最高裁判所HP 知的財産裁判例集より

元プロテニス選手名誉毀損事件

東京地裁令和4.7.19令和2(ワ)33192損害賠償請求事件PDF

東京地方裁判所民事第40部
裁判長裁判官 中島基至
裁判官    小田誉太郎
裁判官    古賀千尋

*裁判所サイト公表 2022.8.5
*キーワード:名誉毀損、肖像権、写真、記事、出版社

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■事案

元プロテニス選手に関する雑誌記事が名誉毀損や肖像権侵害などにあたるかどうかが争点となった事案

原告:元プロテニス選手
被告:出版社

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■結論

請求棄却

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■争点

条文 著作権法14条

1 名誉毀損の成否
2 肖像権侵害の成否
3 著作権侵害の成否

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■事案の概要

『本件は、原告が、被告に対し、被告の発行する雑誌に掲載された記事のうち、別紙記事目録記載1ないし4の各記載は、原告の社会的評価を低下させる事実を公然と摘示したものであるから、同記載の掲載は名誉毀損に当たり、別紙写真目録写真1ないし4の各写真は、いずれも、原告の容ぼうが写っており、原告が著作権を有するものであるから、同写真の掲載は、原告の肖像権及び著作権を侵害するとして、不法行為に基づき、損害賠償金600万円(名誉毀損につき400万円並びに肖像権侵害及び著作権侵害につき各100万円)及び弁護士費用60万円の合計660万円と、上記雑誌の発行日である平成29年8月17日から平成29年法律第44号による改正前の民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を、それぞれ求めた事案である。』(1頁以下)

<経緯>

H29.08 被告が本件記事を掲載した本件雑誌を発行
H30   原告が詐欺罪で逮捕、有罪判決確定

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■判決内容

<争点>

1 名誉毀損の成否

裁判所は、本件記載1ないし4は、いずれも原告の社会的評価を低下させるものであると認められるものの、いずれも公共の利害に関する事実に係り、専ら公益を図る目的に出たものであり、摘示された事実が真実であると認められるとして、本件記載1ないし4を掲載した行為は、違法性がなく、不法行為を構成するものとはいえないと判断。
結論として、原告の名誉毀損に関する主張を認めていません(12頁以下)。

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2 肖像権侵害の成否

裁判所は、京都府学連事件(最高裁昭和44年12月24日判決)、和歌山毒物混入カレー事件被告人法廷写真事件(最高裁平成17年11月10日判決)、ピンク・レディー事件(最高裁平成24年2月2日判決)に言及した上で、人の容ぼう等の撮影、公表が正当な表現行為、創作行為等として許されるべき場合との利益考衡を踏まえ、被撮影者の被る精神的苦痛が社会通念上受忍すべき限度を超える場合かどうかを検討。
「本件写真は、元プロテニス選手で当時社会的地位もあった原告が、いずれも、著名人と並んで笑顔で握手等をしている場面を撮影したものであるから、公的領域において撮影されたものと認めるのが相当である。そして、本件写真の上記の内容によれば、原告を侮辱するものではなく、原告のブログで公開されていた写真であったという事情も考慮すれば、平穏に日常生活を送る原告の利益を害するものともいえない」などと判断。
結論として、被告が本件写真を原告に無断で本件雑誌に掲載する行為は、肖像権を侵害するものとして不法行為法上違法であるということはできないと判断しています(22頁以下)。

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3 著作権侵害の成否

原告は、本件写真について、原告が補助者を使って原告の指示どおりに撮影させたものであり、本件写真の著作権は、いずれも原告に帰属すると主張しましたが、裁判所は、当該事実を認めるに足りる証拠がなく、本件写真の著作権が原告に帰属するものと認めることはできないと判断。原告の著作権侵害の主張は認められていません(23頁)。

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■コメント

元プロテニス選手が2018年(平成30年)にプロ野球球団と取引があるなどと偽って会社役員の男性から現金2億円超をだまし取ったとして、詐欺容疑で逮捕された事案があったようです。