最高裁判所HP 知的財産裁判例集より

在宅医療カルテ作成ソフト事件

東京地裁令和4.8.30平成30(ワ)17968著作権に基づく差止等請求事件PDF

東京地方裁判所民事第46部
裁判長裁判官 柴田義明
裁判官    佐伯良子
裁判官    仲田憲史

*裁判所サイト公表 2022.10.10
*キーワード:カルテ、ソフトウェア、著作物性、複製

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■事案

診療所向け在宅医療カルテソフトの著作権の帰属などが争点となった事案

原告:医療機関運営支援会社
被告:電子機械器具製造販売会社

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■結論

請求棄却

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■争点

条文 著作権法2条1項1号、21条

1 本件31個の各プログラムの各著作権が被告から在宅医療情報システム株式会社に譲渡されたか
2 被告が原告プログラムを複製、翻案しているか

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■事案の概要

『本件は、原告が、別紙原告プログラム目録記載の各プログラム(以下、符号に応じて「原告プログラム1(1)」、「原告プログラム2(1)ア」等といい、原告プログラム1(1)から4を併せて「各原告プログラム」という。)について原告が著作権を有し、被告が各原告プログラムを複製又は翻案した被告プログラムをサーバにインストールして定期的に修正したこと等により、原告の各著作権(複製権又は翻案権)が侵害され損害を被った等と主張して、被告に対し、各著作権による差止請求権及び廃棄等請求権(著作権法112条1項、2項)に基づき、被告プログラムの複製、翻案の差止め及び廃棄を求めるとともに、不法行為による損害賠償請求権に基づき、損害の一部として610万円及びこれに対する不法行為より後の日である平成24年8月31日から支払済みまで平成29年法律第44号による改正前の民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める事案である。』
(2頁)

<経緯>

H21.06 被告従業員AがPMポータル作成
H23.10 本件契約締結
H23.11 被告が悠翔会向け開発業務受託

PMポータル:組織内外のプロジェクトを効率的に管理することを目的としたウェブアプリケーションのプログラム
本件契約:在宅医療情報システム株式会社及び被告が締結した情報処理業務に係る業務委託基本契約

16条2項
被告が納入物に関して著作した著作物に係る著作権は納入物の所有権移転と同時に在宅医療情報システム株式会社に移転する、ただし、被告が従前から著作権を保有する著作物を納入物に組み込んだ場合には被告がその著作権を留保する(5頁)

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■判決内容

<争点>

1 本件31個の各プログラムの各著作権が被告から在宅医療情報システム株式会社に譲渡されたか

原告は、本件31個の各プログラムは、いずれも、被告が本件契約に基づき新たに作成した部分であり、各原告プログラムの各著作権は、本件契約に基づき、被告から医療情報システム株式会社に譲渡された(最終的には原告に譲渡された)と主張しました。

本件契約においては、被告が納入物に関して著作した著作物に係る著作権は、被告が従前から著作権を保有する著作物を納入物に組み込んだ場合の当該組み込まれた著作物に係る著作権を除き、納入物の所有権移転と同時に、在宅医療情報システム株式会社に移転することとされているところ、本件31個の各プログラムに、PMポータルを離れた独自の創作性があると認めるに足りないから、本件31個の各プログラムについての各著作権が、被告から在宅医療情報システム株式会社に譲渡されたとも認められないと裁判所は判断しています。

結論として、原告への著作権譲渡の前提を欠くと裁判所は判断しています(36頁以下)。

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2 被告が原告プログラムを複製、翻案しているか

原告プログラム4と被告プログラムにおいて共通する本件共通箇所が原告プログラム4においては、(オ)部分に用いられているORCAから受信したXMLデータを解析する部分の一部であるとして、裁判所はこの点について複製、翻案の肯否を判断しています。
本件共通箇所のうち、オープンソースである「XML_Unserializer.php」を用いた部分は、その仕様に基づくインスタンスを記述したものであり、その記述例もインターネットウェブサイトにおいて公開されているものであって、ありふれた表現であり、創作性が認められないと判断。
また、本件共通箇所のその余の部分は、異なる施設間で診療情報を電子的に交換するために制作された規約であるMML及びCLAIMにおいて定義されたタグ(用語)を、「XML_Unserializer.php」の仕様に従って記述したありふれた表現であって、創作性が認められないと判断。
本件共通箇所に創作性があると認めることはできないとして、結論として被告が原告プログラム4に係る原告の複製権、翻案権を侵害したと認めることはできないと裁判所は判断しています(45頁)。

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■コメント

ソフトウェア開発業務において、納品物のなかで著作権譲渡の対象の範囲・特定が争点となった事案となります。