最高裁判所HP 知的財産裁判例集より

小野派一刀流商標事件

知財高裁令和4.8.22令和4(ネ)10010商標権侵害行為差止等請求控訴事件PDF

知的財産高等裁判所第2部
裁判長裁判官 本多知成
裁判官    中島朋宏
裁判官    勝又来未子

*裁判所サイト公表 2022.10.25
*キーワード:武道、流派、商標的使用、商標、商品等表示、不正競争防止法

原審:東京地方裁判所令和2年(ワ)第1494号

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■事案

武道の流派の商標権侵害性や不正競争行為性が争点となった事案

控訴人(1審原告) :小野派一刀流宗家
被控訴人(1審被告):小野派一刀流団体代表ら

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■結論

控訴棄却

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■争点

条文 商標法2条3項5号、8号、不正競争防止法2条1項1号

1 本件標章使用が商標法2条3項の「使用」に当たるか
2 本件標章使用が「商品等表示」の「使用」に当たるか
3 原告標章が周知かどうか
4 控訴人は団体の名称権侵害を理由に差止請求をし得るか

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■事案の概要

『(1) 本件は、剣術の小野派一刀流の宗家であると主張する控訴人が、被控訴人らに対し、次の各請求をする事案である。
ア 被控訴人らによる標章の使用が、次のとおり、「小野派一刀流」の文字からなり第41類「剣道を主とする古武道の教授」を指定役務とする控訴人の登録商標(本件商標)に係る商標権を侵害するもの(商標法37条1項)であると主張して、被控訴人らによるウェブサイト、めくり、パンフレット等における標章の使用差止めを求める請求(前記第1の2に係る請求)
(ア) 被控訴人らが、日本古武道振興会(古武道振興会)のウェブサイトにおいて「小野派一刀流剣術」(原判決別紙被告標章目録1)の標章を使用したこと(本件標章使用(1))は、指定役務又はこれと類似する役務の広告に標章を付して電磁的方法により提供する行為(商標法2条3項8号)に当たる。
(イ) 被控訴人らが、古武道大会における演武の際のめくりやパンフレットにおいて「小野派一刀流剣術」及び「小野派一刀流」(原判決別紙被告標章目録1及び2)の各標章(以下、併せて単に「被告標章」ということがある。)を使用したこと(本件標章使用(2))は、指定役務又はこれと類似する役務の提供の用に供する物に標章を付したものを役務の提供のために展示し、また、役務に関する広告に標章を付して頒布する行為(商標法2条3項5号・8号)に当たる。
イ  被控訴人らによる本件標章使用(1)及び(2)(本件標章使用)が、主位的には、控訴人の周知な商品等表示である原判決別紙原告商品等表示目録記載の標章(原告標章)と同一又は類似の商品等表示の使用に当たり、控訴人の営業と混同を生じさせる不正競争行為(不正競争防止法2条1項1号)に当たるとして、不正競争防止法3条1項に基づき、予備的には、控訴人が代表する法人格のない団体である「小野派一刀流」の名称権に基づき、武道の教授等の活動における被告標章の使用差止めを求める請求(前記第1の3に係る請求)』

『(2) 原審は、前記(1)アの請求について、本件標章使用(1)については、保存振興の対象とされている古武道の流派の名称を掲げたものにすぎず、本件標章使用(2)については、演武される流派等の名称を表示するものにすぎず、いずれも商標的使用には当たらないと判断するとともに、前記(1)イの請求のうち不正競争防止法に基づくものについては、同様に、本件標章使用につき、「商品等表示」の「使用」に当たらず、また、原告標章につき、「小野派一刀流」の名称は、継承した流派の名称を示すにとどまり、剣道の教授に係る周知な営業を表示するものとして使用されたとは認められないから、控訴人の周知な商品等表示を認めることはできず、不正競争行為は認められないと判断し、さらに、前記(1)イの請求のうち名称権に基づく請求については、そもそも、控訴人が代表し、その名称を「小野派一刀流」とする団体の存在を認めるに足りず、仮にその存在が認められたとしても控訴人個人の資格でその権利を行使し得るものではないと判断して、控訴人の請求をいずれも棄却した。』

『(3) 原判決を不服として、控訴人が控訴を提起した。』
(2頁以下)

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■判決内容

<争点>

1 本件標章使用が商標法2条3項の「使用」に当たるか

「控訴人は、日本の伝統芸能や古武道における流派の意義、そして「小野派一刀流」の流派名の意義等を主張して、「小野派一刀流」は、流派の教え・系統を指すとともに、宗家を長とし門人によって構成される本流流派を継承する集団(団体)を指し、両者は密接不可分の関係にあるから、流派名としての「小野派一刀流」の使用は、同時に集団(団体)としての「小野派一刀流」を想起させるもので、需要者が提供される役務の出所を認識し得るような態様での使用に当たる旨を主張する。」

「しかし、本件全証拠によっても、日本の伝統芸能一般又はそのうち古武道一般において、一つの流派について一つの集団(団体)しか存在しないという事情は認められない。この点、例えば、古武道振興会の「加盟流派」のページ(本件ウェブページ。甲3の1)には、「荒木流拳法(K)」(代表はK)及び「荒木流拳法(L)」(代表はL)として、「荒木流拳法」という流派名を冠する加盟流派が代表を異にして二つ掲載されており、同様に「神道夢想流杖術」、「夢想神伝流居合術」及び「柳生心眼流兵法」についても、同一の流派名を冠する加盟流派が代表を異にして複数掲載されている。また、古武道協会のウェブサイトにおける「各流派の紹介」のページ(甲33の1)にも、「天神真揚流柔術(新座市)」と「天神真揚流柔術(川越市)」とが掲載されている。
 そうすると、控訴人の主張するように、流派名と当該流派を継承する集団(団体)との間に密接な関係があることを前提としても、当該密接な関係により流派名が想起させる集団(団体)が、直ちに特定の役務の提供等の一主体となるような特定の団体であるということはできず、それは、当該流派を継承する複数の団体を含み得るより抽象的な集団にすぎないとみるのが相当である。
 そして、本件全証拠をもってしても、「小野派一刀流」が古武道の流派の名称であるということを前提にしてもなお、それが特定の役務の提供等の一主体となるような当該流派を継承する特定の団体を指すものであると認めるに足りず、「小野派一刀流」について上記と異なって解すべき事情は認められない。
 したがって、流派名としての「小野派一刀流」の使用が同時に集団(団体)としての「小野派一刀流」を想起させるものであるとの控訴人の前記主張は、訂正して引用した原判決の第4の1における、本件標章使用が被控訴人らによる商標的使用であるとは認められないという判断を左右するものではないというべきである。」
(28頁以下)

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2 本件標章使用が「商品等表示」の「使用」に当たるか

「争点1についての控訴人の主張が採用できないことは、前記(1)で説示したとおりであるから、当該主張を前提とした争点5についての控訴人の主張は、訂正して引用した原判決の第4の2の判断を左右するものではない。」
(32頁)

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3 原告標章が周知かどうか

「なお、控訴人の当審における補充主張を踏まえても、訂正して引用した原判決の第4の1で指摘したように、古武道の流派の名称である「小野派一刀流」について、それが直ちに特定の団体の固有の名称を示すものとして使用されていたものとは認め難く、また、訂正して引用した原判決の第4の3で指摘したように、「小野派一刀流」については様々な分派が存在し、その中には「小野派一刀流」を自称する分派も存在していたことのほか、前記(1)アのとおり、その他にも同一の流派について複数の団体が存するとみられる例があることも証拠上認められる本件において、原告標章が控訴人の周知な「商品等表示」に当たると認めるには足りないというべきである。」
(32頁以下)

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4 控訴人は団体の名称権侵害を理由に差止請求をし得るか

「争点7についての控訴人の主張が採用できないことは、訂正して引用した原判決の第4の4で説示したとおりである。前記(1)アで指摘した点に照らし、控訴人の当審における補充主張は、上記判断を左右するものではない。」
(33頁)

「なお、控訴人は、我が国文化の一翼を担う剣術古流を正しく承継していくことの重要性、武道界における破門等の意義の重大性などを指摘し、原判決は、日本文化、現代武道の淵源である古武術の法的保護を図るとの視点や武道の現代的意義等に係る基本的理解に欠け、原判決を放置した場合に伝統文化である剣道(剣術や居合を含む。)の普及等に与える影響は重大であるなどと主張する。
 しかし、商標法及び不正競争防止法を根拠とする控訴人の各請求についての前記各判断は、控訴人が主張するような、商標法の目的(同法1条)や不正競争防止法の目的(同法1条)の範囲を超える歴史的、文化的事情によって左右されるものとはいえず、名称権に関する前記判断も、それらの事情によって左右されない(他方で、本件訴訟における商標法、不正競争防止法又は名称権に関する判断が、控訴人による被控訴人らに対する破門の効力に影響を与えるものでもないことも当然である。)。」
(33頁以下)

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■関連情報

第4141451号
第4141452号
審査中
商願2018-152412
商願2019-000043
商願2021-076912

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■参考サイト

加盟流派 | 日本古武道振興会
http://kobushin.jp/ryuha/