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■事案の概要
『(1) 故笹沢左保ことB(以下「故B」という。)は、「木枯し紋次郎」シリーズの連載小説(別紙本件書籍目録記載1及び2の各書籍〔以下「本件書籍」という。〕を含む。)を執筆した。その後、本件書籍は、Cの作画により漫画化され、「赦免花は散った」、「湯煙に月は砕けた」、「女人講の闇を裂く」、「川留めの水は濁った」の4作品が収録された単行本(以下「本件漫画作品」という。)が発行された。そして、本件書籍は、Dの主演によりテレビ化され、第1話「川留めの水は濁った」から第18話「流れ舟は帰らず」までのテレビシリーズ(「本件テレビ作品」という。)が放映された。さらに、本件書籍は、Eの主演により映画化され、「木枯し紋次郎」及び続編の「木枯し紋次郎 関わりござんせん」(以下「本件映画作品」といい、本件漫画作品、本件テレビ作品と併せて「本件各作品」という。)が全国公開された。
そして、原告Aは、本件各作品その他の故B創作に関する著作権を全て相続し、原告会社に対し、上記著作権一切に関する独占的な利用を許諾した。』
『(2) 本件は、原告らが、被告に対し、被告が別紙被告図柄目録記載の図柄(以下「被告図柄」という。)及び「紋次郎」という語を別紙被告商品目録記載の各商品(以下「被告商品」という。)に付して製造販売し、その画像を公衆送信することは、本件各作品に係る複製権又は翻案権、公衆送信権及び譲渡権を侵害すると主張するとともに、被告図柄等を付して被告商品を製造販売することは、不正競争防止法2条1項1号又は2号に掲げる「不正競争」に該当すると主張して、著作権法112条1項及び2項並びに不正競争防止法3条1項及び2項に基づき、被告商品の製造販売等の差止め及び廃棄を求めるとともに、民法709条及び著作権法114条3項並びに不正競争防止法4条及び5条3項1号に基づき、1億5126万1000円(損害額1億3751万1000円及び弁護士費用1375万円の合計額)及びこれに対する訴状送達の日の翌日である令和5年4月8日から支払済みまで民法所定の年3分の割合による遅延損害金の支払を求める事案である。』
(1頁以下)
<経緯>
S48 「赦免花は散った」「女人講の闇を裂く」刊行
S52 「紋次郎」被告商標登録1299235-2
S52 被告図柄商標登録1244759
S57 「紋次郎いか」被告商標登録1551331
H14 笹沢左保死去
H20 「げんこつ紋次郎」被告商標登録5115105
被告商品
「紋次郎いか」「げんこつ紋次郎」「とんがりいか」「てっぽういか」
本件書籍(著者:笹沢左保 発行所:株式会社角川書店)
「赦免花は散った」「女人講の闇を裂く」
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■判決内容
<争点>
1 著作権侵害の有無
原告は、本件書籍に登場する「紋次郎」が被告商品において複製あるいは翻案がされていると主張しました。
この点について、裁判所は、著作物性の意義(著作権法2条1項1号)、また、キャラクターの著作物性(ポパイ事件 最高裁平成9.7.17平成(オ)1443判決)について言及。
そして、「著作権者は、一話完結形式の連載小説に係る著作権侵害を主張する場合、その連載小説中のどの回の文章表現に係る著作権が侵害されたのかを具体的に特定する必要があるものと解するのが相当である。」と説示。
本件へのあてはめとして、
「原告らは、特定論において、著作権が侵害されたと主張する著作物につき、(1)通常より大きい三度笠を目深にかぶり、(2)通常よりも長い引き回しの道中合羽で身を包み、(3)口に長い竹の楊枝をくわえ、(4)長脇差を携えた渡世人という記述(以下「本件渡世人」という。別紙本件紋次郎表示目録参照)であると特定するにとどまり、本件渡世人を個別の写真や図柄等として特定するものではなく、その他に主張する予定もないと陳述している(第1回口頭弁論調書参照)。
そうすると、原告らは、一話完結形式の連載小説に係る著作権侵害を主張する場合、その連載小説中のどの回の文章表現に係る著作権が侵害されたのかを具体的に特定するものではない。」
と判断。
結論としては、
「原告らの主張の実質は、本件書籍、本件漫画作品、本件テレビ作品及び本件映画作品において一貫して登場する紋次郎というキャラクターを保護すべき旨主張するものに帰し、原告らの主張は、表現の自由、創作の自由を保障するという観点から創作的表現に限り一定期間の保護を認めるという著作権法の趣旨目的のほか、前掲各最高裁判決が説示するところを正解するものとはいえない。」
として、原告の主張を認めていません(9頁以下)。
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2 不正競争該当性
原告は、被告図柄等を付して被告商品を製造販売することが不正競争防止法2条1項1号又は2号に掲げる「不正競争」に該当すると主張しました。
この点について、裁判所は、前記の(1)ないし(4)の特徴を備えた本件渡世人に係る表示が2条1項1号の「商品等表示」に該当するかどうかに関して、本件渡世人がありふれた江戸時代の渡世人をいうにすぎないことなどから、該当性を否定。
結論として、不正競争該当性を否定しています(13頁以下)。
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■コメント
笹沢左保の『木枯し紋次郎』時代小説シリーズは、中村敦夫主演のテレビドラマなどでお馴染みの作品です。
木枯し紋次郎のイメージが著作物として保護されるか等が争点となりましたが、小説上の主人公(キャラクター)の保護としてアイデアと表現の区別(著作権法)や不正競争行為性(不正競争防止法)を考える際に参考になる事案となります。
(判決文別紙)被告図柄
(判決文別紙)本件紋次郎表示
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■参考判例
ポパイ事件(最高裁判所平成9年7月17日平成4(オ)1443著作権侵害差止等 第一小法廷判決)
判決文
木枯し紋次郎キャラクター事件
東京地裁令和5.12.7令和5(ワ)70139著作権侵害差止請求事件PDF
東京地方裁判所民事第40部
裁判長裁判官 中島基至
裁判官 小田誉太郎
裁判官 古賀千尋
*裁判所サイト公表 2023.12.28
*キーワード:キャラクター、著作物性、アイデア、商品等表示、ポパイ
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■事案
木枯し紋次郎のキャラクターの著作物性が争点となった事案
原告:故小説家相続人、著作権管理会社
被告:食品製造販売会社
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■結論
請求棄却
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■争点
条文 著作権法2条1項1号、不正競争防止法2条1項1号
1 著作権侵害の有無
2 不正競争該当性
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■事案の概要
『(1) 故笹沢左保ことB(以下「故B」という。)は、「木枯し紋次郎」シリーズの連載小説(別紙本件書籍目録記載1及び2の各書籍〔以下「本件書籍」という。〕を含む。)を執筆した。その後、本件書籍は、Cの作画により漫画化され、「赦免花は散った」、「湯煙に月は砕けた」、「女人講の闇を裂く」、「川留めの水は濁った」の4作品が収録された単行本(以下「本件漫画作品」という。)が発行された。そして、本件書籍は、Dの主演によりテレビ化され、第1話「川留めの水は濁った」から第18話「流れ舟は帰らず」までのテレビシリーズ(「本件テレビ作品」という。)が放映された。さらに、本件書籍は、Eの主演により映画化され、「木枯し紋次郎」及び続編の「木枯し紋次郎 関わりござんせん」(以下「本件映画作品」といい、本件漫画作品、本件テレビ作品と併せて「本件各作品」という。)が全国公開された。
そして、原告Aは、本件各作品その他の故B創作に関する著作権を全て相続し、原告会社に対し、上記著作権一切に関する独占的な利用を許諾した。』
『(2) 本件は、原告らが、被告に対し、被告が別紙被告図柄目録記載の図柄(以下「被告図柄」という。)及び「紋次郎」という語を別紙被告商品目録記載の各商品(以下「被告商品」という。)に付して製造販売し、その画像を公衆送信することは、本件各作品に係る複製権又は翻案権、公衆送信権及び譲渡権を侵害すると主張するとともに、被告図柄等を付して被告商品を製造販売することは、不正競争防止法2条1項1号又は2号に掲げる「不正競争」に該当すると主張して、著作権法112条1項及び2項並びに不正競争防止法3条1項及び2項に基づき、被告商品の製造販売等の差止め及び廃棄を求めるとともに、民法709条及び著作権法114条3項並びに不正競争防止法4条及び5条3項1号に基づき、1億5126万1000円(損害額1億3751万1000円及び弁護士費用1375万円の合計額)及びこれに対する訴状送達の日の翌日である令和5年4月8日から支払済みまで民法所定の年3分の割合による遅延損害金の支払を求める事案である。』
(1頁以下)
<経緯>
S48 「赦免花は散った」「女人講の闇を裂く」刊行
S52 「紋次郎」被告商標登録1299235-2
S52 被告図柄商標登録1244759
S57 「紋次郎いか」被告商標登録1551331
H14 笹沢左保死去
H20 「げんこつ紋次郎」被告商標登録5115105
被告商品
「紋次郎いか」「げんこつ紋次郎」「とんがりいか」「てっぽういか」
本件書籍(著者:笹沢左保 発行所:株式会社角川書店)
「赦免花は散った」「女人講の闇を裂く」
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■判決内容
<争点>
1 著作権侵害の有無
原告は、本件書籍に登場する「紋次郎」が被告商品において複製あるいは翻案がされていると主張しました。
この点について、裁判所は、著作物性の意義(著作権法2条1項1号)、また、キャラクターの著作物性(ポパイ事件 最高裁平成9.7.17平成(オ)1443判決)について言及。
そして、「著作権者は、一話完結形式の連載小説に係る著作権侵害を主張する場合、その連載小説中のどの回の文章表現に係る著作権が侵害されたのかを具体的に特定する必要があるものと解するのが相当である。」と説示。
本件へのあてはめとして、
「原告らは、特定論において、著作権が侵害されたと主張する著作物につき、(1)通常より大きい三度笠を目深にかぶり、(2)通常よりも長い引き回しの道中合羽で身を包み、(3)口に長い竹の楊枝をくわえ、(4)長脇差を携えた渡世人という記述(以下「本件渡世人」という。別紙本件紋次郎表示目録参照)であると特定するにとどまり、本件渡世人を個別の写真や図柄等として特定するものではなく、その他に主張する予定もないと陳述している(第1回口頭弁論調書参照)。
そうすると、原告らは、一話完結形式の連載小説に係る著作権侵害を主張する場合、その連載小説中のどの回の文章表現に係る著作権が侵害されたのかを具体的に特定するものではない。」
と判断。
結論としては、
「原告らの主張の実質は、本件書籍、本件漫画作品、本件テレビ作品及び本件映画作品において一貫して登場する紋次郎というキャラクターを保護すべき旨主張するものに帰し、原告らの主張は、表現の自由、創作の自由を保障するという観点から創作的表現に限り一定期間の保護を認めるという著作権法の趣旨目的のほか、前掲各最高裁判決が説示するところを正解するものとはいえない。」
として、原告の主張を認めていません(9頁以下)。
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2 不正競争該当性
原告は、被告図柄等を付して被告商品を製造販売することが不正競争防止法2条1項1号又は2号に掲げる「不正競争」に該当すると主張しました。
この点について、裁判所は、前記の(1)ないし(4)の特徴を備えた本件渡世人に係る表示が2条1項1号の「商品等表示」に該当するかどうかに関して、本件渡世人がありふれた江戸時代の渡世人をいうにすぎないことなどから、該当性を否定。
結論として、不正競争該当性を否定しています(13頁以下)。
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■コメント
笹沢左保の『木枯し紋次郎』時代小説シリーズは、中村敦夫主演のテレビドラマなどでお馴染みの作品です。
木枯し紋次郎のイメージが著作物として保護されるか等が争点となりましたが、小説上の主人公(キャラクター)の保護としてアイデアと表現の区別(著作権法)や不正競争行為性(不正競争防止法)を考える際に参考になる事案となります。
(判決文別紙)被告図柄
(判決文別紙)本件紋次郎表示
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■参考判例
ポパイ事件(最高裁判所平成9年7月17日平成4(オ)1443著作権侵害差止等 第一小法廷判決)
判決文