最高裁判所HP 知的財産裁判例集より

東日本大震災ノンフィクション映画事件

東京地裁令和5.9.27令和3(ワ)28914損害賠償請求事件PDF
添付別紙

東京地方裁判所民事第46部
裁判長裁判官 柴田義明
裁判官    杉田時基
裁判官    仲田憲史

*裁判所サイト公表 2023.11.02
*キーワード:映画、小説、翻案、一般不法行為論、ノンフィクション

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■事案

東日本大震災を描いた小説が映画を翻案したものであるかどうかが争点となった事案

原告:映画製作者
被告:ノンフィクションライター
補助参加人:出版社

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■結論

請求棄却

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■争点

条文 著作権法27条、19条、20条、民法709条

1 本件小説は、本件映画と創作的な表現において共通し、本件映画の表現上の本質的な特徴を直接感得することができるか
2 被告による本件小説の執筆、出版が原告の人格的利益を侵害するか

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■事案の概要

『本件は、「Life 生きてゆく」と題するドキュメンタリー映画(以下「本件映画」という。)を制作し、本件映画に係る著作権を有する原告が、被告が「捜す人 津波と原発事故に襲われた浜辺で」と題する小説(以下「本件小説」という。)を執筆、出版したことが、原告の翻案権、同一性保持権、氏名表示権を侵害し、また、原告の表現活動という法的保護に値する人格的権利ないし利益を侵害したと主張して、不法行為に基づき、346万円及び本件小説を掲載した書籍の販売が開始された平成30年8月10日から支払済みまで平成29年法律第44号による改正前の民法所定の年5分の割合による遅延損害金を請求する事案である。』
(1頁以下)

<経緯>

H23.03 東日本大震災
H28.12 本件映画完成
H30.08 本件書籍出版

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■判決内容

<争点>

1 本件小説は、本件映画と創作的な表現において共通し、本件映画の表現上の本質的な特徴を直接感得することができるか

原告は、本件小説と本件映画において、別紙著作物対比表記載の各場面のうち下線が引かれた各部分について、原告の表現を被告が利用したなどと主張しましたが、裁判所は結論として原告の主張を認めていません(12頁以下)。

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2 被告による本件小説の執筆、出版が原告の人格的利益を侵害するか

原告は、被告が本件小説を執筆、出版したことが原告の表現活動という法的保護に値する人格的権利ないし利益を侵害したと主張しましたが、裁判所は結論として原告の主張を認めていません(17頁以下)。

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■コメント

ドキュメンタリー映画については、YouTubeで予告編を観ることができます。
ドキュメンタリー映画「Life 生きてゆく」

映像に登場するC、D、Eを小説でも取材して取り上げていて、被災をされたC、Dの体験談を取り扱う場合、同じ事実を描写することにもなるので、他の作品と微妙な緊張関係を孕むものの、体験談をだれか一人の者が独占できるわけではなく(敢えていえば、体験者CやDのもの)、創作者側の体験談を咀嚼した上での具体的な表現そのものが問われるところとなります。

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■参考判例

江差追分事件 最高裁平成13年6月28日平成11(受)922損害賠償等請求事件
判決文

北朝鮮映画事件(対フジテレビ) 最高裁平成23年12月8日平成21(受)602著作権侵害差止等請求事件
判決文