最高裁判所HP 知的財産裁判例集より
戦闘ゲーム開発業務委託契約事件
東京地裁令和5.5.31令和3(ワ)13311著作権等侵害による損害賠償等請求事件PDF
東京地方裁判所民事第29部
裁判長裁判官 國分隆文
裁判官 バヒスバラン薫
裁判官 小川 暁
*裁判所サイト公表 2023.6.12
*キーワード:著作権譲渡、映画の著作物、参加約束、ゲーム、著作者人格権不行使特約、不当利得
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■事案
ゲーム開発業務委託契約での業務内容などが争点となった事案
原告:テレビゲーム開発事業者
被告:コンピュータソフトウェア開発会社、ゲーム会社
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■結論
請求棄却
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■争点
条文 著作権法61条、29条、民法1条2項
1 本件業務委託契約の効力により本件各動画に係る著作権が被告トーセに帰属したといえるか
2 原告は被告バンダイナムコを製作者とする本件ソフトの製作に参加約束をしたか
3 被告トーセが原告に対し原告の参加約束による著作権の移転を主張することが信義則に違反するか
4 原告と被告トーセの間で本件各動画につき著作者人格権の不行使の合意がされたといえるか
5 被告トーセに本件成果物の利用につき不当利得が成立するか
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■事案の概要
『本件は、原告が、(1)被告トーセが、原告が著作権を有する著作物である別紙著作物目録記載の動画(以下「本件各動画」という。)を使用して、Xとの名称のゲームソフト(以下「本件ソフト」という。)並びにその派生作品であるY及びZ(以下、順次、「本件派生ソフト1」、「本件派生ソフト2」といい、これらを併せて「本件各派生ソフト」という。)を開発又は製作し、これらのソフトに係る権利を被告バンダイナムコに譲渡して、被告バンダイナムコが本件ソフト及び本件各派生ソフトを販売したことにより、被告らが、共同して原告の本件各動画に係る頒布権を侵害し、また、それにより利益を得て、(2)被告トーセが、原告が作成した、戦闘の仕様、ゲームの仕組み等に関する仕様書、指示書等(以下「本件成果物」という。)を原告に無断で利用して、本件ソフト及び本件各派生ソフトを製作し、これらを被告バンダイナムコに譲渡することにより、利益を得て、(3)被告トーセが、本件ソフトのエンディングクレジットに原告の氏名を表示せず、本件各動画に係る著作者人格権(氏名表示権)を侵害したと主張し、
(1) 主位的請求として、
ア 被告らに対し、前記(1)の行為について、民法709条及び719条に基づき、連帯して、損害賠償金2778万7500円の一部である1500万円、並びに、うち926万2500円に対する本件ソフトの販売開始日である平成24年11月29日から、及び、うち573万7500円に対する本件派生ソフト1の販売開始日である平成26年4月17日から、各支払済みまで、平成29年法律第44号による改正前の民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求め、
イ 被告トーセに対し、前記(2)の行為について、民法703条に基づき、不当利得金1881万円の一部である90万円及びこれに対する請求の日の翌日である令和2年11月28日から支払済みまで前記アの割合による遅延損害金の支払を求めるとともに、前記(3)の行為について、民法709条に基づき、損害賠償金250万円の一部である9万円及びこれに対する請求の日の翌日である令和2年11月28日から支払済みまで前記アの割合による遅延損害金の支払を求め、
(2) 予備的請求として、
ア 被告トーセに対し、前記(1)の行為について、民法703条に基づき、不当利得金1389万3750円の一部である750万円及びこれに対する請求の日の翌日である令和2年11月28日から支払済みまで民法所定の年3パーセントの割合による遅延損害金の支払を求めるとともに、前記(2)及び(3)の行為について、前記(1)イの支払を求め、
イ 被告バンダイナムコに対し、前記(1)の行為について、民法703条に基づき、不当利得金1389万3750円の一部である750万円及びこれに対する請求の日の翌日である令和2年11月28日から支払済みまで民法所定の年3パーセントの割合による遅延損害金の支払を求める
事案である。』(2頁以下)
<経緯>
H14 原告が被告トーセに入社
H19 本件ソフト開発をトーセがパンプレソフトから受託
H21 原告が退社、業務委託契約締結
H22 業務委託契約終了
H24 被告バンダイナムコが本件ソフト販売
H26 被告バンダイナムコが本件派生ソフト1販売
H28 被告バンダイナムコが本件派生ソフト2販売
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■判決内容
<争点>
1 本件業務委託契約の効力により本件各動画に係る著作権が被告トーセに帰属したといえるか
本件業務委託契約書には、成果物等の著作権が原告から被告トーセに移転する旨の規定がありましたが、結論として、裁判所は、本件各動画の著作権は、本件業務委託契約の効力により被告トーセに帰属したと判断しています(21頁以下)。
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2 原告は被告バンダイナムコを製作者とする本件ソフトの製作に参加約束をしたか
裁判所は、原告は、被告トーセが株式会社バンプレソフトから受注を受けた本件ソフトの製作又は開発業務について、被告トーセから業務委託を受け、本件各動画の製作に携わり、被告トーセから業務委託の報酬の支払を受けていたと認定。製作者を被告バンダイナムコ(事業譲渡前は株式会社バンプレソフト)とする本件ソフトの製作に携わるとの認識の下、本件ソフトの製作に参加し、その過程で本件各動画を製作したと判断。
結論として、原告は、被告バンダイナムコに対して、本件各動画の製作に係る参加約束(著作権法29条1項)をしたと判断しています(24頁以下)。
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3 被告トーセが原告に対し原告の参加約束による著作権の移転を主張することが信義則に違反するか
原告は、追加の報酬を支払うとの約束があるにも関わらず支払いを拒否され、にもかかわらず、被告トーセが原告の参加約束による著作権の移転を主張することは信義則に違反すると主張しましたが、裁判所は、この点に関する原告の主張を認めていません(26頁)。
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4 原告と被告トーセの間で本件各動画につき著作者人格権の不行使の合意がされたといえるか
原告と被告トーセは、平成21年6月1日、本件業務委託契約を締結し、本件業務委託契約第7条(3)において、原告は、成果物の著作者人格権を被告トーセ及び被告トーセの指定する第三者に対する関係で放棄する旨合意した。
したがって、仮に、被告トーセが、本件各動画を利用して本件ソフトを製作し、本件ソフトに原告の氏名又は名称を表示せずこれを公表したとしても、原告は、被告トーセに対し、原告の本件各動画に係る著作者人格権を行使することはできないと裁判所は判断。原告の主張を認めていません(26頁以下)。
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5 被告トーセに本件成果物の利用につき不当利得が成立するか
原告は、被告トーセに対して本件成果物を引き渡し、被告トーセはこれに基づいて本件ソフトを製作し、利益を受けたと主張しました。
この点について、裁判所は、本件において、原告が、被告トーセに対して本件成果物を引き渡したこと、被告トーセが、本件成果物を利用して本件ソフトを製作したこと、これにより利益を受けたことについて、これらを認めるに足りる証拠はないと判断。
原告の被告トーセに対する本件成果物に係る不当利得返還請求は認められていません(27頁)。
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■コメント
原告はゲームの戦闘パートのアートディレクションを担当していたようです。追加業務に関する報酬の認識に齟齬があったような事案となります。
戦闘ゲーム開発業務委託契約事件
東京地裁令和5.5.31令和3(ワ)13311著作権等侵害による損害賠償等請求事件PDF
東京地方裁判所民事第29部
裁判長裁判官 國分隆文
裁判官 バヒスバラン薫
裁判官 小川 暁
*裁判所サイト公表 2023.6.12
*キーワード:著作権譲渡、映画の著作物、参加約束、ゲーム、著作者人格権不行使特約、不当利得
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■事案
ゲーム開発業務委託契約での業務内容などが争点となった事案
原告:テレビゲーム開発事業者
被告:コンピュータソフトウェア開発会社、ゲーム会社
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■結論
請求棄却
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■争点
条文 著作権法61条、29条、民法1条2項
1 本件業務委託契約の効力により本件各動画に係る著作権が被告トーセに帰属したといえるか
2 原告は被告バンダイナムコを製作者とする本件ソフトの製作に参加約束をしたか
3 被告トーセが原告に対し原告の参加約束による著作権の移転を主張することが信義則に違反するか
4 原告と被告トーセの間で本件各動画につき著作者人格権の不行使の合意がされたといえるか
5 被告トーセに本件成果物の利用につき不当利得が成立するか
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■事案の概要
『本件は、原告が、(1)被告トーセが、原告が著作権を有する著作物である別紙著作物目録記載の動画(以下「本件各動画」という。)を使用して、Xとの名称のゲームソフト(以下「本件ソフト」という。)並びにその派生作品であるY及びZ(以下、順次、「本件派生ソフト1」、「本件派生ソフト2」といい、これらを併せて「本件各派生ソフト」という。)を開発又は製作し、これらのソフトに係る権利を被告バンダイナムコに譲渡して、被告バンダイナムコが本件ソフト及び本件各派生ソフトを販売したことにより、被告らが、共同して原告の本件各動画に係る頒布権を侵害し、また、それにより利益を得て、(2)被告トーセが、原告が作成した、戦闘の仕様、ゲームの仕組み等に関する仕様書、指示書等(以下「本件成果物」という。)を原告に無断で利用して、本件ソフト及び本件各派生ソフトを製作し、これらを被告バンダイナムコに譲渡することにより、利益を得て、(3)被告トーセが、本件ソフトのエンディングクレジットに原告の氏名を表示せず、本件各動画に係る著作者人格権(氏名表示権)を侵害したと主張し、
(1) 主位的請求として、
ア 被告らに対し、前記(1)の行為について、民法709条及び719条に基づき、連帯して、損害賠償金2778万7500円の一部である1500万円、並びに、うち926万2500円に対する本件ソフトの販売開始日である平成24年11月29日から、及び、うち573万7500円に対する本件派生ソフト1の販売開始日である平成26年4月17日から、各支払済みまで、平成29年法律第44号による改正前の民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求め、
イ 被告トーセに対し、前記(2)の行為について、民法703条に基づき、不当利得金1881万円の一部である90万円及びこれに対する請求の日の翌日である令和2年11月28日から支払済みまで前記アの割合による遅延損害金の支払を求めるとともに、前記(3)の行為について、民法709条に基づき、損害賠償金250万円の一部である9万円及びこれに対する請求の日の翌日である令和2年11月28日から支払済みまで前記アの割合による遅延損害金の支払を求め、
(2) 予備的請求として、
ア 被告トーセに対し、前記(1)の行為について、民法703条に基づき、不当利得金1389万3750円の一部である750万円及びこれに対する請求の日の翌日である令和2年11月28日から支払済みまで民法所定の年3パーセントの割合による遅延損害金の支払を求めるとともに、前記(2)及び(3)の行為について、前記(1)イの支払を求め、
イ 被告バンダイナムコに対し、前記(1)の行為について、民法703条に基づき、不当利得金1389万3750円の一部である750万円及びこれに対する請求の日の翌日である令和2年11月28日から支払済みまで民法所定の年3パーセントの割合による遅延損害金の支払を求める
事案である。』(2頁以下)
<経緯>
H14 原告が被告トーセに入社
H19 本件ソフト開発をトーセがパンプレソフトから受託
H21 原告が退社、業務委託契約締結
H22 業務委託契約終了
H24 被告バンダイナムコが本件ソフト販売
H26 被告バンダイナムコが本件派生ソフト1販売
H28 被告バンダイナムコが本件派生ソフト2販売
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■判決内容
<争点>
1 本件業務委託契約の効力により本件各動画に係る著作権が被告トーセに帰属したといえるか
本件業務委託契約書には、成果物等の著作権が原告から被告トーセに移転する旨の規定がありましたが、結論として、裁判所は、本件各動画の著作権は、本件業務委託契約の効力により被告トーセに帰属したと判断しています(21頁以下)。
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2 原告は被告バンダイナムコを製作者とする本件ソフトの製作に参加約束をしたか
裁判所は、原告は、被告トーセが株式会社バンプレソフトから受注を受けた本件ソフトの製作又は開発業務について、被告トーセから業務委託を受け、本件各動画の製作に携わり、被告トーセから業務委託の報酬の支払を受けていたと認定。製作者を被告バンダイナムコ(事業譲渡前は株式会社バンプレソフト)とする本件ソフトの製作に携わるとの認識の下、本件ソフトの製作に参加し、その過程で本件各動画を製作したと判断。
結論として、原告は、被告バンダイナムコに対して、本件各動画の製作に係る参加約束(著作権法29条1項)をしたと判断しています(24頁以下)。
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3 被告トーセが原告に対し原告の参加約束による著作権の移転を主張することが信義則に違反するか
原告は、追加の報酬を支払うとの約束があるにも関わらず支払いを拒否され、にもかかわらず、被告トーセが原告の参加約束による著作権の移転を主張することは信義則に違反すると主張しましたが、裁判所は、この点に関する原告の主張を認めていません(26頁)。
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4 原告と被告トーセの間で本件各動画につき著作者人格権の不行使の合意がされたといえるか
原告と被告トーセは、平成21年6月1日、本件業務委託契約を締結し、本件業務委託契約第7条(3)において、原告は、成果物の著作者人格権を被告トーセ及び被告トーセの指定する第三者に対する関係で放棄する旨合意した。
したがって、仮に、被告トーセが、本件各動画を利用して本件ソフトを製作し、本件ソフトに原告の氏名又は名称を表示せずこれを公表したとしても、原告は、被告トーセに対し、原告の本件各動画に係る著作者人格権を行使することはできないと裁判所は判断。原告の主張を認めていません(26頁以下)。
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5 被告トーセに本件成果物の利用につき不当利得が成立するか
原告は、被告トーセに対して本件成果物を引き渡し、被告トーセはこれに基づいて本件ソフトを製作し、利益を受けたと主張しました。
この点について、裁判所は、本件において、原告が、被告トーセに対して本件成果物を引き渡したこと、被告トーセが、本件成果物を利用して本件ソフトを製作したこと、これにより利益を受けたことについて、これらを認めるに足りる証拠はないと判断。
原告の被告トーセに対する本件成果物に係る不当利得返還請求は認められていません(27頁)。
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■コメント
原告はゲームの戦闘パートのアートディレクションを担当していたようです。追加業務に関する報酬の認識に齟齬があったような事案となります。