最高裁判所HP 知的財産裁判例集より

ドラクエキャラクター名称事件

東京地裁令和5.10.20令和3(ワ)27154名誉回復措置等請求事件PDF
別紙

東京地方裁判所民事第46部
裁判長裁判官 柴田義明
裁判官    杉田時基
裁判官    仲田憲史

*裁判所サイト公表 2023.12.27
*キーワード:キャラクター名称、著作物性、出版契約、協議義務

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■事案

ドラクエキャラクターの名称が著作権などで保護されるかどうかが争点となった事案

原告:小説家
被告:映画会社、ゲーム会社、映画監督、プロデューサー、映画原作者

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■結論

請求棄却

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■争点

条文 著作権法2条1項1号

1 本件名称に著作物性が認められるか
2 出版契約違反性

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■事案の概要

『本件は、原告が、被告株式会社スクウェア・エニックス(以下「被告スクウェア・エニックス」という。)が発売したゲームソフトを原作とする小説を執筆し、その際、原告が同小説の主人公の名称を発案して執筆したところ、(1)被告らが同ゲームソフトを原作とする映画を製作委員会の構成員として共同で制作するに当たり、同映画の主人公の名称として原告が発案した前記主人公の名称を使用したことが原告の著作権を侵害した、(2)被告スクウェア・エニックスには原告との出版契約に基づき同名称を使用するに当たって原告と協議する義務が存在したにもかかわらず協議をしなかったことについて、被告らは、共同して同協議義務に係る債権侵害をしたとして、被告らに対して、著作権法115条の名誉回復措置としての謝罪文の掲載、著作権侵害又は前記債権侵害の共同不法行為に基づき、連帯して220万円及び遅延損害金を請求する事案である。』
(2頁以下)

<経緯>

H02 原告が小説執筆
H12 原告と被告スクウェア・エニックスが出版契約締結
R02 映画「ドラゴンクエスト ユア・ストーリー」公開

本件ゲームの主人公名称(本件正式名称)
「リュケイロム・エル・ケル・グランバニア」(通称:リュカ)

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■判決内容

<争点>

1 本件名称に著作物性が認められるか

裁判所は著作物性(著作権法2条1項1号)の意義について言及した上で、

「原告は、本件名称がそれ自体で著作物であると主張する。しかし、人物の名称は、当該人物の特定のための符号であり、そうである以上、それは、思想又は感情を創作的に表現したものとは必ずしもいえず、また、文芸、学術、美術又は音楽の範囲に属するものとはいえないとして、著作物ではないと解するのが相当である。当該名称を作成した者が当該名称に対して何らかの意味を付与する意図があったとしても、それが、当該人物の特定のための符号として用いられているといえるものである限りは、その性質から、上記のとおり、それは著作物でないと解される。」

「本件正式名称は、人物の名称としてはやや長いものの、王族であるという当該人物の出身国名が付されるなどして長くなっているのであって、当該人物の特定のための符号として用いられているといえるものであり、また、本件通称は当該人物の特定のための符号として用いられていることが明らかである。本件名称は、いずれも著作物ではない。」

として、結論として主人公の名称の著作物性を否定しています(8頁以下)。

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2 出版契約違反性

被告スクウェア・エニックスにおいて、本件出版契約に基づき本件映画を作成するにあたり、原告との間で本件名称を使用することにつき協議する義務に違反したかといった点を前提に、被告らにおいて、本件映画を作成したことが、被告らによる原告の被告スクウェア・エニックスに対する協議履行請求権の債権侵害の不法行為に当たるかどうかが争点となっています(9頁以下)。

(1)出版契約上の協議義務違反の成否

二次的使用に関する本件出版契約第5条について、裁判所は、第三者との間で第三者が本件小説を著作権侵害とならない態様で利用するための利用許諾の交渉、契約締結、契約に基づく処理を行う場合には、その処理を被告スクウェア・エニックス単体で行うものとし、ただし、その利用許諾の条件については原告との協議の上で決定されたところに基づくことが定められていると解釈。
そして、第三者において著作権侵害とならない態様で利用するため交渉が必要ない場合や第三者との間でそのための交渉が持たれない場合には、被告スクウェア・エニックスには原告との間で同条に基づく協議をする義務があったとはいえないと判断。
本件では本件小説で記載されている本件名称について、著作物であるとは認められず、本件名称のみを第三者が利用することは著作権侵害に当たるとはいえないと判断。また、被告スクウェア・エニックスが本件名称について第三者と利用許諾についての交渉を提起すべき理由もなく、そのような交渉が行われたこともうかがえないと認定。
結論として、本件において被告スクウェア・エニックスに、本件出版契約に基づき原告と本件名称の利用条件について協議すべき義務があったとはいえず、同義務の違反があったとはいえないと判断しています。

(2)被告らによる共同不法行為の成否

本件映画を作成したことが、被告らによる原告の被告スクウェア・エニックスに対する協議履行請求権の債権侵害の共同不法行為に当たるかどうかの争点についても、協議義務違反が認められないことから裁判所はこれを否定しています。

結論として、原告の主張はいずれも容れられていません。

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■コメント

原作者がキャラクターの名称創作の利益を求めましたが、著作権でも契約でも独自の保護は認められませんでした。