最高裁判所HP 知的財産裁判例集より

伊勢大御神上大神宮線量計スナップ写真名誉毀損事件

東京地裁令和5.6.9令和2(ワ)12774損害賠償請求事件PDF

東京地方裁判所民事第29部
裁判長裁判官 國分隆 文
裁判官    間明宏充
裁判官    バヒスバラン薫

*裁判所サイト公表 2023.6.23
*キーワード:画像、著作物性、名誉毀損、名誉声望保持権

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■事案

SNSなどでの名誉毀損行為のなかで使用されたスマホ画像の著作物性などが争点となった事案

原告:スクールカウンセラー
被告:心理療法家ら3名

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■結論

一部認容

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■争点

条文 著作権法2条1項1号、113条11項

1 名誉毀損の成否
2 違法性阻却事由の存否
3 名誉感情侵害の成否
4 原告の亡父に対する敬愛追慕の情の侵害及び不法行為の成否
5 被告らによる共同不法行為の成否
6 本件原画像の著作物性及び著作者
7 名誉声望保持権の侵害の成否等
8 引用の抗弁の成否
9 プライバシー権侵害の成否
10 原告と密接な関係を有する者に対するつきまといによる不法行為の成否
11 損害論
12 差止めの必要性の有無

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■事案の概要

『本件は、原告が、次の請求をする事案である。
(1) 被告らに対する請求
 被告らが、共同して、平成26年3月24日から令和2年6月20日までの期間に、複数のブログ、ツイッター(インターネットを利用してツイートと呼ばれるメッセージ等を投稿することができる情報ネットワーク)等において、原告の名誉を毀損し、又は名誉感情を侵害する内容の記事等を投稿したとして、民法709条、710条及び719条1項に基づき、損害賠償金合計1億1338万円の一部請求として、566万9000円及びこれに対する不法行為の後の日(訴状送達の日の翌日。被告Bにつき令和2年10月26日、被告Cにつき同月23日、被告Dにつき同月16日。)から各支払済みまで平成29年法律第44号による改正前の民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払(各被告への請求範囲が重なる部分に限り連帯支払)を求めるもの。
(2) 被告Bに対する請求
ア 被告Bが、ブログ、ツイッター等において、原告のプライバシー権を侵害する内容の記事等を投稿するなどしたとして、民法709条に基づき、損害賠償金合計343万7280万円の一部請求として、57万2880円及びこれに対する不法行為の後の日(訴状送達の日の翌日)である令和2年10月26日から支払済みまで前記(1)の割合による遅延損害金の支払を求めるもの。
イ 被告Bが、ブログ、ツイッター等において、原告が著作権を有する別紙画像目録記載の画像(以下「本件原画像」という。)を複製した画像(以下「本件複製画像」という。)を、原告の名誉声望を侵害する形で掲載し、原告の名誉声望保持権を侵害したとして、民法709条に基づき、損害賠償金390万円の一部請求として、65万円及びこれに対する前記アの遅延損害金の支払を求めるもの。
ウ 被告Bが、本件複製画像をブログ、ツイッター等においてアップロードし、原告の本件原画像に係る公衆送信権を侵害するおそれがあるとして、自動公衆送信(ただし、送信可能化を含む。以下同じ。)の差止めを求めるもの。』
(2頁以下)

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■判決内容

<争点>

1 名誉毀損の成否
2 違法性阻却事由の存否
3 名誉感情侵害の成否
4 原告の亡父に対する敬愛追慕の情の侵害及び不法行為の成否
5 被告らによる共同不法行為の成否
9 プライバシー権侵害の成否
10 原告と密接な関係を有する者に対するつきまといによる不法行為の成否

以上、略。

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6 本件原画像の著作物性及び著作者

本件画像は、「原告は、南相馬市の伊勢大御神上大神宮を訪れた際に、同所に設置された線量計において、原告が持参したポケット線量計の値より低い値が表示されていることを端的に映像にするため、設置されている線量計が画面上部に、ポケット線量計が画面下部に映るように、知人にポケット線量計をカメラの前に差し出してもらい、スマートフォンで動画を撮影したこと、原告は、後に上記動画を再生し、同動画の80秒付近で静止させ、その表示画面のスクリーンショットを撮影して、本件原画像を作成した」ものでした。
裁判所は、本件画像は、写真の著作物に該当し、原告は本件原画像の著作者であると認めています(61頁以下)。

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7 名誉声望保持権の侵害の成否等

裁判所は、『著作権法113条11項は、「著作者の名誉又は声望を害する方法によりその著作物を利用する行為」について、著作者人格権を侵害する行為とみなすと規定しているところ、同項の「名誉又は声望」は,社会的な名誉又は声望であると解される。そこで、著作物を掲載した記事の投稿が「名誉又は声望を害する方法」に該当するか否かについては、著作者の社会的評価の低下をもたらすような利用であるか否かを基準として判断するのが相当である。』と説示した上で、結論としては、被告Bは、各投稿によって、著作者である原告の名誉又は声望を害する方法によりその著作物である本件原画像を利用したものであって、これは本件原画像に係る原告の著作者人格権を侵害する行為であるとみなされると判断しています(62頁以下)。

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8 引用の抗弁の成否

被告Bは、本件原画像の使用につき引用(32条1項)の抗弁を主張しましたが、裁判所は認めていません(63頁)。

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11 損害論

著作者人格権侵害とみなされる行為(113条11項)による損害については、被告Bによる原告の本件原画像に係る著作者人格権の侵害とみなされる投稿は合計10回にわたりされていること、本件複製画像と併せて投稿された記事の内容からうかがわれる原告の名誉声望に与える影響の程度は小さくないこと、原告が複数回にわたり、本件原画像の削除等を求めたにもかかわらず、被告Bはこれを意に介することなく、かえって、新たに本件複製画像を投稿していたことなどを考慮し、原告が被った精神的苦痛に関して原告の損害額は50万円と認めるのが相当であると判断しています(69頁以下)。

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12 差止めの必要性の有無

被告Bは、原告から再三にわたり、本件複製画像の掲載を中止するよう求められたにもかかわらず、これを意に介さず、本件複製画像の掲載を継続するにとどまらず、本件複製画像の新たな投稿を繰り返していたとして、裁判所は、本件複製画像の自動公衆送信又は送信可能化を差し止める必要性があると認めています(70頁)。

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■コメント

ブログ、ツイッターでの名誉棄損的言辞に関する事案です。差止めの必要性が認められています。