最高裁判所HP 知的財産裁判例集より
将棋テレビ番組ナレーション無断使用事件(控訴審)
知財高裁令和5.3.16令和4(ネ)10103損害賠償請求控訴事件PDF
知的財産高等裁判所第2部
裁判長裁判官 本多知成
裁判官 中島朋宏
裁判官 勝又来未子
*裁判所サイト公表 2023.3.20
*キーワード:ナレーション、将棋、ルール、著作物性、氏名表示権、損害論、訴えの交換的変更
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■事案
将棋に関する文章をテレビ番組のナレーションに無断使用された事案の控訴審
控訴人(1審原告) :個人
被控訴人(1審被告):NHK
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■結論
一部認容
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■争点
条文 著作権法2条1項1号、21条、27条、23条、19条
1 原告文章の著作物性並びに原告の著作権(公衆送信権)及び著作者人格権(氏名表示権)の侵害の有無
2 損害の発生の有無及びその数額
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■事案の概要
『控訴人は、将棋に関するウェブサイトである「A」(原告ウェブサイト)を管理運営する者であるところ、令和3年5月30日に被控訴人が放送したテレビ番組「将棋フォーカス」(本件番組)内の「初心者必見!対局マナー」というコーナー(本件コーナー)で、原告ウェブサイトに掲載された原判決別紙対比表の1〜5の「原告文章」欄記載の各文章(以下、併せて「原告文章」といい、上記1〜5の「原告文章」欄に記載された各文章をそれぞれその数字に従って「原告文章1」などという。)と類似したナレーション及び字幕(本件ナレーション等)が流されるなどした。』
『本件は、控訴人が、原審において、本件番組の放送によって控訴人の人格権の侵害(平穏な日常の阻害や名誉棄損に係るもの)がなされたと主張して、民法709条に基づき、損害賠償金16万5000円(慰謝料相当額15万円及び弁護士相談費用等相当額1万5000円の合計額)及びこれに対する不法行為の日である令和3年5月30日から支払済みまで民法所定の年3パーセントの割合による遅延損害金の支払を求めた事案である。』
『原審は、名誉棄損の可能性については抽象的なものにとどまり、損害賠償請求を可能とする程度に控訴人の平穏な日常生活が害されたということはできず、不法行為の成立要件である「権利又は法律上保護される利益」の「侵害」を認めることはできないとして、控訴人の請求を棄却した。これを不服として、控訴人が控訴を提起した。』
『当審において、控訴人は、後記のとおり、上記人格権侵害の不法行為に基づく請求を著作者人格権(氏名表示権)侵害の不法行為に基づく請求(請求の趣旨は原審におけるものと同じ。)に交換的に変更するとともに、著作権(公衆送信権)侵害の不法行為に基づくものとして、損害賠償金500円及びこれに対する不法行為の日である令和3年5月30日から支払済みまで民法所定の年3パーセントの割合による遅延損害金の支払請求を追加した。』
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■判決内容
<争点>
1 原告文章の著作物性並びに原告の著作権(公衆送信権)及び著作者人格権(氏名表示権)の侵害の有無
(1)原告文章1
対局の際に座る場所についての説明自体はアイデアであること、また、将棋のルールやマナーの記載についてはありふれたもので創作性がないと裁判所は判断しています。また、本件ナレーション等のうち原告文章1に対応する部分は、表現それ自体でない部分又は表現上の創作性がない部分において、原告文章1と重なり合うものにすぎないと判断しています。
結論として、原告文章1について、本件番組の放送により控訴人の著作権(公衆送信権)又は著作者人格権(氏名表示権)が侵害されたものとは認められていません(11頁以下)。
(2)原告文章2
将棋の駒の準備や片付けに関して説明するものであり、その記載内容はいずれも将棋のルール又はマナーであって当該内容自体から創作性を認めることはできないと裁判所は判断しています。
もっとも、「「雑用は喜んで!」とばかりに下位者が手を出さないようにしましょう。」という部分については、創作性があると判断。本件ナレーション等のうち原告文章2に対応する部分においては、創作性のある部分が、感嘆符の有無と「下位者が」を「下位の者は」と変更する点を除くと、一言一句そのままの形で使用されているとして、被控訴人は、原告文章2のうち、創作性のある部分について、控訴人の許諾を得ることなく、また、その著作者名を表示することもなく、これを含む本件ナレーション等を本件番組で放送したことにより、控訴人の著作権(公衆送信権)及び著作者人格権(氏名表示権)を侵害したものと裁判所は判断しています(12頁以下)。
(3)原告文章3
王将と玉将の使用者やその順序等について説明するものであり、その記載内容は、いずれも将棋のルール又はマナーであって、当該内容自体から創作性を認めることはできないと裁判所は判断しています(13頁以下)。
結論として、原告文章3について、本件番組の放送により控訴人の著作権(公衆送信権)又は著作者人格権(氏名表示権)が侵害されたものとは認められないと裁判所は判断しています。
(4)原告文章4
持ち駒の並べ方について説明するものであり、その記載内容は、いずれも将棋のルール又はマナーであって、当該内容自体から創作性を認めることはできないと裁判所は判断しています(13頁以下)。
結論として、原告文章4について、本件番組の放送により控訴人の著作権(公衆送信権)又は著作者人格権(氏名表示権)が侵害されたものとは認められないと裁判所は判断しています。
(5)原告文章5
将棋の「待った」について説明するものであり、その記載内容は、いずれも将棋のルール又はマナーであって、当該内容自体から創作性を認めることはできないと裁判所は判断しています(14頁以下)。
もっとも、「着手した後に「あっ、間違えた!」「ちょっと待てよ・・・」などと思っても、勝手に駒を戻してはいけません。」という部分については、創作性があると判断。本件ナレーション等のうち原告文章5に対応する部分においては、創作性のある部分が、感嘆符及び「・・・」の有無等の点を除き、ほぼそのままの形で使用されているとして、被控訴人は、原告文章5のうち、創作性のある部分について、控訴人の許諾を得ることなく、また、その著作者名を表示することもなく、これを含む本件ナレーション等を本件番組で放送したことにより、控訴人の著作権(公衆送信権)及び著作者人格権(氏名表示権)を侵害したものと裁判所は判断しています。
裁判所は、原告文章2及び5の権利侵害部分について、被控訴人の過失も認定して、被控訴人の損害賠償責任を認めています。
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2 損害の発生の有無及びその数額
損害論について15頁以下参照。
(1)公衆送信権侵害に係る財産的損害 500円
(2)著作権(氏名表示権)侵害による慰謝料相当額 5万円
(3)その他の積極損害 5000円
なお、原判決は、控訴人の当審における訴えの交換的変更により、当然にその効力を失っているとして、原審における訴訟費用は当審の判断対象とはならないと判断されています。
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■コメント
本人訴訟ということもあり、原審では著作権が争点とされなかったわけですが、控訴審で訴えの交換的変更が行われて著作者人格権、また、追加して著作権が争点とされて、原審の棄却の判断から一転、一部認容の判断となっています。
なお、侵害性が認められた部分は2か所で、
「「雑用は喜んで!」とばかりに下位者が手を出さないようにしましょう。」
「着手した後に「あっ、間違えた!」「ちょっと待てよ・・・」などと思っても、勝手に駒を戻してはいけません。」
このあたりは、箱根富士屋ホテル物語事件の原審と控訴審の判断の違いを思い起こさせるところではあります。
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■過去のブログ記事
東京地裁令和4.9.28令和3(ワ)30051損害賠償請求事件
原審記事
将棋テレビ番組ナレーション無断使用事件(控訴審)
知財高裁令和5.3.16令和4(ネ)10103損害賠償請求控訴事件PDF
知的財産高等裁判所第2部
裁判長裁判官 本多知成
裁判官 中島朋宏
裁判官 勝又来未子
*裁判所サイト公表 2023.3.20
*キーワード:ナレーション、将棋、ルール、著作物性、氏名表示権、損害論、訴えの交換的変更
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■事案
将棋に関する文章をテレビ番組のナレーションに無断使用された事案の控訴審
控訴人(1審原告) :個人
被控訴人(1審被告):NHK
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■結論
一部認容
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■争点
条文 著作権法2条1項1号、21条、27条、23条、19条
1 原告文章の著作物性並びに原告の著作権(公衆送信権)及び著作者人格権(氏名表示権)の侵害の有無
2 損害の発生の有無及びその数額
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■事案の概要
『控訴人は、将棋に関するウェブサイトである「A」(原告ウェブサイト)を管理運営する者であるところ、令和3年5月30日に被控訴人が放送したテレビ番組「将棋フォーカス」(本件番組)内の「初心者必見!対局マナー」というコーナー(本件コーナー)で、原告ウェブサイトに掲載された原判決別紙対比表の1〜5の「原告文章」欄記載の各文章(以下、併せて「原告文章」といい、上記1〜5の「原告文章」欄に記載された各文章をそれぞれその数字に従って「原告文章1」などという。)と類似したナレーション及び字幕(本件ナレーション等)が流されるなどした。』
『本件は、控訴人が、原審において、本件番組の放送によって控訴人の人格権の侵害(平穏な日常の阻害や名誉棄損に係るもの)がなされたと主張して、民法709条に基づき、損害賠償金16万5000円(慰謝料相当額15万円及び弁護士相談費用等相当額1万5000円の合計額)及びこれに対する不法行為の日である令和3年5月30日から支払済みまで民法所定の年3パーセントの割合による遅延損害金の支払を求めた事案である。』
『原審は、名誉棄損の可能性については抽象的なものにとどまり、損害賠償請求を可能とする程度に控訴人の平穏な日常生活が害されたということはできず、不法行為の成立要件である「権利又は法律上保護される利益」の「侵害」を認めることはできないとして、控訴人の請求を棄却した。これを不服として、控訴人が控訴を提起した。』
『当審において、控訴人は、後記のとおり、上記人格権侵害の不法行為に基づく請求を著作者人格権(氏名表示権)侵害の不法行為に基づく請求(請求の趣旨は原審におけるものと同じ。)に交換的に変更するとともに、著作権(公衆送信権)侵害の不法行為に基づくものとして、損害賠償金500円及びこれに対する不法行為の日である令和3年5月30日から支払済みまで民法所定の年3パーセントの割合による遅延損害金の支払請求を追加した。』
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■判決内容
<争点>
1 原告文章の著作物性並びに原告の著作権(公衆送信権)及び著作者人格権(氏名表示権)の侵害の有無
(1)原告文章1
対局の際に座る場所についての説明自体はアイデアであること、また、将棋のルールやマナーの記載についてはありふれたもので創作性がないと裁判所は判断しています。また、本件ナレーション等のうち原告文章1に対応する部分は、表現それ自体でない部分又は表現上の創作性がない部分において、原告文章1と重なり合うものにすぎないと判断しています。
結論として、原告文章1について、本件番組の放送により控訴人の著作権(公衆送信権)又は著作者人格権(氏名表示権)が侵害されたものとは認められていません(11頁以下)。
(2)原告文章2
将棋の駒の準備や片付けに関して説明するものであり、その記載内容はいずれも将棋のルール又はマナーであって当該内容自体から創作性を認めることはできないと裁判所は判断しています。
もっとも、「「雑用は喜んで!」とばかりに下位者が手を出さないようにしましょう。」という部分については、創作性があると判断。本件ナレーション等のうち原告文章2に対応する部分においては、創作性のある部分が、感嘆符の有無と「下位者が」を「下位の者は」と変更する点を除くと、一言一句そのままの形で使用されているとして、被控訴人は、原告文章2のうち、創作性のある部分について、控訴人の許諾を得ることなく、また、その著作者名を表示することもなく、これを含む本件ナレーション等を本件番組で放送したことにより、控訴人の著作権(公衆送信権)及び著作者人格権(氏名表示権)を侵害したものと裁判所は判断しています(12頁以下)。
(3)原告文章3
王将と玉将の使用者やその順序等について説明するものであり、その記載内容は、いずれも将棋のルール又はマナーであって、当該内容自体から創作性を認めることはできないと裁判所は判断しています(13頁以下)。
結論として、原告文章3について、本件番組の放送により控訴人の著作権(公衆送信権)又は著作者人格権(氏名表示権)が侵害されたものとは認められないと裁判所は判断しています。
(4)原告文章4
持ち駒の並べ方について説明するものであり、その記載内容は、いずれも将棋のルール又はマナーであって、当該内容自体から創作性を認めることはできないと裁判所は判断しています(13頁以下)。
結論として、原告文章4について、本件番組の放送により控訴人の著作権(公衆送信権)又は著作者人格権(氏名表示権)が侵害されたものとは認められないと裁判所は判断しています。
(5)原告文章5
将棋の「待った」について説明するものであり、その記載内容は、いずれも将棋のルール又はマナーであって、当該内容自体から創作性を認めることはできないと裁判所は判断しています(14頁以下)。
もっとも、「着手した後に「あっ、間違えた!」「ちょっと待てよ・・・」などと思っても、勝手に駒を戻してはいけません。」という部分については、創作性があると判断。本件ナレーション等のうち原告文章5に対応する部分においては、創作性のある部分が、感嘆符及び「・・・」の有無等の点を除き、ほぼそのままの形で使用されているとして、被控訴人は、原告文章5のうち、創作性のある部分について、控訴人の許諾を得ることなく、また、その著作者名を表示することもなく、これを含む本件ナレーション等を本件番組で放送したことにより、控訴人の著作権(公衆送信権)及び著作者人格権(氏名表示権)を侵害したものと裁判所は判断しています。
裁判所は、原告文章2及び5の権利侵害部分について、被控訴人の過失も認定して、被控訴人の損害賠償責任を認めています。
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2 損害の発生の有無及びその数額
損害論について15頁以下参照。
(1)公衆送信権侵害に係る財産的損害 500円
(2)著作権(氏名表示権)侵害による慰謝料相当額 5万円
(3)その他の積極損害 5000円
なお、原判決は、控訴人の当審における訴えの交換的変更により、当然にその効力を失っているとして、原審における訴訟費用は当審の判断対象とはならないと判断されています。
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■コメント
本人訴訟ということもあり、原審では著作権が争点とされなかったわけですが、控訴審で訴えの交換的変更が行われて著作者人格権、また、追加して著作権が争点とされて、原審の棄却の判断から一転、一部認容の判断となっています。
なお、侵害性が認められた部分は2か所で、
「「雑用は喜んで!」とばかりに下位者が手を出さないようにしましょう。」
「着手した後に「あっ、間違えた!」「ちょっと待てよ・・・」などと思っても、勝手に駒を戻してはいけません。」
このあたりは、箱根富士屋ホテル物語事件の原審と控訴審の判断の違いを思い起こさせるところではあります。
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■過去のブログ記事
東京地裁令和4.9.28令和3(ワ)30051損害賠償請求事件
原審記事