最高裁判所HP 知的財産裁判例集より

イラストトレース疑惑ツイート名誉毀損事件

東京地裁令和5.10.13令和2(ワ)25439損害賠償等請求事件等PDF

東京地方裁判所民事第29部
裁判長裁判官 國分隆文
裁判官    間明宏充
裁判官    バヒスバラン薫

*裁判所サイト公表 2023.11.02
*キーワード:イラスト、トレース、トレパク、ツイート、名誉毀損

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■事案

トレース疑惑をブログなどで公表したことが名誉棄損にあたると判断された事案

原告:イラストレーター
被告:漫画家兼イラストレーター

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■結論

本訴:請求一部認容 反訴:却下、棄却

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■争点

条文 民法709条、不正競争防止法2条1項21号

1 名誉毀損の成否
2 違法性阻却事由又は責任阻却事由の有無及び不法行為の成否
3 原告の損害の発生の有無及び損害額
4 本件各投稿削除及び謝罪広告の必要性の有無
5 確認の利益の有無

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■事案の概要

『本件本訴は、イラストレーターである原告が、漫画家兼イラストレーターである被告に対し、被告が、その管理するブログ(以下「被告ブログ」という。)及びツイッター(インターネットを利用してツイートと呼ばれるメッセージ等を投稿することができる情報ネットワーク。現在の名称は「X」であるが、以下、名称変更の前後を問わず「ツイッター」という。)のアカウント(以下「被告アカウント」という。)において、別紙投稿記事目録記載の投稿(以下、同目録記載第1のブログ記事及び同第2のツイートを併せて「本件各投稿」という。)をしたことが、原告に対する名誉毀損又は不正競争防止法2条1項21号の不正競争行為に該当するとして、民法709条に基づき、原告が被った損害合計718万3000円(なお、原告は、後記第3、4(4)アの逸失利益の額を訂正したが、請求に反映していないため、原告主張の請求額と損害額とは一致しない。)及びこれに対する令和2年3月14日(不法行為の後の日)から支払済みまで平成29年法律第44号による改正前の民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払、民法723条又は不正競争防止法14条1項に基づき、別紙謝罪広告目録記載の謝罪広告の掲載並びに人格権又は不正競争防止法3条1項に基づき、本件各投稿の削除を求める事案である(なお、民法に基づく各請求と不正競争防止法に基づく各請求とは選択的併合の関係にある。)。』

『本件反訴は、被告が、原告に対し、(1)原告が被告の承諾なく被告のイラストをトレースして作成したイラストを、原告自身の作品として発表等したことにより、被告の営業活動上の利益が侵害されたとして、民法709条に基づき、その被った損害合計1213万7864円及びこれに対する令和3年2月10日(反訴状送達の日の翌日)から支払済みまで前同様の年5分の割合による遅延損害金の支払を求め、(2)被告が、原告による上記トレースの事実を検証するために作成した別紙検証画像目録記載の検証画像(以下、同目録記載1ないし205の検証画像を「本件旧検証画像」といい、同目録記載206ないし408の検証画像を「本件新検証画像」といい、これらを併せて「本件検証画像」という。)を公表することは、原告の名誉権、著作権、著作者人格権、営業権その他の権利の侵害に当たらないから、これらの権利又は人格的利益に基づく原告の被告に対する本件検証画像の公表差止請求権が存在しないこと及び(3)これらの権利又は人格的利益の侵害を理由とする被告の原告に対する損害賠償債務が存在しないことの確認を求める事案である。』
(2頁以下)

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■判決内容

<争点>

1 名誉毀損の成否

裁判所は、被告による本件各投稿は、原告が被告イラストをトレースして原告イラストを作成したとの事実を摘示するものであると認めています。
そして、原告が被告イラストをトレースして原告イラストを作成したとの事実は、一般の読者の普通の注意と読み方を基準とすると、本来、イラストを創作的に作成することを生業としているはずのイラストレーターである原告が、他人のイラストにフリーライドしてイラストを作成し、それを自身の作品として発表しているとの印象を与えるものであるとして、原告の社会的評価を低下させるものと認めています(26頁以下)。

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2 違法性阻却事由又は責任阻却事由の有無及び不法行為の成否

裁判所は、原告が被告イラストをトレースして原告イラストを作成したとの事実を推認することはできないと判断。
そして、被告において、原告が被告イラストをトレースして原告イラストを作成したものと信じた相当の理由があると認めることはできないとして、本件において、違法性阻却事由及び責任阻却事由の存在はいずれも認められないと判断しています(29頁以下)。
また、原告が被告イラストをトレースして原告イラストを作成した事実を認めるに足りないから、原告によって被告の営業活動上の利益が侵害されたとは認められず、原告の被告に対する不法行為は成立しないと裁判所は判断しています。

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3 原告の損害の発生の有無及び損害額

(1)逸失利益 86万円
(2)精神的損害200万円
(3)弁護士費用相当額損害 28万円

合計314万円(34頁以下)

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4 本件各投稿削除及び謝罪広告の必要性の有無

本件各投稿の削除の必要性が認められています(36頁以下)。

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5 確認の利益の有無

被告の反訴のうち、被告が、原告に対して将来本件検証画像を別紙公表方法目録記載の方法により公表した場合について、
(1)原告の被告に対する、原告の名誉権、著作権、著作者人格権、営業権その他の権利の侵害を理由として同公表の差止めを求める権利がないことの確認を求める請求に係る訴え
(2)被告の原告に対する、上記各権利侵害を理由として不法行為に基づく損害賠償債務を負わないことの確認を求める請求に係る訴え
これらについていずれも、即時確定の利益を欠くとして、不適法として却下しています(38頁以下)。

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■コメント

トレース疑惑をブログなどで公表したことが名誉棄損にあたると判断された事案になります。
タイムスタンプによる制作時期の先後関係や実演会による作成検証などの事実関係を踏まえ、結論としては、トレースした事実が認められていません。結果、著作権の争点の判断までに至っていません。

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■追記(2023/11/10)原告側リリース

「ご報告」花邑まい 2023年11月9日 17:11
https://note.com/compass_0000/n/na536a5d16c7a?sub_rt=share_b&fbclid=IwAR3kCvjA4o_lPC8EMD5biDViscgcIEZnsBYgCJPIatDZJ5IHxUV3WaZITYo

「花邑まいさんの”トレース冤罪”裁判に関するリリース」
甲本晃啓 弁護士 甲本・佐藤法律会計事務所 2023.11.09
https://ksltp.com/topics/news/4315/