最高裁判所HP 知的財産裁判例集より

クラウドファンディング漫画制作契約事件(控訴審)

知財高裁令和5.7.31令和4(ネ)10048著作物の独占的利用権に基づく侵害差止等請求控訴事件PDF

知的財産高等裁判所第3部
裁判長裁判官 東海林保
裁判官    今井弘晃
裁判官    水野正則

*裁判所サイト公表 2023.10.12
*キーワード:漫画原稿制作契約、独占的利用許諾、虚偽事実告知、クラウドファンディング、同人誌

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■事案

クラウドファンディングを活用した企画における漫画制作契約を巡る紛争の控訴審

控訴人 (1審原告):サークル共同経営者ら
被控訴人(1審被告):漫画家

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■結論

控訴棄却

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■争点

条文 著作権法63条、不正競争防止法2条1項21号

1 本件各漫画に係る独占的利用許諾契約の成否
2 同人誌「絆」の原稿提出に係る債務不履行
3 本件漫画2の原稿提出に係る債務不履行の有無
4 本件漫画1の原稿提出に係る債務不履行の有無
5 本件漫画1のネームの提出に係る債務不履行の有無
6 宣伝用漫画原稿の提出に係る債務不履行の有無
7 機密情報の漏えいに係る債務不履行
8 打上げのキャンセルに係る債務不履行
9 本件漫画2の無断公開に係る債務不履行の有無
10 「虚偽の事実」の告知の有無


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■事案の概要

『控訴人らは、「ラジオへんすて」という名称のサークルの共同運営者であるとするところ、同サークルが企画したクラウドファンディングのプロジェクト(以下「本件企画」という。)のために、漫画家である被控訴人に対し、原判決別紙著作物目録記載1の著作物(以下「本件漫画1」といい、本件漫画1を含め、「ウチのムスコがマザコンになった理由」という題名で被控訴人が作成又は公開した漫画を「ウチムスマザコン」と総称する。)及び同記載2の著作物(以下「本件漫画2」といい、本件漫画1と併せて「本件各漫画」という。)などの作成を依頼し、被控訴人との間で、原稿作成依頼契約(以下「本件契約」という。)を締結したとする。』

『原審第1事件は、控訴人らが、被控訴人は、控訴人らと本件契約を締結するに当たり、控訴人らに対し、本件各漫画につき、著作権法63条1項に基づく独占的利用許諾をする旨の合意(以下「本件合意」という。)をしたにもかかわらず、これに違反して、本件各漫画と同一の内容である原判決別紙被控訴人公開著作物目録記載の各著作物(以下「被控訴人公開著作物」と総称する。なお、被控訴人公開著作物の具体的な内容は、次に掲げる被控訴人公開著作物一覧(1)ないし(5)のとおりである。)を公開したと主張して、著作権法112条に基づき、本件各漫画の複製、自動公衆送信及び送信可能化の差止め並びに被控訴人公開著作物1ないし4の削除を求めるとともに、被控訴人には、本件合意に違反して、被控訴人公開著作物をインターネット上のウェブサイト等において公開した行為による債務不履行のほか、本件企画に関して委託した業務に関し、次に掲げる本件各債務不履行一覧(1)ないし(8)の各債務不履行(以下、順に「本件債務不履行1」ないし「本件債務不履行8」といい、併せて「本件各債務不履行」という。)があると主張して、損害賠償金353万9228円及びこれに対する訴状送達の日の翌日である令和2年8月16日から支払済みまで民法(平成29年法律第44号による改正前のもの)所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求めた事案である。』

『原審第2事件は、控訴人らが、第1事件の係属中に、被控訴人が、本件企画に参加した他の漫画家9名に対し、「独占的利用権を許諾(譲渡)するということは、著作者(作家)であっても自分の著作物(作品)を一切使えない」などと記載された文書を送付したことが不正競争防止法2条1項21号にいう「虚偽の事実」の告知に該当すると主張して、被控訴人に対し、同法4条に基づき、損害賠償金150万円及びこれに対する訴状送達の日の翌日である令和3年2月17日から支払済みまで民法所定の年3分の割合による金員の支払を求める事案である。』

『原審が、控訴人らの請求をいずれも棄却したところ、控訴人らがその取り消しを求めて本件控訴を提起した。』
(2頁以下)

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■判決内容

<争点>

1 本件各漫画に係る独占的利用許諾契約の成否
2 同人誌「絆」の原稿提出に係る債務不履行
3 本件漫画2の原稿提出に係る債務不履行の有無
4 本件漫画1の原稿提出に係る債務不履行の有無
5 本件漫画1のネームの提出に係る債務不履行の有無
6 宣伝用漫画原稿の提出に係る債務不履行の有無
7 機密情報の漏えいに係る債務不履行
8 打上げのキャンセルに係る債務不履行
9 本件漫画2の無断公開に係る債務不履行の有無
10 「虚偽の事実」の告知の有無


結論として、控訴審でも原審の判断を維持しています。

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■コメント

原審では、合意の内容や経緯、実質を踏まえて、漫画制作契約の重要な部分である独占的利用許諾の合意の成立を否定していました。控訴審で控訴人らが新たに証拠を提出するなどしましたが、控訴審でも原審の判断が維持されています。

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■過去のブログ記事

東京地裁令和4.3.30令和2(ワ)12803等著作物の独占的利用権に基づく侵害差止等請求事件 (第1事件)、損害賠償請求事件(第2事件)
原審記事