最高裁判所HP 知的財産裁判例集より
映画「ハレンチ君主いんびな休日」事件
東京地裁令和4.7.29令和2(ワ)22324損害賠償等請求事件PDF
東京地方裁判所民事第40部
裁判長裁判官 中島基至
裁判官 小田誉太郎
裁判官 古賀千尋
*裁判所サイト公表 2022.9.28
*キーワード:映画、脚本、公表権、試写会、上映、名誉毀損
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■事案
試写会での映画の上映と脚本の公表の関係について争点となった事案
原告:映画監督、脚本家
被告:出版社、映画会社ら
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■結論
請求一部認容
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■争点
条文 著作権法18条
1 本件記載1乃至4の名誉毀損の成否(略)
2 本件記事による本件脚本に係る原告らの公表権侵害の成否
3 本件映画の公開中止による原告X1の期待権侵害の成否(略)
4 本件データ等の廃棄による原告X1の人格権侵害の成否(略)
5 本件映画の著作権の帰属
6 損害額
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■事案の概要
『原告X1は、別紙1記載の映画「ハレンチ君主いんびな休日」(以下「本件映画」という。)の監督、脚本等を務め、原告X2は、本件映画の脚本を務めた。本件は、原告らが、本件映画に関する記事を週刊誌に掲載した被告新潮社のほか、本件映画を制作、配給等する被告大藏映画及び被告オーピー映画(以下「被告大藏映画ら」という。)に対し、次に掲げる請求をする事案である。
(1) 原告らの請求(いずれも被告新潮社に対する請求)
ア 被告新潮社において週刊新潮2018年3月8日号(以下「本件週刊誌」という。)に掲載した「不敬描写で2月公開が突如延期!「昭和天皇」のピンク映画」と題する記事(以下「本件記事」という。)の記載内容が原告らの名誉を毀損したことを理由とする不法行為に基づく損害賠償金各220万円及びこれに対する不法行為の日である平成30年3月1日(本件週刊誌の発売日)から支払済みまで民法(平成29年法律第44号による改正前のもの)所定の年5分の割合による遅延損害金の支払請求(請求の趣旨第1項の一部)
イ 被告新潮社が本件記事に本件映画の脚本(以下「本件脚本」という。)を無断で引用し、原告らの著作者人格権(公表権)を侵害したことを理由とする不法行為に基づく損害賠償金各110万円及びこれに対する前記アと同旨の遅延損害金の支払請求(請求の趣旨第1項の残りの部分)
ウ 本件記事の内容が原告らの名誉を毀損することを理由とする民法723条に基づく別紙2の謝罪広告の別紙3の要領による掲載(請求の趣旨第3項)』
『(2) 原告X1の請求
ア (略)
イ (略)
ウ 被告オーピー映画に対する請求
原告X1が本件映画の著作権を有することの確認請求(請求の趣旨第5項)』
(3頁以下)
<経緯>
H26.08 原告X1と被告オーピー映画が基本契約締結
H29.09 原告X1が企画書、準備稿提出
H29.11 原告X1が原告X2の脚本への参加打診
キャスティング作業
H29.12 原告X1が最終稿提出
被告オーピー映画が120万円支払(207万3000円)
H30.01 試写会開催
原告X1と被告オーピー映画が著作権譲渡契約締結
被告オーピー映画が被告大藏映画に映画の著作権を譲渡
H30.02 被告大藏映画が映画公開中止決定
H30.03 被告新潮社が週刊誌に本件記事掲載
R04.02 被告大藏映画らが映像素材データ廃棄
映画の題名:ハレンチ君主いんびな休日
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■判決内容
<争点>
2 本件記事による本件脚本に係る原告らの公表権侵害の成否
本件記事は、原告らの同意なく、本件映画の脚本を引用したものであるから、原告らの著作者人格権(公表権)を侵害するものであると原告らは主張しました。
被告新潮社は、
(1)本件映画が試写会により既に公開されている以上、脚本についても公表されている
(2)公表につき原告らの同意もあったというべきである
と反論しました。
この点について、裁判所は、
「著作権法4条3項は、翻訳物の公衆への提示等を原著作物の公衆への提示等と同視して、翻訳物が公表された場合には、原著作物も公表されたものとみなす旨規定しているところ、翻案物は、翻訳物よりも、原著作物からの創作的表現の幅が広いといえるから、脚本の翻案物である映画が、当該脚本の著作者又はその許諾を得た者によって上映の方法で公衆に提示等された場合であっても、上記脚本が公表されたものとみなすのは相当ではない。」
「他方、著作権法2条7項は、上演、演奏又は口述には、著作物の上演、演奏又は口述で録音され又は録画されたものを再生することなども含む旨規定しているところ、脚本の翻案物である映画が上映された場合には、当該脚本に係る実演が映写されるとともにその音が再生されるのであるから、著作物の公表という観点からすると、脚本の上演で録音され又は録画されたものを再生するものと実質的には異なるところはないといえる。」
「上記各規定の趣旨及び目的並びに脚本及び映画の関係に鑑みると、脚本の翻案物である映画が、脚本の著作者又はその許諾を得た者によって上映の方法で公衆に提示された場合には、上記脚本は、公表されたものと解するのが相当である。」
と説示。そのうえで、本件について、
「本件映画は、原告らの同意の下、本件試写会で上映されたところ、本件試写会は、映倫による審査に加え、公開前に被告大藏映画の内部で内容を確認することを目的として行われた社内試写にすぎず、その参加者も、映倫審査委員のほかには、被告大蔵映画の関係者が9名、外部の者は4名にとどまり、しかも、その外部の者も、原告X1の知り合い等であったことが認められる。そうすると、本件映画は、少数かつ特定の者に対し上映されたにとどまるものといえる。
したがって、本件試写会で本件映画を上映する行為は、公衆に提示されたものとはいえない。」
「以上によれば、本件脚本は、本件試写会において公表されたものとはいえず、本件脚本を原告らに無断で本件週刊誌に掲載する行為は、原告らの本件脚本に係る公表権を侵害するものと認めるのが相当である。」
とあてはめの判断をしています。
また、被告新潮社が原告X1は本件試写会において本件脚本を一般公開する意図の下、本件試写会を実施したものである以上、本件脚本がその後公表されることに同意していた旨反論している点について、裁判所は、
「著作者は、その著作物でまだ公表されていないものを公表するか否かを決定する公表権(著作権法18条)を有するところ、その著作物には著作者の人格的価値を左右する側面があることに鑑みると、公表権には、公表の時期、方法及び態様を決定する権利も含まれると解するのが相当である。これを本件についてみると、原告X1が公表につき同意したのは、飽くまで、本件試写会におけるものにとどまると認めるのが相当であり、それを超えて、本件脚本がその後本件週刊誌に掲載されることにまで同意していたことを認めるに足りる客観的な証拠はない。」
と判断。被告新潮社の反論をいずれも認めていません(56頁以下)。
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5 本件映画の著作権の帰属
原告X1は、被告オーピー映画において、本件著作権譲渡契約に付随する義務として、本件映画の公開延期や公開中止を決定するに当たっては、原告X1に対して十分な説明を行うとともに、原告X1との間で十分な協議を尽くす信義則上の義務を負っていたというべきところ、被告オーピー映画は、そのような義務に違反したものであるから、原告X1による契約解除の意思表示により、本件映画の著作権は、原告X1に帰属する旨主張しました。
この点について、裁判所は結論として、原告X1の主張を認めていません(59頁)。
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6 損害額
公表権を侵害されたことによる精神的苦痛に対する慰謝料として、原告らにつき各30万円、弁護士費用相当額損害として各3万円が認定されています(59頁以下)。
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■コメント
事案としては名誉毀損の成否が争点の中心ですが、試写会での映画の上映が脚本との関係で公表されたことになるかどうかが争点となっています。
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■参考サイト
皇室タブーで封印されたピンク映画監督が法廷で映画会社に告げた「どうか、誇りを。」
篠田博之 月刊『創』編集長 2021/5/28(金) 9:00
ヤフーニュース記事
映画「ハレンチ君主いんびな休日」事件
東京地裁令和4.7.29令和2(ワ)22324損害賠償等請求事件PDF
東京地方裁判所民事第40部
裁判長裁判官 中島基至
裁判官 小田誉太郎
裁判官 古賀千尋
*裁判所サイト公表 2022.9.28
*キーワード:映画、脚本、公表権、試写会、上映、名誉毀損
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■事案
試写会での映画の上映と脚本の公表の関係について争点となった事案
原告:映画監督、脚本家
被告:出版社、映画会社ら
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■結論
請求一部認容
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■争点
条文 著作権法18条
1 本件記載1乃至4の名誉毀損の成否(略)
2 本件記事による本件脚本に係る原告らの公表権侵害の成否
3 本件映画の公開中止による原告X1の期待権侵害の成否(略)
4 本件データ等の廃棄による原告X1の人格権侵害の成否(略)
5 本件映画の著作権の帰属
6 損害額
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■事案の概要
『原告X1は、別紙1記載の映画「ハレンチ君主いんびな休日」(以下「本件映画」という。)の監督、脚本等を務め、原告X2は、本件映画の脚本を務めた。本件は、原告らが、本件映画に関する記事を週刊誌に掲載した被告新潮社のほか、本件映画を制作、配給等する被告大藏映画及び被告オーピー映画(以下「被告大藏映画ら」という。)に対し、次に掲げる請求をする事案である。
(1) 原告らの請求(いずれも被告新潮社に対する請求)
ア 被告新潮社において週刊新潮2018年3月8日号(以下「本件週刊誌」という。)に掲載した「不敬描写で2月公開が突如延期!「昭和天皇」のピンク映画」と題する記事(以下「本件記事」という。)の記載内容が原告らの名誉を毀損したことを理由とする不法行為に基づく損害賠償金各220万円及びこれに対する不法行為の日である平成30年3月1日(本件週刊誌の発売日)から支払済みまで民法(平成29年法律第44号による改正前のもの)所定の年5分の割合による遅延損害金の支払請求(請求の趣旨第1項の一部)
イ 被告新潮社が本件記事に本件映画の脚本(以下「本件脚本」という。)を無断で引用し、原告らの著作者人格権(公表権)を侵害したことを理由とする不法行為に基づく損害賠償金各110万円及びこれに対する前記アと同旨の遅延損害金の支払請求(請求の趣旨第1項の残りの部分)
ウ 本件記事の内容が原告らの名誉を毀損することを理由とする民法723条に基づく別紙2の謝罪広告の別紙3の要領による掲載(請求の趣旨第3項)』
『(2) 原告X1の請求
ア (略)
イ (略)
ウ 被告オーピー映画に対する請求
原告X1が本件映画の著作権を有することの確認請求(請求の趣旨第5項)』
(3頁以下)
<経緯>
H26.08 原告X1と被告オーピー映画が基本契約締結
H29.09 原告X1が企画書、準備稿提出
H29.11 原告X1が原告X2の脚本への参加打診
キャスティング作業
H29.12 原告X1が最終稿提出
被告オーピー映画が120万円支払(207万3000円)
H30.01 試写会開催
原告X1と被告オーピー映画が著作権譲渡契約締結
被告オーピー映画が被告大藏映画に映画の著作権を譲渡
H30.02 被告大藏映画が映画公開中止決定
H30.03 被告新潮社が週刊誌に本件記事掲載
R04.02 被告大藏映画らが映像素材データ廃棄
映画の題名:ハレンチ君主いんびな休日
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■判決内容
<争点>
2 本件記事による本件脚本に係る原告らの公表権侵害の成否
本件記事は、原告らの同意なく、本件映画の脚本を引用したものであるから、原告らの著作者人格権(公表権)を侵害するものであると原告らは主張しました。
被告新潮社は、
(1)本件映画が試写会により既に公開されている以上、脚本についても公表されている
(2)公表につき原告らの同意もあったというべきである
と反論しました。
この点について、裁判所は、
「著作権法4条3項は、翻訳物の公衆への提示等を原著作物の公衆への提示等と同視して、翻訳物が公表された場合には、原著作物も公表されたものとみなす旨規定しているところ、翻案物は、翻訳物よりも、原著作物からの創作的表現の幅が広いといえるから、脚本の翻案物である映画が、当該脚本の著作者又はその許諾を得た者によって上映の方法で公衆に提示等された場合であっても、上記脚本が公表されたものとみなすのは相当ではない。」
「他方、著作権法2条7項は、上演、演奏又は口述には、著作物の上演、演奏又は口述で録音され又は録画されたものを再生することなども含む旨規定しているところ、脚本の翻案物である映画が上映された場合には、当該脚本に係る実演が映写されるとともにその音が再生されるのであるから、著作物の公表という観点からすると、脚本の上演で録音され又は録画されたものを再生するものと実質的には異なるところはないといえる。」
「上記各規定の趣旨及び目的並びに脚本及び映画の関係に鑑みると、脚本の翻案物である映画が、脚本の著作者又はその許諾を得た者によって上映の方法で公衆に提示された場合には、上記脚本は、公表されたものと解するのが相当である。」
と説示。そのうえで、本件について、
「本件映画は、原告らの同意の下、本件試写会で上映されたところ、本件試写会は、映倫による審査に加え、公開前に被告大藏映画の内部で内容を確認することを目的として行われた社内試写にすぎず、その参加者も、映倫審査委員のほかには、被告大蔵映画の関係者が9名、外部の者は4名にとどまり、しかも、その外部の者も、原告X1の知り合い等であったことが認められる。そうすると、本件映画は、少数かつ特定の者に対し上映されたにとどまるものといえる。
したがって、本件試写会で本件映画を上映する行為は、公衆に提示されたものとはいえない。」
「以上によれば、本件脚本は、本件試写会において公表されたものとはいえず、本件脚本を原告らに無断で本件週刊誌に掲載する行為は、原告らの本件脚本に係る公表権を侵害するものと認めるのが相当である。」
とあてはめの判断をしています。
また、被告新潮社が原告X1は本件試写会において本件脚本を一般公開する意図の下、本件試写会を実施したものである以上、本件脚本がその後公表されることに同意していた旨反論している点について、裁判所は、
「著作者は、その著作物でまだ公表されていないものを公表するか否かを決定する公表権(著作権法18条)を有するところ、その著作物には著作者の人格的価値を左右する側面があることに鑑みると、公表権には、公表の時期、方法及び態様を決定する権利も含まれると解するのが相当である。これを本件についてみると、原告X1が公表につき同意したのは、飽くまで、本件試写会におけるものにとどまると認めるのが相当であり、それを超えて、本件脚本がその後本件週刊誌に掲載されることにまで同意していたことを認めるに足りる客観的な証拠はない。」
と判断。被告新潮社の反論をいずれも認めていません(56頁以下)。
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5 本件映画の著作権の帰属
原告X1は、被告オーピー映画において、本件著作権譲渡契約に付随する義務として、本件映画の公開延期や公開中止を決定するに当たっては、原告X1に対して十分な説明を行うとともに、原告X1との間で十分な協議を尽くす信義則上の義務を負っていたというべきところ、被告オーピー映画は、そのような義務に違反したものであるから、原告X1による契約解除の意思表示により、本件映画の著作権は、原告X1に帰属する旨主張しました。
この点について、裁判所は結論として、原告X1の主張を認めていません(59頁)。
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6 損害額
公表権を侵害されたことによる精神的苦痛に対する慰謝料として、原告らにつき各30万円、弁護士費用相当額損害として各3万円が認定されています(59頁以下)。
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■コメント
事案としては名誉毀損の成否が争点の中心ですが、試写会での映画の上映が脚本との関係で公表されたことになるかどうかが争点となっています。
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■参考サイト
皇室タブーで封印されたピンク映画監督が法廷で映画会社に告げた「どうか、誇りを。」
篠田博之 月刊『創』編集長 2021/5/28(金) 9:00
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