最高裁判所HP 知的財産裁判例集より

同人誌二次創作漫画出版権侵害事件

東京地裁令和5.1.20令和3(ワ)13720著作権侵害差止等請求事件PDF

東京地方裁判所民事第29部
裁判長裁判官 國分隆文
裁判官    小川 暁
裁判官    バヒスバラン薫

*裁判所サイト公表 2023.2.2
*キーワード:出版契約、出版権、原作のまま、複製、翻案、二次創作、同人誌

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■事案

同人誌二次創作漫画が出版権の「原作のまま」の複製にあたるかどうかが争点となった事案

原告:出版会社
被告:二次創作同人誌発行者

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■結論

請求棄却

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■争点

条文 著作権法80条1項1号、27条

1 被告表紙等が原告表紙を「原作のまま…複製」(80条1項1号)したものであるか

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■事案の概要

『本件は、Bの作成した別紙原告漫画目録記載の漫画(以下「原告漫画」という。)に係る出版権を有する原告が、被告に対し、被告の作成した別紙被告漫画目録記載の漫画(以下「被告漫画」という。)の表紙(以下「被告表紙」という。)及び中表紙(以下「被告中表紙」といい、被告表紙と併せて「被告表紙等」という。)は原告漫画の表紙(以下「原告表紙」という。)を複製したものであり、原告漫画に係る原告の出版権を侵害すると主張して、民法709条に基づき、65万円(著作権法114条2項に基づく損害額45万円及び弁護士費用相当額20万円)及びこれに対する被告漫画の発行日である令和2年1月20日から支払済みまで民法(平成29年法律第44号による改正前のもの)所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求め、著作権法112条1項に基づき、被告漫画の複製の差止めを求める事案である。』
(1頁以下)

<経緯>

H27.09 Bが原告漫画作成
H28.10 原告とBが出版契約締結
H28.11 原告が原告漫画発行
R02.01 被告が漫画制作、発行(同人サークルC、発行者被告)

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■判決内容

<争点>

1 被告表紙等が原告表紙を「原作のまま…複製」(80条1項1号)したものであるか

裁判所は、
『原告は、Bとの間で、本件出版契約を締結し、原告漫画について、紙媒体出版物(オンデマンド出版を含む。)として複製し、頒布することなどを内容とする「出版権」の設定を受けることを合意したところ、この合意内容によれば、原告は、原告漫画を目的とする出版権として、「頒布の目的をもつて、原作のまま印刷その他の機械的又は化学的方法により文書又は図画として複製する権利」(著作権法80条1項1号)を取得したものと認められる。』
とした上で、
『上記出版権は、著作物を「原作のまま…複製する権利」であることからすると、出版権の目的である著作物を有形的に再製する行為には及ぶが、上記著作物のうち創作的表現とは認められない部分と同一性のあるものを作成する行為には及ばないし、翻案、すなわち、上記著作物の表現上の本質的な特徴の同一性を維持しつつ、具体的表現に修正、増減、変更等を加えて、新たに思想又は感情を創作的に表現することにより、これに接する者が上記著作物の表現上の本質的な特徴を直接感得することのできる別の著作物を創作する行為(最高裁平成11年(受)第922号同13年6月28日第1小法廷判決・民集55巻4号837頁参照)にも及ばないと解される。』
と規範を定立。
そして、本件へのあてはめとして、被告が作成した被告表紙等は、原告表紙と相違する部分があるとして、原告表紙を翻案等をしたものと判断。
結論として、被告表紙等は、原告表紙を「原作のまま…複製」(80条1項1号)したものとは認められず、被告が被告表紙等を作成したことにより原告漫画に係る原告の出版権が侵害されたとは認められないと判断しています。
(12頁以下)。

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■コメント

海賊版出版物であれば「原作のまま」であるとして、第三者に対して出版社も権利行使できるわけですが、二次創作作品が「原作のまま」かどうかは、微妙な判断を孕みます。
著作権法コンメンタール2改訂版663頁以下(2020 小倉秀夫先生担当部分 第一法規)にあたってみると、出版権者の権利行使について酷にあたらないかどうかといった価値判断を含めて、論点があることが分かります。

ちなみに、原告漫画はボーイズラブ分野の作品のようで(10頁)、そうすると、原作者が表に出るのは難しかったのかもしれません。

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■参考判例

YG性格検査実施手引事件
大阪地裁平成19.6.12平成17(ワ)153等著作権侵害差止等請求事件
別紙

『「原作のまま」複製したものとは,出版権の対象である著作物をそのまま再現したものをいい,したがって,誤字・脱字・仮名遣い等を補正したにとどまるものを除き,当該著作物の内容を変更したものは,「原作のまま」複製したとはいえないものと解するのが相当である。』(判決文PDF113頁参照)