最高裁判所HP 知的財産裁判例集より
布団花柄事件(控訴審)
大阪高裁令和5.4.27令和4(ネ)745損害賠償請求控訴事件PDF
大阪高等裁判所第8民事部
裁判長裁判官 森崎英二
裁判官 渡部佳寿子
裁判官 岩井一真
*裁判所サイト公表 2023.5.16
*キーワード:デザイン、著作物性、応用美術論、美術の著作物
原審:大津地裁令和1(ワ)367
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■事案
PB(プライベートブランド)商品の布団について花柄の著作物性が争点となった事案
控訴人 (1審原告):布団製造販売会社
被控訴人(1審被告):ホームセンター、日用品仕入会社ら
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■結論
控訴棄却
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■争点
条文 著作権法2条1項1号、10条1項4号、2条2項
1 本件絵柄に著作物性があるか
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■事案の概要
『本件は、テキスタイルデザイナーから原判決別紙絵柄目録記載1のデザイン(以下「本件絵柄」という。)の著作権を譲り受けたと主張する控訴人が、被控訴人らが別紙被告絵柄目録記載1、2の絵柄(以下、併せて「被告絵柄」という。)を付した布団(以下「被告商品」という。)を製造、販売する行為が、本件絵柄について控訴人の有する著作権を侵害する行為であると主張して、被控訴人らに対し、著作権法112条1項及び同2項に基づき、原告絵柄の複製、頒布の差止め及び同絵柄の複製ないし翻案された寝具等の廃棄を求めるとともに、共同不法行為に基づき、2684万9370円の損害賠償金及びこれに対する上記不法行為後の平成30年8月22日から支払済みまで平成29年法律第44号による改正前民法所定の年5分の割合による遅延損害金の連帯支払を求める事案である。』
『原審は、本件絵柄が著作物でないことから控訴人は主張に係る著作権を有しないとして、控訴人の請求を全部棄却したところ、控訴人が、これを不服として控訴した(なお、控訴人は、控訴審において被告商品に付された絵柄を特定し直した上で、複製等の差止請求の趣旨及び廃棄請求の趣旨を上記第1の2、3のとおり変更した。)。』
(2頁)
<経緯>
H25 P1が本件絵柄を制作
H26 控訴人が原告商品を販売
H29 控訴人が被控訴人に納品
H30 被控訴人がPB商品開発、販売
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■判決内容
<争点>
1 本件絵柄に著作物性があるか
控訴人は、P1から本件絵柄の著作権を譲り受けたことを前提に、被控訴人らの布団製造販売行為が、控訴人が取得した著作権の侵害行為であると主張しました(13頁以下)。
この点について、控訴審は、応用美術論(著作権法と意匠法の交錯論)について、
「産業上利用することができる意匠、すなわち、実用品に用いられるデザインについては、その創作的表現が、実用品としての産業上の利用を離れて、独立に美的鑑賞の対象となる美的特性を備えていない限り、著作権法が保護を予定している対象ではなく、同法2条1項1号の「美術の著作物」に当たらないというべきである。」
とした上で、
「ここで実用品としての産業上の利用を離れて、独立に美的鑑賞の対象となる美的特性を備えているといえるためには、当該実用品における創作的表現が、少なくとも実用目的のために制約されていることが明らかなものであってはならないというべきである。」
旨言及。
そして、本事案のあてはめとして、
「本件絵柄それ自体は、テキスタイルデザイナーであるP1によってパソコン上で制作された絵柄データであり、また、実用品である布団の生地など、量産衣料品の生地にプリントされて用いられることを目的として制作された絵柄であるが、その絵柄自体は二次的平面物であり、生地にプリントされた状態になったとしても、プリントされた物品である生地から分離して観念することも容易である。そして、本件絵柄の細部の表現を区々に見ていくと、控訴人が縷々主張するようにテキスタイルデザイナーであるP1が細部に及んで美的表現を追求して技術、技能を盛り込んだ美的創作物であるということができ、その限りで作者であるP1の個性が表れていることも否定できない。」
「しかし、本件絵柄は、その上辺と下辺、左辺と右辺が、これを並べた場合に模様が連続するように構成要素が配置され描かれており、これは、本件絵柄を基本単位として、上下左右に繰り返し展開して衣料製品(工業製品)に用いる大きな絵柄模様とするための工夫であると認められる(本件絵柄は、原告商品であるシングルサイズの敷布団では上下左右に連続して約6枚分、掛布団では同様に約9枚分プリントされて全体に一体となった大きな絵柄模様を作り出すよう用いられている(弁論の全趣旨)。)から、この点において、その創作的表現が、実用目的によって制約されているといわなければならない。」
「また、本件絵柄に描かれている構成は、平面上に一方向に連続している花の絵柄とアラベスク模様を交互につなぎ、背景にダマスク模様を淡く描いたものであるが(本件絵柄に用いられている模様が、このように称される絵柄であることは訴訟当初から当事者間に争いがない 。)、証拠(乙2、丙3ないし13)及び弁論の全趣旨によれば、アラベスク模様はイスラムに由来する幾何学的な連続模様であり、またダマスク模様は中東のダマスク織に使用される植物等の有機的モチーフの連続模様であって、いずれも衣料製品等の絵柄として古来から親しまれている典型的な絵柄であり、これら典型的な絵柄を平面上に一方向に連続している花の絵柄と組み合わせ、布団生地や布団カバーを含む、カーテン、絨毯等の工業製品としての衣料製品の絵柄模様として用いるという構成は、日本国内のみならず海外の同様の衣料製品についても周知慣用されていることが認められる。そして、本件絵柄における創作的表現は、このような衣料製品(工業製品)に付すための一般的な絵柄模様の方式に従ったものであって、その域を超えるものではないということができ、また、販売用に本件絵柄を制作したP1においても、そのことを意図して、創作に当たって上記構成を採用したものと考えられるから、この点においても、その創作的表現は、実用目的によって制約されていることが、むしろ明らかであるといえる。」
「そうすると、本件絵柄における創作的表現は、その細部を区々に見る限りにおいて、美的表現を追求した作者の個性が表れていることを否定できないが、全体的に見れば、衣料製品(工業製品)の絵柄に用いるという実用目的によって制約されていることがむしろ明らかであるといえるから、実用品である衣料製品としての産業上の利用を離れて、独立に美的鑑賞の対象となる美的特性を備えているとはいえない。」
として、控訴審は、本件絵柄は「美術の著作物」に当たるとはいえないとして著作物性を否定。
結論として原審の判断を維持しています。
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■コメント
判決文末尾に絵柄の目録として画像が掲載されていますので、原告絵柄と被告商品の絵柄を対比して検討することができます。
実際問題として、布団を購入する際、TV通販でもそうですが、まずは暖色系か寒色系かで分かれて、あとは大まかな雰囲気で好みを決めるのが消費者の選択でしょうか。もともとの絵柄が量産製品向けということもあり、不正競争防止法での保護はともかく、著作権法で保護しなくても良い(しないほうが良い)性質のデザインかもしれません。
大阪高裁は、実用的機能の構成と美的特性部分の分離把握可能の判断基準を採用していますが、二次的平面物についての「機能に由来する制約」の判断部分が参考になるところです。
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■追記2023/12/8 CRIC月例研究会資料
「最近の著作権裁判例について」東京地方裁判所民事第47部小口五大
実用品の著作物性(布団の絵柄)
・大阪高裁令和5年4月27日判決、大津地裁令和4年2月22日判決
布団花柄事件(控訴審)
大阪高裁令和5.4.27令和4(ネ)745損害賠償請求控訴事件PDF
大阪高等裁判所第8民事部
裁判長裁判官 森崎英二
裁判官 渡部佳寿子
裁判官 岩井一真
*裁判所サイト公表 2023.5.16
*キーワード:デザイン、著作物性、応用美術論、美術の著作物
原審:大津地裁令和1(ワ)367
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■事案
PB(プライベートブランド)商品の布団について花柄の著作物性が争点となった事案
控訴人 (1審原告):布団製造販売会社
被控訴人(1審被告):ホームセンター、日用品仕入会社ら
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■結論
控訴棄却
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■争点
条文 著作権法2条1項1号、10条1項4号、2条2項
1 本件絵柄に著作物性があるか
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■事案の概要
『本件は、テキスタイルデザイナーから原判決別紙絵柄目録記載1のデザイン(以下「本件絵柄」という。)の著作権を譲り受けたと主張する控訴人が、被控訴人らが別紙被告絵柄目録記載1、2の絵柄(以下、併せて「被告絵柄」という。)を付した布団(以下「被告商品」という。)を製造、販売する行為が、本件絵柄について控訴人の有する著作権を侵害する行為であると主張して、被控訴人らに対し、著作権法112条1項及び同2項に基づき、原告絵柄の複製、頒布の差止め及び同絵柄の複製ないし翻案された寝具等の廃棄を求めるとともに、共同不法行為に基づき、2684万9370円の損害賠償金及びこれに対する上記不法行為後の平成30年8月22日から支払済みまで平成29年法律第44号による改正前民法所定の年5分の割合による遅延損害金の連帯支払を求める事案である。』
『原審は、本件絵柄が著作物でないことから控訴人は主張に係る著作権を有しないとして、控訴人の請求を全部棄却したところ、控訴人が、これを不服として控訴した(なお、控訴人は、控訴審において被告商品に付された絵柄を特定し直した上で、複製等の差止請求の趣旨及び廃棄請求の趣旨を上記第1の2、3のとおり変更した。)。』
(2頁)
<経緯>
H25 P1が本件絵柄を制作
H26 控訴人が原告商品を販売
H29 控訴人が被控訴人に納品
H30 被控訴人がPB商品開発、販売
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■判決内容
<争点>
1 本件絵柄に著作物性があるか
控訴人は、P1から本件絵柄の著作権を譲り受けたことを前提に、被控訴人らの布団製造販売行為が、控訴人が取得した著作権の侵害行為であると主張しました(13頁以下)。
この点について、控訴審は、応用美術論(著作権法と意匠法の交錯論)について、
「産業上利用することができる意匠、すなわち、実用品に用いられるデザインについては、その創作的表現が、実用品としての産業上の利用を離れて、独立に美的鑑賞の対象となる美的特性を備えていない限り、著作権法が保護を予定している対象ではなく、同法2条1項1号の「美術の著作物」に当たらないというべきである。」
とした上で、
「ここで実用品としての産業上の利用を離れて、独立に美的鑑賞の対象となる美的特性を備えているといえるためには、当該実用品における創作的表現が、少なくとも実用目的のために制約されていることが明らかなものであってはならないというべきである。」
旨言及。
そして、本事案のあてはめとして、
「本件絵柄それ自体は、テキスタイルデザイナーであるP1によってパソコン上で制作された絵柄データであり、また、実用品である布団の生地など、量産衣料品の生地にプリントされて用いられることを目的として制作された絵柄であるが、その絵柄自体は二次的平面物であり、生地にプリントされた状態になったとしても、プリントされた物品である生地から分離して観念することも容易である。そして、本件絵柄の細部の表現を区々に見ていくと、控訴人が縷々主張するようにテキスタイルデザイナーであるP1が細部に及んで美的表現を追求して技術、技能を盛り込んだ美的創作物であるということができ、その限りで作者であるP1の個性が表れていることも否定できない。」
「しかし、本件絵柄は、その上辺と下辺、左辺と右辺が、これを並べた場合に模様が連続するように構成要素が配置され描かれており、これは、本件絵柄を基本単位として、上下左右に繰り返し展開して衣料製品(工業製品)に用いる大きな絵柄模様とするための工夫であると認められる(本件絵柄は、原告商品であるシングルサイズの敷布団では上下左右に連続して約6枚分、掛布団では同様に約9枚分プリントされて全体に一体となった大きな絵柄模様を作り出すよう用いられている(弁論の全趣旨)。)から、この点において、その創作的表現が、実用目的によって制約されているといわなければならない。」
「また、本件絵柄に描かれている構成は、平面上に一方向に連続している花の絵柄とアラベスク模様を交互につなぎ、背景にダマスク模様を淡く描いたものであるが(本件絵柄に用いられている模様が、このように称される絵柄であることは訴訟当初から当事者間に争いがない 。)、証拠(乙2、丙3ないし13)及び弁論の全趣旨によれば、アラベスク模様はイスラムに由来する幾何学的な連続模様であり、またダマスク模様は中東のダマスク織に使用される植物等の有機的モチーフの連続模様であって、いずれも衣料製品等の絵柄として古来から親しまれている典型的な絵柄であり、これら典型的な絵柄を平面上に一方向に連続している花の絵柄と組み合わせ、布団生地や布団カバーを含む、カーテン、絨毯等の工業製品としての衣料製品の絵柄模様として用いるという構成は、日本国内のみならず海外の同様の衣料製品についても周知慣用されていることが認められる。そして、本件絵柄における創作的表現は、このような衣料製品(工業製品)に付すための一般的な絵柄模様の方式に従ったものであって、その域を超えるものではないということができ、また、販売用に本件絵柄を制作したP1においても、そのことを意図して、創作に当たって上記構成を採用したものと考えられるから、この点においても、その創作的表現は、実用目的によって制約されていることが、むしろ明らかであるといえる。」
「そうすると、本件絵柄における創作的表現は、その細部を区々に見る限りにおいて、美的表現を追求した作者の個性が表れていることを否定できないが、全体的に見れば、衣料製品(工業製品)の絵柄に用いるという実用目的によって制約されていることがむしろ明らかであるといえるから、実用品である衣料製品としての産業上の利用を離れて、独立に美的鑑賞の対象となる美的特性を備えているとはいえない。」
として、控訴審は、本件絵柄は「美術の著作物」に当たるとはいえないとして著作物性を否定。
結論として原審の判断を維持しています。
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■コメント
判決文末尾に絵柄の目録として画像が掲載されていますので、原告絵柄と被告商品の絵柄を対比して検討することができます。
実際問題として、布団を購入する際、TV通販でもそうですが、まずは暖色系か寒色系かで分かれて、あとは大まかな雰囲気で好みを決めるのが消費者の選択でしょうか。もともとの絵柄が量産製品向けということもあり、不正競争防止法での保護はともかく、著作権法で保護しなくても良い(しないほうが良い)性質のデザインかもしれません。
大阪高裁は、実用的機能の構成と美的特性部分の分離把握可能の判断基準を採用していますが、二次的平面物についての「機能に由来する制約」の判断部分が参考になるところです。
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■追記2023/12/8 CRIC月例研究会資料
「最近の著作権裁判例について」東京地方裁判所民事第47部小口五大
実用品の著作物性(布団の絵柄)
・大阪高裁令和5年4月27日判決、大津地裁令和4年2月22日判決