最高裁判所HP 知的財産裁判例集より
新作たばこ「さくら」プロモーション画像制作実績掲載事件
東京地裁令和5.5.18令和3(ワ)20472損害賠償請求事件PDF
東京地方裁判所民事第40部
裁判長裁判官 中島基至
裁判官 小田誉太郎
裁判官 古賀千尋
*裁判所サイト公表 2023.5.25
*キーワード:写真、広告、利用許諾、引用、消滅時効、制作実績、ポートフォリオ
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■事案
広告での写真のポートフォリオ利用について利用許諾の範囲が争点となった事案
原告:写真家
被告:デザイン制作会社、代表者
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■結論
請求一部認容
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■争点
条文 著作権法32条、114条3項、民法724条、会社法429条1項
1 承諾の成否
2 引用の成否
3 消滅時効の成否
4 取締役の責任の有無
5 損害額
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■事案の概要
『原告は、別紙写真目録記載1ないし4の各写真(以下「本件写真1」ないし「本件写真4」といい、併せて「本件各写真」という。)の著作権(以下「本件著作権」という。)を有する写真家である。
本件は、原告が、被告会社においてそのウェブページ(以下「本件ウェブページ」という。)上に本件各写真を掲載した行為が、本件著作権に係る公衆送信権侵害を構成すると主張して、被告らに対し、連帯して、被告会社については、民法709条及び著作権法114条3項に基づき、損害賠償金1億7540万円及びこれに対する不法行為の日の後である平成30年2月16日から支払済みまで平成29年法律第44号による改正前の民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を、被告会社の代表取締役である被告Bについては、会社法429条1項に基づき、上記損害賠償金及びこれに対する訴状送達の日の翌日である令和3年10月13日から支払済みまで民法所定の年3分の割合による遅延損害金の支払を、それぞれ求める事案である。
なお、争点整理の結果、原告主張に係る公衆送信権侵害の期間は、平成19年3月から平成26年8月までに限るものと整理された(第5回弁論準備手続調書参照)。』
(2頁)
<経緯>
H17.02 日本たばこ産業(株)が新作たばこ「さくら」販売開始
被告会社が日本たばこ産業(株)から販促小冊子「さくら SAKURA」制作受託
「さくら」プロモーション実施
原告が被告会社に総額460万円許諾料で写真掲載許可
H19.03 被告会社がウェブサイトで本件各写真を掲載
H30.02 被告会社に通知書送付
H30.05 被告会社に再度通知書送付
R03.08 本訴提起
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■判決内容
<争点>
1 承諾の成否
被告らは、原告が被告会社に対して本件各写真の利用を許諾する契約には、実績紹介等のための利用を許諾する旨の合意が含まれていたと主張しました(12頁以下)。
この点について、裁判所は、
・契約書がない
・別の会社に対して本件写真1の利用を許諾した際の契約書での許諾料は、本件契約における許諾料と同等だったが、実績紹介等のための利用を許諾する旨の合意は存在しなかった
などとして、合意を伺わせる事情がないとして、承諾の成立を認めていません。
また、被告らは、実績紹介としての利用について、クリエーターに利用許諾を求めない慣行が存在すると主張しました。
この点について、裁判所は、
・被告会社は、本件各写真のデジタルデータに「透かし」を入れ又は写真家の名前を浮き彫りにするなどの無断複製防止措置をせずに、本件ウェブページに上記デジタルデータを掲載しており、同デジタルデータは、グーグルの検索サイトの画像欄その他のインターネット上に、原告の名前が付されずに広く複製等されるに至っている
・実績紹介での利用にもかかわらず、デザインも含めての掲載であれば格別、画像を抜き出して利用されている
・ウェブページにおいて、PDFを閲覧できたりダウンロードできたりする場合はライセンス料金が発生する旨注意喚起するフォトエージェンシーが存在することが認められる
といった諸点から、少なくとも、被告会社が無断複製防止措置なく本件各写真のデジタルデータを掲載するような態様についてまで、クリエーターに利用許諾を求めない慣行が存在するものと認めることはできないと判断。
ポートフォリオ利用の慣行に関する被告らの主張について、裁判所は認めていません。
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2 引用の成否
被告らは、被告会社が本件ウェブページ上に本件各写真を掲載したのは、被告らの過去の広告作品の実績紹介を行うためであるから、当該掲載は、著作権法32条1項に定める引用に該当する旨主張しました(13頁以下)。
この点について、裁判所は、引用の意義について言及した上で、
・本件各写真は、被告会社に対して合計460万円で利用許諾されたものであり、商業的価値が高いものである
・本件契約の許諾期間経過後に、本件ウェブページに掲載された
・当該各写真のいずれか一つにカーソルを合わせると、その写真が上記長方形の枠内に拡大表示される
・画面右側の拡大された写真の方が、画面左側の解説文よりも大きく表示される
・当該解説文は、いずれの写真が拡大表示されても同じ内容のものが掲載される
・本件各写真のデジタルデータに「透かし」を入れ又は写真家の名前を浮き彫りにするなどの無断複製防止措置がない
といった諸点を踏まえ、裁判所は、少なくとも商業的価値の高い本件各写真との関係上は、冊子コンセプトの一文は本件各写真の添え物にとどまるものであり、また、無断複製による影響の重大性に言及、本件ウェブページにおける本件各写真の利用は、本件各写真の性質、掲載態様、著作権者である原告に及ぼす影響の程度などを総合考慮して、公正な慣行に合致せず、かつ、引用の目的上正当な範囲内であるものと認めることはできないとして、引用の成立を否定しています。
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3 消滅時効の成否
被告らは、被告会社による本件各写真の使用行為は、平成19年から平成30年に至る一連のものとして評価されるべきであり、原告が、本件通知書1を送付した平成30年2月6日時点において、本件ウェブページ上で本件各写真が使用されていることを認識していた以上、平成19年以降の一連の使用行為について、当該時点から消滅時効が起算されるべきであるなどと主張しました(15頁以下)。
結論として、裁判所は、原告が、平成19年3月から平成26年8月までの本件各写真の本件ウェブページへの掲載について、平成30年2月時点で認識したものと認めることはできず、消滅時効が完成するものと認めることはできないと判断しています。
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4 取締役の責任の有無
被告会社の代表取締役である被告Bには著作権侵害に関する職務遂行上の注意義務違反について、少なくとも重過失があるとして、裁判所は被告Bの取締役としての責任を肯定しています(18頁以下)。
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5 損害額
裁判所は、以下のように計算の要素を判断し、
・長期使用の場合、1年当たりの使用料は、使用期間が1年の場合の3割程度の金額とする
・非商業目的の場合、本件契約の使用料の1割の金銭の額に相当する額とする
・本件契約に係る460万円の使用料は、本件プロジェクト期間の1クール(3か月)に対するものであった
具体的には、以下の金額が認定されています。
・1年当たりの商業目的の使用料1840万円(460万円×4クール)
・掲載期間7.5年(平成19年3月から平成26年8月まで)
・長期逓減率 ×0.3
・非商業的目的 ×0.1
1840万円×7.5年×30%×10%=414万円
(19頁以下)
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■コメント
クリエーターや代理店、制作会社がポートフォリオ(制作実績)として制作物を自社サイトに掲載することはよくありますが、クライアント、モデル、写真家などとの権利処理が万全か、といえば、そうではないかと思われます。
本事案での写真の使われ方は、一般的なポートフォリオ利用を超える態様であり、クリエーターの個別の許諾が必要な場合であったとは推察するところです。
ちなみにどのような写真が利用されていたのか、別紙添付が省略されているのでわかりませんが、原告写真家のかたの作品名が判決文に掲載されていますので、写真家のかたはわかります。
8×10ポラロイドフィルムで撮影された作品からでしょうか。
新作たばこ「さくら」プロモーション画像制作実績掲載事件
東京地裁令和5.5.18令和3(ワ)20472損害賠償請求事件PDF
東京地方裁判所民事第40部
裁判長裁判官 中島基至
裁判官 小田誉太郎
裁判官 古賀千尋
*裁判所サイト公表 2023.5.25
*キーワード:写真、広告、利用許諾、引用、消滅時効、制作実績、ポートフォリオ
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■事案
広告での写真のポートフォリオ利用について利用許諾の範囲が争点となった事案
原告:写真家
被告:デザイン制作会社、代表者
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■結論
請求一部認容
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■争点
条文 著作権法32条、114条3項、民法724条、会社法429条1項
1 承諾の成否
2 引用の成否
3 消滅時効の成否
4 取締役の責任の有無
5 損害額
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■事案の概要
『原告は、別紙写真目録記載1ないし4の各写真(以下「本件写真1」ないし「本件写真4」といい、併せて「本件各写真」という。)の著作権(以下「本件著作権」という。)を有する写真家である。
本件は、原告が、被告会社においてそのウェブページ(以下「本件ウェブページ」という。)上に本件各写真を掲載した行為が、本件著作権に係る公衆送信権侵害を構成すると主張して、被告らに対し、連帯して、被告会社については、民法709条及び著作権法114条3項に基づき、損害賠償金1億7540万円及びこれに対する不法行為の日の後である平成30年2月16日から支払済みまで平成29年法律第44号による改正前の民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を、被告会社の代表取締役である被告Bについては、会社法429条1項に基づき、上記損害賠償金及びこれに対する訴状送達の日の翌日である令和3年10月13日から支払済みまで民法所定の年3分の割合による遅延損害金の支払を、それぞれ求める事案である。
なお、争点整理の結果、原告主張に係る公衆送信権侵害の期間は、平成19年3月から平成26年8月までに限るものと整理された(第5回弁論準備手続調書参照)。』
(2頁)
<経緯>
H17.02 日本たばこ産業(株)が新作たばこ「さくら」販売開始
被告会社が日本たばこ産業(株)から販促小冊子「さくら SAKURA」制作受託
「さくら」プロモーション実施
原告が被告会社に総額460万円許諾料で写真掲載許可
H19.03 被告会社がウェブサイトで本件各写真を掲載
H30.02 被告会社に通知書送付
H30.05 被告会社に再度通知書送付
R03.08 本訴提起
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■判決内容
<争点>
1 承諾の成否
被告らは、原告が被告会社に対して本件各写真の利用を許諾する契約には、実績紹介等のための利用を許諾する旨の合意が含まれていたと主張しました(12頁以下)。
この点について、裁判所は、
・契約書がない
・別の会社に対して本件写真1の利用を許諾した際の契約書での許諾料は、本件契約における許諾料と同等だったが、実績紹介等のための利用を許諾する旨の合意は存在しなかった
などとして、合意を伺わせる事情がないとして、承諾の成立を認めていません。
また、被告らは、実績紹介としての利用について、クリエーターに利用許諾を求めない慣行が存在すると主張しました。
この点について、裁判所は、
・被告会社は、本件各写真のデジタルデータに「透かし」を入れ又は写真家の名前を浮き彫りにするなどの無断複製防止措置をせずに、本件ウェブページに上記デジタルデータを掲載しており、同デジタルデータは、グーグルの検索サイトの画像欄その他のインターネット上に、原告の名前が付されずに広く複製等されるに至っている
・実績紹介での利用にもかかわらず、デザインも含めての掲載であれば格別、画像を抜き出して利用されている
・ウェブページにおいて、PDFを閲覧できたりダウンロードできたりする場合はライセンス料金が発生する旨注意喚起するフォトエージェンシーが存在することが認められる
といった諸点から、少なくとも、被告会社が無断複製防止措置なく本件各写真のデジタルデータを掲載するような態様についてまで、クリエーターに利用許諾を求めない慣行が存在するものと認めることはできないと判断。
ポートフォリオ利用の慣行に関する被告らの主張について、裁判所は認めていません。
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2 引用の成否
被告らは、被告会社が本件ウェブページ上に本件各写真を掲載したのは、被告らの過去の広告作品の実績紹介を行うためであるから、当該掲載は、著作権法32条1項に定める引用に該当する旨主張しました(13頁以下)。
この点について、裁判所は、引用の意義について言及した上で、
・本件各写真は、被告会社に対して合計460万円で利用許諾されたものであり、商業的価値が高いものである
・本件契約の許諾期間経過後に、本件ウェブページに掲載された
・当該各写真のいずれか一つにカーソルを合わせると、その写真が上記長方形の枠内に拡大表示される
・画面右側の拡大された写真の方が、画面左側の解説文よりも大きく表示される
・当該解説文は、いずれの写真が拡大表示されても同じ内容のものが掲載される
・本件各写真のデジタルデータに「透かし」を入れ又は写真家の名前を浮き彫りにするなどの無断複製防止措置がない
といった諸点を踏まえ、裁判所は、少なくとも商業的価値の高い本件各写真との関係上は、冊子コンセプトの一文は本件各写真の添え物にとどまるものであり、また、無断複製による影響の重大性に言及、本件ウェブページにおける本件各写真の利用は、本件各写真の性質、掲載態様、著作権者である原告に及ぼす影響の程度などを総合考慮して、公正な慣行に合致せず、かつ、引用の目的上正当な範囲内であるものと認めることはできないとして、引用の成立を否定しています。
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3 消滅時効の成否
被告らは、被告会社による本件各写真の使用行為は、平成19年から平成30年に至る一連のものとして評価されるべきであり、原告が、本件通知書1を送付した平成30年2月6日時点において、本件ウェブページ上で本件各写真が使用されていることを認識していた以上、平成19年以降の一連の使用行為について、当該時点から消滅時効が起算されるべきであるなどと主張しました(15頁以下)。
結論として、裁判所は、原告が、平成19年3月から平成26年8月までの本件各写真の本件ウェブページへの掲載について、平成30年2月時点で認識したものと認めることはできず、消滅時効が完成するものと認めることはできないと判断しています。
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4 取締役の責任の有無
被告会社の代表取締役である被告Bには著作権侵害に関する職務遂行上の注意義務違反について、少なくとも重過失があるとして、裁判所は被告Bの取締役としての責任を肯定しています(18頁以下)。
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5 損害額
裁判所は、以下のように計算の要素を判断し、
・長期使用の場合、1年当たりの使用料は、使用期間が1年の場合の3割程度の金額とする
・非商業目的の場合、本件契約の使用料の1割の金銭の額に相当する額とする
・本件契約に係る460万円の使用料は、本件プロジェクト期間の1クール(3か月)に対するものであった
具体的には、以下の金額が認定されています。
・1年当たりの商業目的の使用料1840万円(460万円×4クール)
・掲載期間7.5年(平成19年3月から平成26年8月まで)
・長期逓減率 ×0.3
・非商業的目的 ×0.1
1840万円×7.5年×30%×10%=414万円
(19頁以下)
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■コメント
クリエーターや代理店、制作会社がポートフォリオ(制作実績)として制作物を自社サイトに掲載することはよくありますが、クライアント、モデル、写真家などとの権利処理が万全か、といえば、そうではないかと思われます。
本事案での写真の使われ方は、一般的なポートフォリオ利用を超える態様であり、クリエーターの個別の許諾が必要な場合であったとは推察するところです。
ちなみにどのような写真が利用されていたのか、別紙添付が省略されているのでわかりませんが、原告写真家のかたの作品名が判決文に掲載されていますので、写真家のかたはわかります。
8×10ポラロイドフィルムで撮影された作品からでしょうか。