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東山魁夷版画贋作販売刑事事件

東京地裁令和4.3.9令和3特(わ)2235等著作権法違反被告事件PDF

東京地方裁判所刑事第16部
裁判長裁判官 小林謙介
裁判官    向井志穂
裁判官    足立洋平

*裁判所サイト公表 2022.8.1
*キーワード:版画、贋作、美術商、刑事事件

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■罰条

著作権法21条、113条、119条

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■事案

東山魁夷の版画作品の贋作を制作・販売した事案の刑事事件

被告人:元美術商

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■主文

被告人を懲役3年及び罰金200万円に処する。
その罰金を完納することができないときは、金1万円を1日に換算した期間被告人を労役場に留置する。
この裁判が確定した日から4年間その懲役刑の執行を猶予する。

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■判決内容

罪となるべき事実

第1
 被告人は,Aと共謀の上,法定の除外事由がなく,かつ,著作権者の許諾を受けないで,別表記載のとおり,平成29年1月中旬頃から平成30年12月中旬頃までの間,奈良県大和郡山市(住所省略)所在の株式会社B工房作業所内において,Cほか6名が著作権を有する美術の著作物である版画「D」ほか4作品につき,リトグラフ技法により紙に印刷するなどして合計7枚を複製し,もって前記各著作権者の著作権を侵害し,

第2
 被告人は,株式会社E美術(以下,「E」という。)の代表取締役であるが,法定の除外事由がなく,かつ,著作権者の許諾を受けないで,平成30年2月5日,東京都中央区(住所省略)Fホールにおいて,Gに対し,前記Cほか6名が著作権を有する美術の著作物である版画「H」の複製物1枚を,著作権者の許諾を受けないで複製されたものであることの情を知りながら,E名義で代金33万円で販売して頒布し,もって前記各著作権者の著作権を侵害する行為とみなされる行為を行い,

第3
 被告人は,Eの代表取締役であるが,法定の除外事由がなく,かつ,著作権者の許諾を受けないで,令和2年7月2日,同区(住所省略)貸会議室Iにおいて,株式会社J美術の代表取締役であるKに対し,前記Cほか6名が著作権を有する美術の著作物である版画「L」の複製物1枚を,著作権者の許諾を受けないで複製されたものであることの情を知りながら,E名義で代金40万円で販売して頒布し,もって前記各著作権者の著作権を侵害する行為とみなされる行為を行った。


量刑の理由

 本件は,美術商として美術品の売買等を行ってい復作業等の職人であった共犯者とともにMた被告人が,版画の修の作品5点について合計7枚を著作権者に無断で複製し(判示第1),また単独で,無断で作品2点の複製物を代金合計73万円で販売して頒布した(判示第2及び第3)という著作権法違反の事件である。
 被告人らは,平成20年頃から,著作権者に無断で有名画家の作品の版画を複製し,美術商である被告人が販売していたものであり,本件各犯行は長期間にわたって職業的・常習的に行われた犯行の一環である。そして,本件各偽作版画は,極めて精巧に作成されており,版画市場に流通するに至っている。著作権者の利益を大きく害しており,強い非難を免れない。
 被告人と共犯者の関係等についてみると,被告人が複製する作品を定め,オークション等で入手した真作を共犯者に渡して複製を依頼していたものであり,被告人は主導的立場にあったものである。また,共犯者から受け取った偽作版画については,被告人が倉庫で管理する中で,適宜販売していたもので,被告人は偽作版画の複製から販売による利益獲得まで全ての過程を掌握していた。
 以上からすれば,被告人の刑事責任は重いが,一方で,被告人は,事実関係を認めた上で,反省し,著作権者に対する被害回復にも努め,N県立美術館M館に対しては1400万円の寄付をしており,一部の著作権者は,被告人の厳罰までは望んでいない。そして,被告人に前科前歴がないこと,被告人の妻が監督を誓約していること等も考慮すれば,本件で直ちに実刑判決とするのは躊躇されることから,主文のとおりの懲役刑を科した上で,その執行は猶予するが,この種事犯が経済的にも不合理であることを示すために,主文のとおりの罰金刑を併科するのが相当と判断した。

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求刑

懲役3年及び罰金200万円

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■コメント

平山郁夫、東山魁夷、片岡球子の3作家の版画作品10点の贋作を百貨店等で流通させていたなどとして、元画商と版画職人が逮捕、起訴されていた事件の刑事被告事件となります。
本件は、元画商の東山魁夷の贋作作品に関する判決となります。

量刑の理由中に被告人が「N県立美術館M館に対しては1400万円の寄付をしており」とあり、長野県立美術館東山魁夷館かな、と思いました。

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■参考サイト

「東山魁夷の偽物版画を制作・販売の元画商に有罪判決 東京地裁」(2022年3月9日 11時52分)
NHKウェブニュース

「平山郁夫作品等の偽版画流通問題。画廊と工房の代表者を著作権法違反の疑いで逮捕」(2021年9月27日)
美術手帖

「偽版画、元画商ら2人逮捕 東山魁夷作品を無断複製―著作権法違反容疑・警視庁」(2021年09月27日17時51分)
時事通信社 jiji.com

長野県立美術館東山魁夷館
東山魁夷館 長野県立美術館

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■追記(2022/8/6)

版画工房の経営者にも有罪判決(懲役2年、執行猶予3年、罰金100万円)
2022年8月5日TBSニュース
https://newsdig.tbs.co.jp/articles/-/116563?display=1


■追記(2022/9/26 9/22裁判所サイト公表)
美術商の共犯である版画制作職人の刑事事件
東京地裁令和4.8.5令和3特(わ)2235
https://www.courts.go.jp/app/files/hanrei_jp/413/091413_hanrei.pdf

懲役2年及び罰金100万円 3年間懲役刑執行猶予