最高裁判所HP 知的財産裁判例集より

JASRAC作品届著作者表記事件

東京地裁令和4.6.24令和2(ワ)18801損害賠償請求事件PDF

東京地方裁判所民事第29部
裁判長裁判官 國分隆文
裁判官    小川 暁
裁判官    バヒスバラン薫

*裁判所サイト公表 2022.7.12
*キーワード:JASRAC、ジャスラック、作品届、著作権契約書、著作者、共同著作物、氏名表示権

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■事案

JASRACへの作品届の著作者表記を巡って作家と音楽出版社が争った事案

原告:シンガーソングライター
被告:音楽出版社

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■結論

請求棄却

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■争点

条文 著作権法2条1項12号、19条

1 本件楽曲の著作者は誰か
2 本件作品届の提出が本件作品に係る原告の氏名表示権を侵害するものであるか
3 本件作品届の提出が本件作品に係る原告の著作者として取り扱われるべき人格的利益を侵害するものであるか
4 本件再訂正届の提出が本件作品に係る原告の氏名表示権又は著作者として取り扱われるべき人格的利益を侵害するものであるか
5 本件再訂正届の提出が本件著作権譲渡契約に基づく善管注意義務に違反するものであるか

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■事案の概要

『本件は、原告が、被告に対し、(1) 被告は、一般社団法人日本音楽著作権協会(以下「JASRAC」という。)に対し、原告が単独で作詞作曲した音楽作品(以下「本件作品」といい、本件作品のうち楽曲部分を「本件楽曲」と、歌詞部分を「本件歌詞」と、それぞれいう。)について、これを作詞作曲した者の筆名がグループを表す筆名としての「B」である旨記載した作品届(以下「本件作品届」という。)を提出し、本件作品に係る原告の著作者人格権(氏名表示権)及び著作者として取り扱われるべき人格的利益を侵害したと主張して、民法709条に基づき、110万円(慰謝料額100万円及び弁護士費用相当額10万円)及びこれに対する不法行為日である平成15年6月4日から支払済みまで平成29年法律第44号による改正前の民法所定の年5分の割合よる遅延損害金の支払を求め、また、(2) 原告との間で本件作品に係る著作権譲渡契約(以下「本件著作権譲渡契約」という。)を締結していた被告は、JASRACに対し、一旦、本件作品届に記載された「B」が個人を表す筆名である旨記載した訂正届を提出したにもかかわらず、再び、「B」がグループを表す筆名である旨記載した訂正届(以下「本件再訂正届」という。)を提出して、本件作品に係る原告の著作者人格権(氏名表示権)及び著作者として取り扱われるべき人格的利益を侵害し、本件著作権譲渡契約に基づく善管注意義務に違反したと主張して、民法709条及び上記法律による改正前の民法415条に基づき、110万円(慰謝料額100万円及び弁護士費用相当額10万円)及びこれに対する令和2年9月29日付け訴えの追加的変更申立書送達日の翌日である同年10月3日から支払済みまで民法所定の年3パーセントの割合による遅延損害金の支払を求める事案である。』(1頁以下)

<経緯>

H13.11 原告が居酒屋開店
H14.11 原告が本件CD制作(開店1周年記念制作)
H15.04 本件作品に関して原告とCが著作権使用料分配率合意
H15.05 原被告間で著作権譲渡契約
H15.05 被告とCが著作権譲渡契約(本件C契約書)
H15.06 被告がJASRACに作品届提出
H15.06 本件作品がアレンジされて発売
R01.07 被告が作品届訂正届提出
R01.11 原告が本件作品の作品届提出
R02.03 本件C契約書をCが訂正
R02.03 被告が作品届訂正届を再提出
R02.03 JASRACが分配留保

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■判決内容

<争点>

1 本件楽曲の著作者は誰か

原告は、本件楽曲は原告が単独で作曲したものであり、「B」表記は原告個人を表す筆名であると主張しました。
本件楽曲が原告が単独で創作した著作物か、原告及びCの共同著作物であるかについて、裁判所は、結論として、
「本件楽曲は、原告が本件原音声を作成し、Cがこれを基に旋律や調子等を見直すなどし、全体的にボサノバ調に再構築して完成させたものであって、かつ、各人の寄与を分離して個別的に利用することができないものといえるから、原告及びCの共同著作物(著作権法2条1項12号)と認めるのが相当である」
として、原告の単独の著作者であるとの主張を認めていません(17頁以下)。

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2 本件作品届の提出が本件作品に係る原告の氏名表示権を侵害するものであるか

原告は、本件作品について原告個人を表す筆名として「B」と表示すべきであったにもかかわらず、被告がJASRACに対して本件作品の作詞者及び作曲者を原告及びCのグループを表す筆名である「B」と記載した本件作品届を提出したことは、本件作品に係る原告の氏名表示権(19条)を侵害すると主張しました。
この点について、裁判所は、経緯などを踏まえ、結論として原告の主張を認めていません(22頁以下)。

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3 本件作品届の提出が本件作品に係る原告の著作者として取り扱われるべき人格的利益を侵害するものであるか

原告は、著作者には自己の著作物の作品届に著作者として正しく記載される法的利益が認められるところ、被告が本件作品届を提出したことにより、本件作品に係る原告の著作者として取り扱われるべき人格的利益が侵害されたと主張しました(23頁以下)。
この点についても、裁判所は原告の主張を認めていません。

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4 本件再訂正届の提出が本件作品に係る原告の氏名表示権又は著作者として取り扱われるべき人格的利益を侵害するものであるか

原告は、原告が被告に対して本件訴訟を提起したことに対する報復をする目的で、被告がJASRACに対して本件再訂正届を提出し、これによりJASRACの検索システムであるJ−WIDにおいて、本件作品に係る著作権は「未確定」と表示されるようになり、本件作品の作詞者及び作曲者として記載された「B」が、原告個人を表すのか否かが不明な状態となったと主張しました(24頁以下)。
結論として、裁判所は原告の主張を認めていません。

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5 本件再訂正届の提出が本件著作権譲渡契約に基づく善管注意義務に違反するものであるか

原告は、本件作品の作詞者及び作曲者として、原告個人を表す筆名である「B」を使用する前提で、JASRACへの管理委託を被告に委ねたにもかかわらず、被告は「B」が原告及びCのグループを表す筆名である旨記載した本件再訂正届を提出したから、本件著作権譲渡契約に基づく善管注意義務に違反すると主張しました(25頁)。
結論として、裁判所は原告の主張を認めていません。

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■コメント

被告側代理人に池村先生のお名前が拝見できます(三浦法律事務所の大滝晴香先生のお名前も)。
ジャスラックでの適切な音楽著作権管理の元データとして、正確な内容の作品届の提出が求められますが、作品届の内容に疑義が生じると分配が約款に基づいて留保されます。
「B」表記ですが、原告の名字の「a」、Cの名字の「c」、原告が経営してCが勤務していた居酒屋「D」の「d」を組み合わせたものでした。
なお、J−WIDでの著作者表示や作品届と氏名表示権の関係についての裁判所の判断は参考になります(22頁以下)。