最高裁判所HP 知的財産裁判例集より

「生命の實相」引用事件(控訴審)

知財高裁令和5.5.25令和5(ネ)10006著作権等に基づく差止等請求控訴事件PDF

知的財産高等裁判所第4部
裁判長裁判官 菅野雅之
裁判官    本吉弘行
裁判官    岩井直幸

*裁判所サイト公表 2023.6.6
*キーワード:引用、主従関係、正当な範囲内、公正な慣行

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■事案

著作物の利用が引用にあたるかどうかが争点となった事案の控訴審

控訴人(1審原告) :財団法人、出版社
被控訴人(1審被告):宗教法人元役員

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■結論

控訴棄却

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■争点

条文 著作権法32条、裁判所法3条

1 本件出版物に関する原告らの著作権・出版権の有無
2 司法審査の対象性
3 本件著作物に対する著作権法の適用の可否
4 引用の成否

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■事案の概要

『本件は、控訴人らにおいて、被控訴人が原判決別紙出版物目録記載の出版物(本件出版物)に原判決別紙著作物目録記載の著作物(本件著作物)を掲載して発行した行為は、控訴人事業団の本件著作物に係る著作権(複製権)及び控訴人光明思想社の本件著作物に係る出版権を侵害すると主張して、被控訴人に対し、本件出版物の発行等の差止め及び本件出版物に謝罪広告を掲載して送付することを求めるとともに、控訴人光明思想社において、被控訴人に対し、民法709条及び著作権法114条3項に基づき、出版権侵害に係る損害金2万7900円及び弁護士費用50万円の合計52万7900円の支払を求める事案である。
 原判決が控訴人らの請求をいずれも棄却したところ、控訴人らがこれを不服として控訴を提起した。』
(2頁)

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■判決内容

<争点>

1 本件出版物に関する原告らの著作権・出版権の有無
2 司法審査の対象性
3 本件著作物に対する著作権法の適用の可否
4 引用の成否

控訴審は原審の判断を維持しています。
なお、控訴審での引用該当性に関する控訴人らの補充主張について、控訴審は、控訴人らの主張を容れていません(5頁以下)。

(1)主従関係性

『控訴人らは、本件著作物と本件出版物とでは著作物として思想や感情の創造的表現物としてレベルが違いすぎ、分量を重視する原判決の判断は不当である旨の主張もするが、著作物の内容の価値や評価に立ち入り、その軽重を前提にして主従関係を判断することが相当とはいえないから、そもそも控訴人らの主張はその前提を欠くものというべきであるし、また、分量が一つの重要な客観的指標となることは明らかであるところ、本件著作物と本件出版物の間において、合計4頁の本件出版物のうち半頁を占めるにとどまる本件著作物が主となると評価するだけの事情は認められない。したがって、控訴人らの主張は、いずれにしても採用できない。』

(2)「引用目的上正当な範囲内」性

『控訴人らは、前記第2の3(2)アのとおり、書籍「生命の實相」を「たたえる」上で、本件著作物の全部引用が必要であるというのは、不合理である旨主張する。
 しかし、本件著作物は、無形の「生命の実相」を形に表したのが「生命の實相」の本であること、それまでの宇宙は、言葉が実相を語らないために不調和なことが起こったこと、「生命の實相」の本が出た以上は、言葉が実相を語り、よき円満な調和した言葉の本が整ったことから何事も急転直下すること等が述べられた上で、最後に「まだまだ烈しいことが今後起るであろうともそれは迷いのケミカラィゼーションであるから生命の実相をしっかり握って神に委(まか)せているものは何も恐るる所はない。」と結んでいるものであり、無形の「生命の実相」を形に表したものとされる「生命の實相」の発刊と無関係といえる部分はなく、一体性を有するものというべきであるから、「生命の實相」の発刊90周年をたたえることを目的としたと認められる本件出版物において、本件著作物全文を利用したことをもって、公正な慣行に合致しないとか、引用の目的上正当な範囲で行われたものでないということはできない。したがって、控訴人らの主張は採用できない。』

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■コメント

原審の判断が控訴審でも維持されています。

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■過去のブログ記事

東京地裁令和4.12.19令和4(ワ)5740著作権等に基づく差止等請求事件
原審記事