最高裁判所HP 知的財産裁判例集より

戦闘ゲーム開発業務委託契約事件(控訴審)

知財高裁令和5.11.28令和5(ネ)10073著作権等侵害による損害賠償等請求控訴事件PDF

知的財産高等裁判所第2部
裁判長裁判官 清水 響
裁判官    浅井 憲
裁判官    勝又来未子

*裁判所サイト公表 2023.12.11
*キーワード:著作権譲渡、映画の著作物、参加約束、ゲーム、著作者人格権不行使特約、不当利得

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■事案

ゲーム開発業務委託契約での業務内容などが争点となった事案の控訴審

控訴人(1審原告) :テレビゲーム開発事業者
被控訴人(1審被告):コンピュータソフトウェア開発会社、ゲーム会社

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■結論

控訴棄却

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■争点

条文 民法703条

1 本件業務委託契約に基づく本件各動画に係る著作権の移転、著作者人格権の不行使の合意について
2 本件成果物の無断利用に係る不当利得の成否

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■事案の概要

『1(1) 被控訴人株式会社トーセ(原審被告。以下「被告トーセ」という。)は、本判決別紙1(ゲームソフト目録)記載1のゲームソフト(以下「本件ソフト」という。)、同別紙記載2のゲームソフト(以下「本件派生ソフト1」という。)及び同別紙記載3のゲームソフト(以下「本件派生ソフト2」といい、本件派生ソフト1と併せて「本件各派生ソフト」といい、本件ソフト及び本件各派生ソフトを併せて「本件ソフト等」という。)の開発又は製作等をした者、被控訴人株式会社バンダイナムコエンターテインメント(原審被告。以下「被告バンダイナムコ」という。)は、本件ソフト等を販売するなどした者、控訴人(原審原告。以下「原告」という。)は、本件ソフトの開発又は製作に関与し、原判決別紙著作物目録記載の各動画(以下「本件各動画」という。)を製作したと主張する者である。』

『(2) 本件における原告の請求は、次のとおりである。
ア 被告らによる本件各動画に係る著作権の侵害を理由とする不法行為又は不当利得に基づく請求(控訴の趣旨2(1)ア、同(2)アイ)
(ア) 主位的請求(不法行為)
 原告は、被告らは共同して本件ソフト等(本件各動画を使用して開発又は製作がされたもの)を販売し、本件各動画に係る原告の著作権(頒布権)を侵害したと主張し、民法709条及び同法719条1項前段に基づいて、被告らに対し、損害賠償金2778万7500円の内金1500万円並びにうち926万2500円に対する不法行為の日(本件ソフトの販売開始日)である平成24年11月29日から及びうち573万7500円に対する不法行為の日(本件派生ソフト1の販売開始日)である平成26年4月17日からいずれも支払済みまで平成29年法律第44号による改正前の民法所定の年5分の割合による遅延損害金の連帯支払を求めた。
(イ) 予備的請求(不当利得)
 原告は、被告らはそれぞれ本件ソフト等の無断販売により利益を得たところ、これは不当利得に当たると主張し、民法703条に基づいて、被告らに対し、それぞれ不当利得金1389万3750円の内金750万円及びこれに対する履行の請求の日の翌日である令和2年11月28日から支払済みまで同法所定の年3%の割合による遅延損害金の支払を求めた。』

『イ 被告トーセによる仕様書等の無断利用を理由とする不当利得に基づく請求(控訴の趣旨2(1)イ、同(2)ウ)
 原告は、被告トーセは原告が作成した成果物(戦闘の仕様、ゲームの仕組み等に関する仕様書、指示書等。以下「本件成果物」という。)を無断で利用して利益を得たところ、これは不当利得に当たると主張し、民法703条に基づいて、被告トーセに対し、不当利得金1881万円の内金90万円及びこれに対する履行の請求の日の翌日である令和2年11月28日から支払済みまで同法所定の年3%の割合による遅延損害金の支払を求めた。』

『ウ 被告トーセによる本件ソフトに係る著作者人格権の侵害を理由とする不法行為に基づく請求(控訴の趣旨2(1)ウ、同(2)エ)
 原告は、被告トーセは原告の氏名を表示せずに本件ソフトの公衆への提供又は提示をし、本件ソフトに係る原告の著作者人格権(氏名表示権)を侵害したと主張し、民法709条に基づいて、被告トーセに対し、損害賠償金250万円の内金9万円及びこれに対する不法行為の日の後である令和2年11月28日から支払済みまで同法所定の年3%の割合による遅延損害金の支払を求めた。』

『(3) 原審は、原告の請求を全部棄却したところ、原告は、これを不服として本件控訴をした。』
(2頁以下)

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■判決内容

<争点>

1 本件業務委託契約に基づく本件各動画に係る著作権の移転、著作者人格権の不行使の合意について

控訴審は、「仮に、争点1及び争点2で原告が主張するとおり本件各動画が著作物に該当し、原告がその著作者であったとしても、その著作権は、本件業務委託契約第7条第1項の約定により、遅くとも平成22年12月末頃、原告から被告トーセに移転したことになる。また、仮に、争点7で原告が主張するとおり原告が本件ソフトの著作者であるとしても、原告は、同条第3項の約定により、被告トーセとの間で、本件ソフトに係る著作者人格権を行使しない旨の合意をしたものと認められる。」と判断。
本件各動画に係る著作権の侵害又は不当利得に関する請求及び本件ソフトに係る著作者人格権の侵害に関する請求についての結論として、原告は、遅くとも平成23年1月以降、本件各動画に係る著作権を有しておらず、平成24年11月29日以降の本件各動画に係る著作権(頒布権)の侵害を理由とする損害賠償請求及び平成23年1月以降の本件各動画に係る被告らの利得等を理由とする不当利得返還請求は、いずれも理由がないと判断。
また、仮に、原告が本件ソフトの著作者であったとしても、原告は、被告トーセに対して本件ソフトに係る著作者人格権(氏名表示権)を行使することはできないことから、本件ソフトに係る著作者人格権の侵害を理由とする損害賠償請求は理由がないと判断しています(6頁以下)。

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2 本件成果物の無断利用に係る不当利得の成否

控訴審は、『仮に、原告が本件ソフトの開発業務又は製作業務に関与する過程で本件ソフトにおける戦闘の仕様、ゲームの仕組み等に関する仕様書、指示書等の本件成果物を作成し、これらを被告トーセに引き渡し、被告トーセにおいてこれらを利用したとしても、前記2で判示したところによれば、本件成果物はいずれも本件業務委託契約に基づく業務の一環として原告から被告トーセに対し提供されたものであることが推認されるというべきである。すなわち、被告トーセによる当該利用が法律上の原因なくされたものであるとはにわかに認めることはできず、これを認めるに足りる的確な証拠はない(なお、本件業務委託契約第7条第1項には、「成果物の所有権は、第5条に規定する成果物の引渡完了をもって原告から被告トーセに移転する」旨の約定がある。)。』として、本件成果物の無断利用に関する不当利得返還請求についても、理由がないと判断しています(11頁以下)。

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■コメント

控訴審でも原審の棄却の判断が維持されています。

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■過去のブログ記事

東京地裁令和5.5.31令和3(ワ)13311著作権等侵害による損害賠償等請求事件
原審記事