最高裁判所HP 知的財産裁判例集より
「TRIPP TRAPP」子供用椅子不競法事件(対Noz)
東京地裁令和5.9.28令和3(ワ)31529不正競争行為差止等請求事件PDF
東京地方裁判所民事第40部
裁判長裁判官 中島基至
裁判官 小田誉太郎
裁判官 尾池悠子
*裁判所サイト公表 2023.10.20
*キーワード:純粋美術、応用美術、著作物性、商品等表示、一般不法行為
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■事案
子供用椅子のデザインの模倣性が争点となった事案
原告:家具製造販売会社ら
被告:家具製造販売会社
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■結論
請求棄却
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■争点
条文 著作権法2条1項1号、2条2項、不正競争防止法2条1項1号、2号、民法709条
1 不正競争行為性
2 著作権侵害性
3 一般不法行為論
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■事案の概要
『家具デザイナーであるA(以下「訴外A」という。)は、製品名を「TRIPP TRAPP」とする別紙原告製品目録記載の椅子(以下「原告製品」という。)をデザインし、原告オプスヴィック社に対し、原告製品に係る著作権を譲渡した。そして、原告ストッケ社は、原告オプスヴィック社から上記著作権の独占的利用権を取得し、原告製品を製造販売等している。他方、被告は、別紙被告製品目録記載の各製品(以下、別紙被告製品目録記載1の製品を「被告製品1」、別紙被告製品目録記載2の製品を「被告製品2」といい、被告製品1及び被告製品2を併せて「被告各製品」という。)を製造販売等している。
本件は、原告らが、被告による被告各製品の製造販売等の行為は、原告製品の商品等表示として周知又は著名なものと同一の商品等表示を使用する不正競争行為に該当し、仮に不正競争行為に該当しないとしても、原告製品の著作権(原告オプスヴィック社が有するもの)及びその独占的利用権(原告ストッケ社が有するもの)の各侵害行為を構成し、仮に不正競争行為に該当せず又は著作権及びその独占的利用権の各侵害行為を構成しないとしても、取引における自由競争の範囲を逸脱する行為であり、原告らの営業上の利益を侵害すると各主張して、被告に対し、(1)原告オプスヴィック社は、主位的に不正競争防止法(以下「不競法」という。)3条1項及び2項に基づき、予備的に著作権法112条1項及び2項に基づき、被告各製品の製造販売等の差止め及び廃棄を求めるとともに、主位的に不競法4条及び5条3項1号、予備的に著作権法114条3項又は民法709条に基づき、損害金158万1504円及び弁護士費用相当額15万8150円の合計173万9654円及びこれに対する訴状送達の日の翌日から支払済みまで民法所定の年3分の割合による遅延損害金の支払を求め、(2)原告ストッケ社は、不競法3条1項及び2項に基づき、被告各製品の製造販売等の差止め及び廃棄を求めるとともに、主位的に不競法4条及び5条3項1号、予備的に著作権法114条2項の類推適用又は民法709条に基づき、損害金1186万1280円及び弁護士費用相当額118万6128円の合計1304万7408円及びこれに対する訴状送達の日の翌日から支払済みまで民法所定の年3分の割合による遅延損害金の支払を求め、(3)原告らは、不正競争防止法14条又は民法723条に基づき、別紙謝罪広告目録記載の謝罪文の掲載を求めた事案である。』
(2頁以下)
<経緯>
S47 原告製品がノルウェーで販売
S49 日本で輸入販売
H27 被告製品販売
H27 知財高裁平成27.4.14平成27(ネ)10063(別件訴訟)
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■判決内容
<争点>
1 不正競争行為性
原告製品の本件形態的特徴(2本脚と略L字型形状)の商品等表示該当性(不競法2条1項1号)について、裁判所は、商品形態と商品等表示に関する判断基準を述べた上で、本件を検討。原告製品の6つの特徴の全てを組み合わせた形態としての特徴性を踏まえ、結論としては、本件形態的特徴は、そもそもその外延が極めて曖昧であり、商品形態が商品等表示として認められる場合を限定する2条1項1号又は2号の趣旨目的に鑑みると、原告らは、原告製品のうち出所表示機能を発揮する商品等表示部分を明確に特定するものとはいえないと判断。商品等表示該当性を認めず、不正競争行為性を否定しています(31頁以下)。
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2 著作権侵害性
裁判所は、著作物性(著作権法2条1項1号)の意義、応用美術論(2条2項)に言及した上で、原告製品の被告製品による著作権侵害性を検討。
本件について、裁判所は、
「原告製品の上記直線的構成美は、究極的にシンプルであるがゆえに椅子の機能と密接不可分に関連し、当該機能といわばマージするといえるものの、仮に、これに著作物性を認める立場を採用した場合であっても、基本的にはデッドコピーの製品でない限り、製品に接する者が原告製品の細部に宿る上記直線的構成美を直接感得することはできず、まして、複雑かつ曲線的形状を数多く含む被告各製品に接する者が、原告製品の表現上の本質的な特徴を直接感得することができないことは明らかである。」
として、被告各製品の製造販売等は、明らかに原告製品を複製又は翻案するものではないとして、著作権侵害性を否定しています(37頁以下)。
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3 一般不法行為論
裁判所は、原告の一般不法行為論(民法709条)を認めていません。
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■コメント
子供用椅子のL字脚のデザイン部分に著作物性成立を認めた2015年(平成27年)の知財高裁判決(対カトージ事件)との比較検討が待たれます。
審理の過程で令和4年に裁判所において原告製品と被告製品の検証が行われており、裁判所として、「直線的構成美を造形表現する原告製品の高いデザイン性に鑑みると、少なくとも被告各製品の形態は、究極的にシンプルでシャープな印象を与える直線的構成美を欠くものであるから、原告らの出所を表示するものであると認めることができない」(36頁)との裁判官の印象の部分は重要かもしれません。
シンプルですばらしいデザインであるがゆえに、デッドコピーではないと保護されないというのも、反面、消費者側のデザインに対する民度のようなものが試されているのかもしれません。
原告製品(別紙より)
被告製品1
被告製品2
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■過去のブログ記事
「TRIPP TRAPP」椅子形態模倣事件(対カトージ)控訴審
知財高裁平成27.4.14平成26(ネ)10063著作権侵害行為差止等請求控訴事件
記事
「TRIPP TRAPP」椅子形態模倣事件(対カトージ)原審
東京地裁平成26.4.17平成25(ワ)8040著作権侵害行為差止等請求事件
原審記事
対アップリカ事件
東京地裁平成22.11.18平成21(ワ)1193著作権侵害行為差止請求事件
記事
「TRIPP TRAPP」子供用椅子不競法事件(対Noz)
東京地裁令和5.9.28令和3(ワ)31529不正競争行為差止等請求事件PDF
東京地方裁判所民事第40部
裁判長裁判官 中島基至
裁判官 小田誉太郎
裁判官 尾池悠子
*裁判所サイト公表 2023.10.20
*キーワード:純粋美術、応用美術、著作物性、商品等表示、一般不法行為
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■事案
子供用椅子のデザインの模倣性が争点となった事案
原告:家具製造販売会社ら
被告:家具製造販売会社
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■結論
請求棄却
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■争点
条文 著作権法2条1項1号、2条2項、不正競争防止法2条1項1号、2号、民法709条
1 不正競争行為性
2 著作権侵害性
3 一般不法行為論
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■事案の概要
『家具デザイナーであるA(以下「訴外A」という。)は、製品名を「TRIPP TRAPP」とする別紙原告製品目録記載の椅子(以下「原告製品」という。)をデザインし、原告オプスヴィック社に対し、原告製品に係る著作権を譲渡した。そして、原告ストッケ社は、原告オプスヴィック社から上記著作権の独占的利用権を取得し、原告製品を製造販売等している。他方、被告は、別紙被告製品目録記載の各製品(以下、別紙被告製品目録記載1の製品を「被告製品1」、別紙被告製品目録記載2の製品を「被告製品2」といい、被告製品1及び被告製品2を併せて「被告各製品」という。)を製造販売等している。
本件は、原告らが、被告による被告各製品の製造販売等の行為は、原告製品の商品等表示として周知又は著名なものと同一の商品等表示を使用する不正競争行為に該当し、仮に不正競争行為に該当しないとしても、原告製品の著作権(原告オプスヴィック社が有するもの)及びその独占的利用権(原告ストッケ社が有するもの)の各侵害行為を構成し、仮に不正競争行為に該当せず又は著作権及びその独占的利用権の各侵害行為を構成しないとしても、取引における自由競争の範囲を逸脱する行為であり、原告らの営業上の利益を侵害すると各主張して、被告に対し、(1)原告オプスヴィック社は、主位的に不正競争防止法(以下「不競法」という。)3条1項及び2項に基づき、予備的に著作権法112条1項及び2項に基づき、被告各製品の製造販売等の差止め及び廃棄を求めるとともに、主位的に不競法4条及び5条3項1号、予備的に著作権法114条3項又は民法709条に基づき、損害金158万1504円及び弁護士費用相当額15万8150円の合計173万9654円及びこれに対する訴状送達の日の翌日から支払済みまで民法所定の年3分の割合による遅延損害金の支払を求め、(2)原告ストッケ社は、不競法3条1項及び2項に基づき、被告各製品の製造販売等の差止め及び廃棄を求めるとともに、主位的に不競法4条及び5条3項1号、予備的に著作権法114条2項の類推適用又は民法709条に基づき、損害金1186万1280円及び弁護士費用相当額118万6128円の合計1304万7408円及びこれに対する訴状送達の日の翌日から支払済みまで民法所定の年3分の割合による遅延損害金の支払を求め、(3)原告らは、不正競争防止法14条又は民法723条に基づき、別紙謝罪広告目録記載の謝罪文の掲載を求めた事案である。』
(2頁以下)
<経緯>
S47 原告製品がノルウェーで販売
S49 日本で輸入販売
H27 被告製品販売
H27 知財高裁平成27.4.14平成27(ネ)10063(別件訴訟)
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■判決内容
<争点>
1 不正競争行為性
原告製品の本件形態的特徴(2本脚と略L字型形状)の商品等表示該当性(不競法2条1項1号)について、裁判所は、商品形態と商品等表示に関する判断基準を述べた上で、本件を検討。原告製品の6つの特徴の全てを組み合わせた形態としての特徴性を踏まえ、結論としては、本件形態的特徴は、そもそもその外延が極めて曖昧であり、商品形態が商品等表示として認められる場合を限定する2条1項1号又は2号の趣旨目的に鑑みると、原告らは、原告製品のうち出所表示機能を発揮する商品等表示部分を明確に特定するものとはいえないと判断。商品等表示該当性を認めず、不正競争行為性を否定しています(31頁以下)。
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2 著作権侵害性
裁判所は、著作物性(著作権法2条1項1号)の意義、応用美術論(2条2項)に言及した上で、原告製品の被告製品による著作権侵害性を検討。
本件について、裁判所は、
「原告製品の上記直線的構成美は、究極的にシンプルであるがゆえに椅子の機能と密接不可分に関連し、当該機能といわばマージするといえるものの、仮に、これに著作物性を認める立場を採用した場合であっても、基本的にはデッドコピーの製品でない限り、製品に接する者が原告製品の細部に宿る上記直線的構成美を直接感得することはできず、まして、複雑かつ曲線的形状を数多く含む被告各製品に接する者が、原告製品の表現上の本質的な特徴を直接感得することができないことは明らかである。」
として、被告各製品の製造販売等は、明らかに原告製品を複製又は翻案するものではないとして、著作権侵害性を否定しています(37頁以下)。
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3 一般不法行為論
裁判所は、原告の一般不法行為論(民法709条)を認めていません。
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■コメント
子供用椅子のL字脚のデザイン部分に著作物性成立を認めた2015年(平成27年)の知財高裁判決(対カトージ事件)との比較検討が待たれます。
審理の過程で令和4年に裁判所において原告製品と被告製品の検証が行われており、裁判所として、「直線的構成美を造形表現する原告製品の高いデザイン性に鑑みると、少なくとも被告各製品の形態は、究極的にシンプルでシャープな印象を与える直線的構成美を欠くものであるから、原告らの出所を表示するものであると認めることができない」(36頁)との裁判官の印象の部分は重要かもしれません。
シンプルですばらしいデザインであるがゆえに、デッドコピーではないと保護されないというのも、反面、消費者側のデザインに対する民度のようなものが試されているのかもしれません。
原告製品(別紙より)
被告製品1
被告製品2
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■過去のブログ記事
「TRIPP TRAPP」椅子形態模倣事件(対カトージ)控訴審
知財高裁平成27.4.14平成26(ネ)10063著作権侵害行為差止等請求控訴事件
記事
「TRIPP TRAPP」椅子形態模倣事件(対カトージ)原審
東京地裁平成26.4.17平成25(ワ)8040著作権侵害行為差止等請求事件
原審記事
対アップリカ事件
東京地裁平成22.11.18平成21(ワ)1193著作権侵害行為差止請求事件
記事