最高裁判所HP 知的財産裁判例集より

「生命の實相」当然対抗事件

東京地裁令和5.4.26令和3(ワ)9047著作権侵害差止請求事件PDF

東京地方裁判所民事第29部
裁判長裁判官 國分隆文
裁判官    間明宏充
裁判官    バヒスバラン薫

*裁判所サイト公表 2023.6.1
*キーワード:使用許諾、当然対抗、出版権、ライセンス契約

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■事案

宗教家の著作物の出版利用関係について争点となった事案

原告:社会文化事業公益財団法人、出版社、宗教法人
被告:宗教法人

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■結論

請求棄却

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■争点

条文 著作権法63条の2、80条1項1号

1 黙示の使用許諾の有無
2 使用許諾の解約の成否
3 本件出版権侵害の成否

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■事案の概要

『本件は、原告らが、被告に対し、次の請求をする事案である。
(1) 原告事業団が、被告が計画している別紙著作物目録記載1及び2の各著作物(以下、番号に従って「本件著作物1」及び「本件著作物2」といい、これらを総称して「本件各著作物」という。)の収録された別紙書籍目録記載の書籍(以下「本件書籍」という。)の出版は、本件各著作物に係る原告事業団の著作権(複製権)を侵害するおそれがあると主張して、著作権法112条1項に基づき、本件書籍の複製及び頒布の差止めを求めるもの
(2) 原告光明思想社が、被告が計画している本件各著作物の収録された本件書籍の出版は、本件各著作物に係る原告光明思想社の出版権を侵害するおそれがあると主張して、著作権法112条1項に基づき、本件書籍の複製の差止めを求めるもの
(3) 原告学ぶ会が、原告事業団から本件各著作物についての著作権の一部譲渡を受けたところ、被告が計画している本件各著作物の収録された本件書籍の出版は、本件各著作物に係る原告学ぶ会の著作権(複製権)を侵害するおそれがあると主張して、著作権法112条1項に基づき、本件書籍の複製及び頒布の差止めを求めるもの』

<経緯>

S60 初代総裁A死去
H20 二代目B死去、Cが三代目を担務
R02 被告が上巻、中巻刊行
R02 原告らが仮処分命令申立て(令和2(ヨ)22072)、却下
R03 原告間で利用権設定契約締結
R03 原告学ぶ会が原告事業団から著作権一部譲渡、移転登録
R03 本訴提起

書籍:“新しい文明”を築こう 下巻(歴史・資料編)「運動の軌跡−宗教と戦争を中心に」
   著者A、C


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■判決内容

<争点>

1 黙示の使用許諾の有無

裁判所は、亡Aは、本件寄附行為によって本件各著作物の著作権を原告事業団に移転した後も、自らの宗教的信念に基づいて設立される生長の家に係る宗教法人が本件各著作物を継続的に使用することを想定していたものと認めるのが相当であるなどとして、原告事業団及び被告が設立された目的、両者の運営体制、被告が編纂又は編集した月刊誌、書籍等における「神示」の使用状況、被告による「神示」の使用行為に対する原告事業団の対応に照らし、原告事業団は、遅くとも「聖光録(生長の家家族必携)」の初版が発行された昭和28年1月1日までに、被告に対して、本件各著作物を個別の承諾を得ることなく使用することを黙示に許諾したと認めるのが相当であると判断しています(14頁以下)。

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2 使用許諾の解約の成否

裁判所は、結論として、原告事業団は、本件各著作物に係る黙示の使用許諾を解約することができるとはいえないと判断。
そして、被告は、令和2年10月1日(令和2年法律第48号附則1条2号所定の施行日)の前日において、本件各著作物についての使用権を有していたとして、著作権法63条の2に基づき、令和2年10月1日以後に本件各著作物の著作権を取得した原告学ぶ会に対して、当該使用権を対抗することができると判断しています(23頁以下)。

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3 本件出版権侵害の成否

裁判所は、本件出版権の目的である「神示集」と本件書籍とでは、題号が明らかに異なっている上、内容についても同一のものと認めることができないとして、本件書籍が本件出版権の目的である「神示集」を原作のまま複製するものとはいえず、被告による本件書籍の出版が本件出版権を侵害すると認めることはできないと判断しています(25頁以下)。

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■コメント

著作権判例のなかで令和2年著作権法改正で認められた当然対抗制度(63条の2:利用権の対抗力)に言及するものとしては、初めての事例かと思われます。