最高裁判所HP 知的財産裁判例集より

共同研究報告書事件

東京地裁令和4.11.28令和2(ワ)29570著作権侵害差止等請求事件PDF

東京地方裁判所民事第40部
裁判長裁判官 中島基至
裁判官    小田誉太郎
裁判官    國井陽平

*裁判所サイト公表 2023.3.10
*キーワード:ネクスコ、共同研究、報告書、著作物性、職務著作、共同著作物性、引用、氏名表示権

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■事案

共同研究報告書の無断使用が争点となった事案

原告:脳機能計測解析コンサルタント会社
被告:高速道路管理会社、従業員、大学教授ら

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■結論

請求一部認容

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■争点

条文 著作権法2条1項1号、15条、19条、32条、114条3項

1 原告報告書の著作物性
2 原告報告書は職務著作が成立するか
3 原告報告書の共同著作物性
4 被告各論文による著作権侵害の成否
5 適法な引用に当たるか
6 原告による明示的な許諾の有無
7 原告による黙示の承諾の有無
8 被告会社らの共同不法行為責任
9 被告E、Hの共同不法行為責任
10 著作者人格権侵害の成否
11 債務不履行の有無等
12 差止め等の必要性
13 損害論

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■事案の概要

『 原告は、平成28年7月6日、被告中日本エンジ東京との間で、個別請負契約(以下「本件個別請負契約」という。)を締結し、平成29年3月16日、同契約に基づき、別紙著作物目録記載の報告書(以下「原告報告書」という。)を作成した。
 本件は、原告が、被告D、被告E、被告F、被告G、被告H及び被告I(以下、これらの被告を併せて「被告執筆者ら」という。)において、原告報告書を無断で利用して別紙被告論文目録1ないし5記載の各論文(以下、符号に従って被告論文1などといい、これらを併せて「被告各論文」という。)を作成し、同目録記載の各ウェブサイトに掲載した行為は、原告の著作権(複製権、翻案権、公衆送信権)及び著作者人格権(公表権、氏名表示権、同一性保持権)を侵害するとともに本件個別請負契約に違反し、また、上記行為は、被告Dの所属する被告NEXCO中日本、被告Eの所属する被告中日本エンジ東京、被告Fの所属する被告中日本エンジ名古屋(以下、被告NEXCO中日本及び被告中日本エンジ東京と併せて「被告会社ら」といい、被告会社らとその各従業員である被告D、被告E及び被告Fを併せて「被告NEXCO中日本グループ」という。)の指示に基づくものであって、被告らは上記著作権及び著作者人格権侵害につき共同不法行為責任を負い、また、被告らは本件個別請負契約違反についてもその意を通じ、いずれも債務不履行責任を負うと主張して、被告らに対し、(1)著作権法112条に基づき、被告各論文の複製又は頒布の差止め(請求の趣旨第1項)並びに被告各論文に係る紙媒体の印刷物及びCD–ROM等の廃棄並びに記録媒体に保存された被告各論文のデータの消去(請求の趣旨第2項)を求めるとともに、(2)共同不法行為又は債務不履行による損害賠償金6567万円及びこれに対する平成31年2月9日(不法行為の後の日)から支払済みまで民法(平成29年法律第44号による改正前のもの)所定の年5分の割合による遅延損害金の連帯支払(請求の趣旨第3項)を求めている事案である。』
(4頁以下)

<経緯>

H24 原被告、大学が先行実験・研究開始、共同研究契約締結。先行報告書作成
H27 原被告、大学が本件実験・研究開始、共同研究契約、請負契約締結
H29 原告報告書作成
H29 被告が後続実験・研究開始

先行実験・研究:「脳機能NIRSを活用した交通安全対策の評価手法に関する研究」
本件実験・研究:「自動車運転者の脳機能研究」
後続実験・研究:「音声注意喚起による交通安全装置の実験及び研究」

個別請負契約:
「脳機能NIRSに関する交通安全対策評価検討」
「脳機能NIRSに関する交通安全対策評価検討(2)」

本件基本請負契約の規定
結果の公表:共同研究に基づく成果であるため、本件基本請負契約6条各項は適用されず、双方の機関で研究成果の公表を希望する者は、事前に公表内容を書面にて通知し、相手方の事前の書面による了解を得て、連名にて公表することができる。

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■判決内容

<争点>

1 原告報告書の著作物性

原告は、原告報告書の本文のうち、別紙対比表1ないし5記載の部分にそれぞれ創作性(著作権法2条1項1号)が認められる旨主張しましたが、裁判所は認めていません(59頁以下)。
これに対して、原告報告書に掲載された写真及び図表の著作物性について、裁判所は本件図4、5(写真部分)、図7A及びB、図8については著作物性が認められると判断しています(68頁以下)。

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2 原告報告書は職務著作が成立するか

被告は、原告報告書の職務著作物性(15条1項)を主張しましたが、裁判所は認めていません(77頁以下)。

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3 原告報告書の共同著作物性

被告は、原告報告書の被告らとの共同著作物性(2条1項12号)を主張しましたが、裁判所は認めていません(79頁)。

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4 被告各論文による著作権侵害の成否

裁判所は、被告各写真は、原告各著作物と同一のもの又は原告各著作物の縦横の比率若しくは画素数等を若干変更したものにすぎず、原告各著作物を有形的に再製したものと認めるのが相当であるとして、翻案権侵害性を肯定しています(79頁以下)。

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5 適法な引用に当たるか

裁判所は、被告各論文において本文中にも、被告各写真の掲載部分にも、その出典が明記されていないとして、引用(32条1項)の成立を否定しています(83頁)。

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6 原告による明示的な許諾の有無

裁判所は、原告による明示的な許諾の存在を否定しています(83頁以下)。

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7 原告による黙示の承諾の有無

裁判所は、原告による黙示の承諾の存在を否定しています(86頁以下)。

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8 被告会社らの共同不法行為責任

被告会社らの共同不法行為責任の成立を裁判所は認めています(88頁以下)。

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9 被告E、Hの共同不法行為責任

被告各論文の執筆に関わる共同不法行為性について、裁判所はその成立を認めていません(90頁以下)。

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10 著作者人格権侵害の成否

被告執筆者らは、それぞれ、原告各著作物を被告各論文に掲載するに当たり、著作者である原告の氏名を表示していないことから、原告の氏名表示権侵害が認められいます(91頁)。また、原告各著作物に係る公表権侵害性も肯定されています。

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11 債務不履行の有無等

原告は、被告執筆者らが被告各論文を作成・投稿したことに関して、本件個別請負契約に係る債務不履行を主張しましたが、裁判所は認めていません(91頁以下)。

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12 差止め等の必要性

被告らによる著作権又は著作者人格権の侵害行為を停止するために必要な措置として、被告各論文全体ではなく、被告各論文のうち、被告各写真の使用の停止及びその予防を認める限度で裁判所は差止めなどを認めています(93頁以下)。

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13 損害論

*被告の態様に応じて異なる(被告D、F、G、Iの場合)

・114条3項:各1万円
・著作者人格権侵害:各1万円
・弁護士費用相当額損害:2万8000円
合計 30万8000円

(94頁以下)

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■コメント

産学連携の共同研究の成果の1つである報告書の取扱いについて、関係者間で紛争となった事案です。
公表権侵害が認められていることから、研究成果の慎重な取扱いが求められていたのかもしれません。