最高裁判所HP 知的財産裁判例集より

退職従業員音源持ち出し事件

東京地裁令和5.7.26令和3(ワ)17298損害賠償等請求事件PDF

東京地方裁判所民事第46部
裁判長裁判官 柴田義明
裁判官    杉田時基
裁判官    仲田憲史

*裁判所サイト公表 2023.11.6
*キーワード:原盤、音源、レコード製作者、退職従業員、退職合意書、暴利行為

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■事案

退職従業員が持ち出した音源の取扱いが争点となった事案

原告:効果音響制作会社
被告:原告元従業員

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■結論

請求一部認容

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■争点

条文 著作権法96条、民法90条

1 本件合意により持ち出し等が禁止されたものの内容について
2 被告が原告の音源を持ち出して使用したか
3 本件合意が公序良俗違反(暴利行為)により無効であるか
4 原告が「拳銃コミック6mmテープ」についてレコード製作者の権利を有しているか
5 損害論

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■事案の概要

『本件は、原告が、原告の元従業員で音響効果の業務を担当していた被告との間で、被告の退職の際に原告が保有していた音源を持ち出さない旨を合意したにもかかわらず、被告がこれを持ち出して退職後にこれを音響効果の仕事で使用したことが債務不履行に当たり、また、持ち出した音源の中には、原告がレコード製作者の権利を有しているものがあり、被告が音響効果業務に当たり複製して使用したことが複製権(著作権法96条)を侵害するとして、債務不履行又は不法行為に基づき1050万円及び訴状送達の日の翌日である令和3年7月23日から支払済みまで、民法所定の年3分の割合による遅延損害金を請求する事案である。』
(1頁以下)

<経緯>

S52 被告が原告に入社
H29 被告が原告退社、退職合意書作成

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■判決内容

<争点>

1 本件合意により持ち出し等が禁止されたものの内容について

被告は、原告在職時、音響効果業務を担当していましたが、被告が原告を退職する際に、原被告間で退職合意書(本件合意書)を作成していました。
本件合意書にある音源持ち出し禁止の規定(第9条)の解釈として、裁判所は、諸事情を勘案して、本件合意書において持ち出し禁止の対象が原告が「著作権を有する音源」又は「著作権使用許諾を受けた音源」と記載されていたとしても、本件合意において原被告間では原告が保有する全ての音源を被告が原告から持ち出すことやその持ち出したものを使用することが禁止されたことが合意されていたと認められると判断しています(6頁)。

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2 被告が原告の音源を持ち出して使用したか

「朝の雀6mmテープ」についてのみ、持ち出しをして使用した事実が認定されています(6頁以下)。

結論として、裁判所は、被告が「朝の雀6mmテープ」をアニメ「サザエさん」とは異なる作品で使用したことが禁止対象となる持ち出し及び音源の使用にあたるとして、本件合意に違反すると判断しています。

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3 本件合意が公序良俗違反(暴利行為)により無効であるか

本件合意書では、被告が本件合意に反した場合の1音源当たりの支払うべき金額が50万円であると定められていること(9条4項)が暴利行為(民法90条)にあたり無効と被告は主張しましたが、裁判所は、「朝の雀6mmテープ」の持ち出し、使用に対して本件合意書9条4項を適用することについて、暴利であり、無効とすべき事情があると認めるに足りないと判断。被告の反論を認めていません(10頁以下)。

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4 原告が「拳銃コミック6mmテープ」についてレコード製作者の権利を有しているか

原告が現在、「拳銃コミック6mmテープ」についてのレコード製作者の権利を有していると認めるに足りないと裁判所は判断しています(11頁)。

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5 損害論

被告が「朝の雀6mmテープ」を複製して使用したことは、原告が有するレコード製作者の権利(複製権 著作権法96条)を侵害する不法行為であると認められるものの、これによって原告に生じた損害は、争点3で認められる額(50万円)を上回ることを認めるに足りる証拠はないと裁判所は判断しています(11頁以下)。

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■コメント

退職従業員が会社と退職合意書を交わしましたが、持ち出しが禁止された音源の範囲などが争点となった事案となります。