最高裁判所HP 知的財産裁判例集より
ヴィジュアル系バンドパブリシティ権侵害事件(控訴審)
知財高裁令和5.9.13令和5(ネ)10025損害賠償請求控訴事件PDF
知的財産高等裁判所第1部
裁判長裁判官 本多知成
裁判官 遠山敦士
裁判官 天野研司
原審 東京地裁令和5.1.20令和1(ワ)30204損害賠償請求事件
判決文
添付別紙
*裁判所サイト公表 2023.9.22
*キーワード:専属契約、マネジメント契約、肖像権、パブリシティ権、黙示の承諾、受忍限度論
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■事案
バンドの専属契約終了後の事務所による肖像権、パブリシティ権侵害性が争点となった事案の控訴審
控訴人(1審原告) :バンドメンバーら4名
被控訴人(1審被告):芸能事務所
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■結論
原判決一部変更
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■争点
条文 著作権法114条3項
1 肖像権等侵害の成否
2 パブリシティ権侵害の有無
3 控訴人らの肖像等の使用許諾の有無
4 故意又は過失の有無
5 損害論
6 本件利用行為に係る報酬支払請求の当否
--------------------
■事案の概要
『本件は、被控訴人との間で専属的マネジメント契約を締結し(本件専属契約)、実演家グループ「FEST VAINQUEUR」(本件グループ)のメンバーとして活動していた控訴人らが、被控訴人に対し、被控訴人が令和元年7月13日の本件専属契約終了後も被控訴人が管理・運営する本件各サイト(本件被告サイト、本件グッズ販売サイト及び本件ファンクラブサイト)において、本件被告サイト及び本件ファンクラブサイトにつき令和元年11月30日まで、本件グッズ販売サイトにつき令和3年12月31日まで、それぞれ本件グループ名及び控訴人らの肖像、芸名等を掲載している(本件利用行為)として、
(1) 肖像権等及びパブリシティ権の侵害を理由とする不法行為に基づく損害賠償請求(いずれも一部請求)として、控訴人ら一人当たり110万円(内訳は肖像権等侵害につき50万円、パブリシティ権侵害につき50万円及び弁護士費用相当額10万円)及び令和元年12月19日(訴状送達の日の翌日)から支払済みまで民法(平成29年法律第44号による改正前のもの。以下「改正前民法」という。)所定の年5分の割合による遅延損害金の支払
(2) 控訴人らと被控訴人との間の黙示の肖像等利用契約に基づく報酬支払請求として、控訴人ら一人当たり2万2277円及びこれに対する令和元年12月1日(黙示の肖像等利用契約に基づく利用行為終了日の翌日)から支払済みまで改正前民法所定年5分の割合による遅延損害金の支払
をそれぞれ求める事案である。』
『原判決は、本件利用行為のうち、被控訴人が、令和元年12月1日から令和3年12月31日までの間、本件グッズ販売サイトにおいて、原判決別紙写真目録4記載のとおり、控訴人らの肖像写真及び控訴人らの肖像等を転写したグッズを撮影した写真を掲載し販売した行為について、被控訴人が、控訴人らのパブリシティ権を侵害したとして、控訴人らに対してそれぞれ損害額1万4000円及びこれに対する遅延損害金の各支払と、本件利用行為のうち、本件専属契約終了後から令和元年11月30日までの被控訴人による控訴人らの肖像等の利用行為について、控訴人らが被控訴人に対して報酬支払請求権に基づく報酬2万2277円及びこれに対する遅延損害金の各支払を求める限度で控訴人らの請求を認容し、その余の請求をいずれも棄却した。
これに対し、控訴人らは、敗訴部分につき不服であるとして、本件控訴をした。』
(3頁以下)
<経緯>
H22.08 原告A、Bらが専属契約締結
H24.07 原告C、Dがグループ加入
H30.01 専属契約更新
H31.04 専属契約解除通知
H31.04 ウェブサイトからの肖像等削除要請
R01.07 専属契約終了
R01.08 控訴人が専属契約書の一部条項の無効に関する地位保全等仮処分命令申立提起
R01.11 ウェブサイトから肖像等を削除
R03.12 グッズ販売停止
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■判決内容
<争点>
1 肖像権等侵害の成否
控訴審は、氏名権、肖像権の意義に言及した上で、不法行為法上違法となる場合の判断基準(受忍限度)を示しています。
そして、本件のあてはめとしては、控訴人らの肖像等の被告ウェブサイトでの利用について、控訴人らの黙示の許諾が一定の範囲ではあったことを認定。
本件専属契約終了後から令和元年11月30日までの利用行為については、黙示の許諾があるものの、令和3年12月31日までのグッズ販売については、受忍限度を超えると判断。
結論として、本件専属契約終了後から令和元年11月30日までの間、被控訴人が本件被告サイト及び本件ファンクラブサイトにおいて控訴人らの肖像等を掲載した行為は、不法行為法上違法と評価すべきものとはいえないと控訴審は判断。
他方、本件専属契約終了後から令和3年12月31日までの間、被控訴人が本件グッズ販売サイトにおいて控訴人らの肖像等を掲載し、控訴人らの肖像等が転写されたグッズを販売した行為は、不法行為上違法と評価すべきものといえると判断しています(9頁以下)。
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2 パブリシティ権侵害の有無
原審では、控訴人らの肖像等を、控訴人らの承諾なく、本件利用行為により利用することは、専ら肖像等の有する顧客吸引力の利用を目的とするものといえるとして、控訴人らのパブリシティ権を侵害するものとして不法行為法上違法となると判断されていましたが、控訴審でも原審の判断が維持されています(15頁)。
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3 控訴人らの肖像等の使用許諾の有無
控訴審は、控訴人らは被控訴人に対して本件専属契約終了後、ファンクラブの会員向けサービスが終了する令和元年11月30日までは、本件被告サイト及び本件ファンクラブサイトにおいて控訴人らの肖像等を掲載することを黙示に許諾していたといえるものの、本件専属契約終了後、本件グッズ販売サイトにおいて控訴人らの肖像等を掲載し、控訴人らの肖像等が転写されたグッズを販売することについて許諾していたとは認められないと判断しています(15頁以下)。
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4 故意又は過失の有無
本件専属契約が終了した日の翌日である令和元年7月14日以降も漫然と本件グッズ販売サイトにおいて、原告らの肖像写真及び原告らの肖像等が転写されたグッズを撮影した写真を掲載したことには、少なくとも過失があると控訴審は判断しています(16頁)。
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5 損害論
(1)肖像権等侵害による損害(慰謝料)
各人15万円
(2)パブリシティ権侵害による損害(114条3項類推適用)
各人2万6000円
なお、パブリシティ権侵害による慰謝料請求については、特段の事情がない限り認められないとして、裁判所は結論として、認めていません(18頁)。
(3)弁護士費用相当額損害
各人2万円
小計19万6000円
(16頁以下)
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6 本件利用行為に係る報酬支払請求の当否
被控訴人は、控訴人らに対して、本件利用行為についての黙示の合意に基づき、本件専属契約終了から令和元年11月30日までの間のファンクラブに関して、控訴人ら1人当たり1万5577円の各報酬を支払う義務があることは、当事者間に争いがないと控訴審は認定。
なお、黙示の合意に基づく報酬支払債務については、債務者がその期限の到来したことを知った時から遅滞の責任を負う(改正前民法412条)として、遅延損害金の始期は令和2年3月1日と判断しています(18頁以下)。
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■コメント
原審と比較して、控訴審では損害額が慰謝料が認められて増額(1人あたり1万4000円から19万6000円)の認定となっています。
なお、専属契約の条項の公序良俗違反性や専属契約終了後の事務所側の関係者への通知内容がメンバーの営業権を侵害する不法行為にあたるかが争点となった事案については、以下の判決となります。
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■過去のブログ記事
ヴィジュアル系バンド専属契約事件
知財高裁令和4.12.26令和4(ネ)10059損害賠償請求控訴事件(控訴審)
控訴審記事
東京地裁令和4.4.28令和1(ワ)35186損害賠償請求事件(原審)
原審記事
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■参考サイト
「FEST VAINQUEURに関するご報告」(レイ法律事務所)
2019年12月9日リリース
2020年7月14日リリース
2022年12月28日リリース
ヴィジュアル系バンドパブリシティ権侵害事件(控訴審)
知財高裁令和5.9.13令和5(ネ)10025損害賠償請求控訴事件PDF
知的財産高等裁判所第1部
裁判長裁判官 本多知成
裁判官 遠山敦士
裁判官 天野研司
原審 東京地裁令和5.1.20令和1(ワ)30204損害賠償請求事件
判決文
添付別紙
*裁判所サイト公表 2023.9.22
*キーワード:専属契約、マネジメント契約、肖像権、パブリシティ権、黙示の承諾、受忍限度論
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■事案
バンドの専属契約終了後の事務所による肖像権、パブリシティ権侵害性が争点となった事案の控訴審
控訴人(1審原告) :バンドメンバーら4名
被控訴人(1審被告):芸能事務所
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■結論
原判決一部変更
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■争点
条文 著作権法114条3項
1 肖像権等侵害の成否
2 パブリシティ権侵害の有無
3 控訴人らの肖像等の使用許諾の有無
4 故意又は過失の有無
5 損害論
6 本件利用行為に係る報酬支払請求の当否
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■事案の概要
『本件は、被控訴人との間で専属的マネジメント契約を締結し(本件専属契約)、実演家グループ「FEST VAINQUEUR」(本件グループ)のメンバーとして活動していた控訴人らが、被控訴人に対し、被控訴人が令和元年7月13日の本件専属契約終了後も被控訴人が管理・運営する本件各サイト(本件被告サイト、本件グッズ販売サイト及び本件ファンクラブサイト)において、本件被告サイト及び本件ファンクラブサイトにつき令和元年11月30日まで、本件グッズ販売サイトにつき令和3年12月31日まで、それぞれ本件グループ名及び控訴人らの肖像、芸名等を掲載している(本件利用行為)として、
(1) 肖像権等及びパブリシティ権の侵害を理由とする不法行為に基づく損害賠償請求(いずれも一部請求)として、控訴人ら一人当たり110万円(内訳は肖像権等侵害につき50万円、パブリシティ権侵害につき50万円及び弁護士費用相当額10万円)及び令和元年12月19日(訴状送達の日の翌日)から支払済みまで民法(平成29年法律第44号による改正前のもの。以下「改正前民法」という。)所定の年5分の割合による遅延損害金の支払
(2) 控訴人らと被控訴人との間の黙示の肖像等利用契約に基づく報酬支払請求として、控訴人ら一人当たり2万2277円及びこれに対する令和元年12月1日(黙示の肖像等利用契約に基づく利用行為終了日の翌日)から支払済みまで改正前民法所定年5分の割合による遅延損害金の支払
をそれぞれ求める事案である。』
『原判決は、本件利用行為のうち、被控訴人が、令和元年12月1日から令和3年12月31日までの間、本件グッズ販売サイトにおいて、原判決別紙写真目録4記載のとおり、控訴人らの肖像写真及び控訴人らの肖像等を転写したグッズを撮影した写真を掲載し販売した行為について、被控訴人が、控訴人らのパブリシティ権を侵害したとして、控訴人らに対してそれぞれ損害額1万4000円及びこれに対する遅延損害金の各支払と、本件利用行為のうち、本件専属契約終了後から令和元年11月30日までの被控訴人による控訴人らの肖像等の利用行為について、控訴人らが被控訴人に対して報酬支払請求権に基づく報酬2万2277円及びこれに対する遅延損害金の各支払を求める限度で控訴人らの請求を認容し、その余の請求をいずれも棄却した。
これに対し、控訴人らは、敗訴部分につき不服であるとして、本件控訴をした。』
(3頁以下)
<経緯>
H22.08 原告A、Bらが専属契約締結
H24.07 原告C、Dがグループ加入
H30.01 専属契約更新
H31.04 専属契約解除通知
H31.04 ウェブサイトからの肖像等削除要請
R01.07 専属契約終了
R01.08 控訴人が専属契約書の一部条項の無効に関する地位保全等仮処分命令申立提起
R01.11 ウェブサイトから肖像等を削除
R03.12 グッズ販売停止
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■判決内容
<争点>
1 肖像権等侵害の成否
控訴審は、氏名権、肖像権の意義に言及した上で、不法行為法上違法となる場合の判断基準(受忍限度)を示しています。
そして、本件のあてはめとしては、控訴人らの肖像等の被告ウェブサイトでの利用について、控訴人らの黙示の許諾が一定の範囲ではあったことを認定。
本件専属契約終了後から令和元年11月30日までの利用行為については、黙示の許諾があるものの、令和3年12月31日までのグッズ販売については、受忍限度を超えると判断。
結論として、本件専属契約終了後から令和元年11月30日までの間、被控訴人が本件被告サイト及び本件ファンクラブサイトにおいて控訴人らの肖像等を掲載した行為は、不法行為法上違法と評価すべきものとはいえないと控訴審は判断。
他方、本件専属契約終了後から令和3年12月31日までの間、被控訴人が本件グッズ販売サイトにおいて控訴人らの肖像等を掲載し、控訴人らの肖像等が転写されたグッズを販売した行為は、不法行為上違法と評価すべきものといえると判断しています(9頁以下)。
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2 パブリシティ権侵害の有無
原審では、控訴人らの肖像等を、控訴人らの承諾なく、本件利用行為により利用することは、専ら肖像等の有する顧客吸引力の利用を目的とするものといえるとして、控訴人らのパブリシティ権を侵害するものとして不法行為法上違法となると判断されていましたが、控訴審でも原審の判断が維持されています(15頁)。
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3 控訴人らの肖像等の使用許諾の有無
控訴審は、控訴人らは被控訴人に対して本件専属契約終了後、ファンクラブの会員向けサービスが終了する令和元年11月30日までは、本件被告サイト及び本件ファンクラブサイトにおいて控訴人らの肖像等を掲載することを黙示に許諾していたといえるものの、本件専属契約終了後、本件グッズ販売サイトにおいて控訴人らの肖像等を掲載し、控訴人らの肖像等が転写されたグッズを販売することについて許諾していたとは認められないと判断しています(15頁以下)。
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4 故意又は過失の有無
本件専属契約が終了した日の翌日である令和元年7月14日以降も漫然と本件グッズ販売サイトにおいて、原告らの肖像写真及び原告らの肖像等が転写されたグッズを撮影した写真を掲載したことには、少なくとも過失があると控訴審は判断しています(16頁)。
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5 損害論
(1)肖像権等侵害による損害(慰謝料)
各人15万円
(2)パブリシティ権侵害による損害(114条3項類推適用)
各人2万6000円
なお、パブリシティ権侵害による慰謝料請求については、特段の事情がない限り認められないとして、裁判所は結論として、認めていません(18頁)。
(3)弁護士費用相当額損害
各人2万円
小計19万6000円
(16頁以下)
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6 本件利用行為に係る報酬支払請求の当否
被控訴人は、控訴人らに対して、本件利用行為についての黙示の合意に基づき、本件専属契約終了から令和元年11月30日までの間のファンクラブに関して、控訴人ら1人当たり1万5577円の各報酬を支払う義務があることは、当事者間に争いがないと控訴審は認定。
なお、黙示の合意に基づく報酬支払債務については、債務者がその期限の到来したことを知った時から遅滞の責任を負う(改正前民法412条)として、遅延損害金の始期は令和2年3月1日と判断しています(18頁以下)。
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■コメント
原審と比較して、控訴審では損害額が慰謝料が認められて増額(1人あたり1万4000円から19万6000円)の認定となっています。
なお、専属契約の条項の公序良俗違反性や専属契約終了後の事務所側の関係者への通知内容がメンバーの営業権を侵害する不法行為にあたるかが争点となった事案については、以下の判決となります。
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■過去のブログ記事
ヴィジュアル系バンド専属契約事件
知財高裁令和4.12.26令和4(ネ)10059損害賠償請求控訴事件(控訴審)
控訴審記事
東京地裁令和4.4.28令和1(ワ)35186損害賠償請求事件(原審)
原審記事
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■参考サイト
「FEST VAINQUEURに関するご報告」(レイ法律事務所)
2019年12月9日リリース
2020年7月14日リリース
2022年12月28日リリース