最高裁判所HP 知的財産裁判例集より
クラウドファンディング漫画制作契約事件
東京地裁令和4.3.30令和2(ワ)12803等著作物の独占的利用権に基づく侵害差止等請求事件 (第1事件)、損害賠償請求事件(第2事件)
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別紙
東京地方裁判所民事第40部
裁判長裁判官 中島基至
裁判官 斉藤 敦
裁判官 小田誉太郎
*裁判所サイト公表 2022.7.1
*キーワード:漫画原稿制作契約、独占的利用許諾、虚偽事実告知、クラウドファンディング、同人誌
--------------------
■事案
クラウドファンディングを活用した企画における漫画制作契約を巡る紛争
原告:サークル共同経営者ら
被告:漫画家
--------------------
■結論
請求棄却
--------------------
■争点
条文 著作権法63条、不正競争防止法2条1項21号
1 本件各漫画に係る独占的利用許諾契約の成否
2 同人誌「絆」の原稿提出に係る債務不履行
3 本件漫画2の原稿提出に係る債務不履行の有無
4 本件漫画1の原稿提出に係る債務不履行の有無
5 本件漫画1のネームの提出に係る債務不履行の有無
6 宣伝用漫画原稿の提出に係る債務不履行の有無
7 機密情報の漏えいに係る債務不履行
8 打上げのキャンセルに係る債務不履行
9 本件漫画2の無断公開に係る債務不履行の有無
10 「虚偽の事実」の告知の有無
--------------------
■事案の概要
『(1) 原告らは、「ラジオへんすて」という名称のサークルの共同運営者であるところ、自らが企画したクラウドファンディングのプロジェクト(以下「本件企画」という。)のために、漫画家である被告に対し、別紙著作物目録記載1の著作物(以下「本件漫画1」といい、本件漫画1を含め、「ウチのムスコがマザコンになった理由」という題名で被告が作成又は公開した漫画を「ウチムスマザコン」と総称する。)及び同記載2の著作物(以下「本件漫画2」といい、本件漫画1と併せて「本件各漫画」という。)などの作成を依頼し、被告との間で、原稿作成依頼契約(以下「本件契約」という。)を締結した。』
『(2) 第1事件
原告らが、被告は、本件契約を締結するに当たり、原告らに対し、本件各漫画につき、著作権法63条1項に基づく独占的利用許諾をする旨の合意(以下「本件合意」という。)をしたにもかかわらず、これに違反して、本件各漫画と同一の内容である別紙被告公開著作物目録記載の各著作物(以下「被告公開著作物」と総称する。なお、被告公開著作物の具体的な内容は、次に掲げる被告公開著作物一覧(1)ないし(5)のとおりである。)を公開したと主張して、著作権法112条に基づき、本件各漫画の複製、自動公衆送信及び送信可能化の差止め並びに被告公開著作物1ないし4の削除を求めるとともに、被告には、本件合意に違反して、被告公開著作物をインターネット上のウェブサイト等において公開した行為による債務不履行のほか、本件企画に関して委託した業務に関し、次に掲げる本件各債務不履行一覧(1)ないし(8)の各債務不履行(以下、順に「本件債務不履行1」ないし「本件債務不履行8」といい、併せて「本件各債務不履行」という。)があると主張して、損害賠償金353万9228円及びこれに対する訴状送達の日の翌日である令和2年8月16日から支払済みまで民法(平成29年法律第44号による改正前のもの)所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める事案である。(以下、略)』
『(3) 第2事件は、原告らが、第1事件の係属中に、被告が、本件企画に参加した他の漫画家9名に対し、「独占的利用権を許諾(譲渡)するということは、著作者(作家)であっても自分の著作物(作品)を一切使えない」などと記載された文書を送付したことが不正競争防止法2条1項21号にいう「虚偽の事実」の告知に該当すると主張して、被告に対し、同法4条に基づき、損害賠償金150万円及びこれに対する訴状送達の日の翌日である令和3年2月17日から支払済みまで民法所定の年3分の割合による金員の支払を求める事案である。』
(2頁以下)
<経緯>
H29.05 原被告打ち合わせ
H29.06 被告がpixivにおいてウチムスマザコンを公開
H29.07 原被告が打ち合わせ、本件契約を締結(書面なし)
H29.09 原告がクラウドファンディング実施
H29.12 原告が本件コミック「Thank U」発行、原稿料支払
H30.02 被告が本件漫画2の1コマをツイッターに投稿
H30.03 被告が単行本刊行
R02.05 原告らが第1事件提訴
R02.05 被告代理人が漫画家9名に照会書送付
著作物:「ウチのムスコがマザコンになった理由(ワケ)」「づま子のキセキ」
著作者:被告
発行者:原告ら
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■判決内容
<争点>
1 本件各漫画に係る独占的利用許諾契約の成否
裁判所は、原被告間で独占的利用許諾をする旨の合意(本件合意)が成立しているとは認めていません(65頁以下)。
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2 同人誌「絆」の原稿提出に係る債務不履行
同人誌「絆」の原稿提出に係る債務不履行として、原告らは、被告の不完全履行や履行遅滞を主張しましたが、裁判所は認めていません(73頁以下)。
--------------------
3 本件漫画2の原稿提出に係る債務不履行の有無
本件漫画2の原稿提出に係る債務不履行として、完成原稿の提出に係る履行遅滞やネームの提出に係る履行遅滞を原告らは主張しましたが、期限内に提出があり履行遅滞がないとして、裁判所は認めていません(75頁以下)。
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4 本件漫画1の原稿提出に係る債務不履行の有無
本件漫画1の原稿提出に係る債務不履行の諸点について、裁判所は原告らの主張を認めていません(78頁以下)。
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5 本件漫画1のネームの提出に係る債務不履行の有無
原告らは、被告が本件漫画1の追加4ページ分について、その内容や構図が確認できる状態のネームを9月末日までに提出する旨の債務を負っていたにもかかわらず、ネームを提出しなかったことが債務不履行に当たる旨主張しました。この点について、裁判所は、被告の債務不履行の事実を認めていません(80頁以下)。
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6 宣伝用漫画原稿の提出に係る債務不履行の有無
原告らは、7月28日の打合せにおいて、被告は8月までに宣伝用漫画を提出する旨合意したにもかかわらず、これを提出しなかったことが債務不履行に当たる旨主張しましたが、裁判所は認めていません(81頁以下)。
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7 機密情報の漏えいに係る債務不履行
原告らは、本件契約の締結に伴い、被告は、本件企画に関し、通常一般的に非公開であるべき情報を外部に漏洩しない義務を負っていた旨主張しましたが、裁判所は認めていません(82頁以下)。
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8 打上げのキャンセルに係る債務不履行
原告らは、被告が12月16日に開催されたクラウドファンディング企画の祝賀会の後の打上げに参加すべき義務を負っていたところ、11月30日になって参加をキャンセルしたことが債務不履行に当たる旨主張しましたが、裁判所は認めていません(83頁以下)。
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9 本件漫画2の無断公開に係る債務不履行の有無
原告らは、被告が、原告らとの間で本件合意を締結していたにもかかわらず、本件漫画2の原稿の1コマをインターネット上で公開したことが債務不履行に当たる旨主張しましたが、裁判所は本件合意締結の成立を認めておらず、原告らの主張を認めていません(84頁)。
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10 「虚偽の事実」の告知の有無
原告らは、被告代理人が本件企画に参加した他の漫画家9名に対し送付した照会書の「独占的利用権を許諾(譲渡)するということは、著作者(作家)であっても自分の著作物(作品)を一切使えない(出版、インターネットやツイッターでの表示、同様の作品や登場人物の絵を公表することも含む)ということを意味しています。」との記載部分が不正競争防止法2条1項21号にいう「虚偽の事実」に当たる旨主張しましたが、裁判所は認めていません(84頁以下)。
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■コメント
クラウドファンディングを活用した企画での漫画制作契約、業務委託契約を巡る紛争となります。メールでのやりとりが中心で、契約に関する書面の取り交わしはありませんでした。
裁判所は、合意の内容や経緯、実質を踏まえて、漫画制作契約の重要な部分である独占的利用許諾の合意の成立を否定しています。
クラウドファンディング漫画制作契約事件
東京地裁令和4.3.30令和2(ワ)12803等著作物の独占的利用権に基づく侵害差止等請求事件 (第1事件)、損害賠償請求事件(第2事件)
別紙
東京地方裁判所民事第40部
裁判長裁判官 中島基至
裁判官 斉藤 敦
裁判官 小田誉太郎
*裁判所サイト公表 2022.7.1
*キーワード:漫画原稿制作契約、独占的利用許諾、虚偽事実告知、クラウドファンディング、同人誌
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■事案
クラウドファンディングを活用した企画における漫画制作契約を巡る紛争
原告:サークル共同経営者ら
被告:漫画家
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■結論
請求棄却
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■争点
条文 著作権法63条、不正競争防止法2条1項21号
1 本件各漫画に係る独占的利用許諾契約の成否
2 同人誌「絆」の原稿提出に係る債務不履行
3 本件漫画2の原稿提出に係る債務不履行の有無
4 本件漫画1の原稿提出に係る債務不履行の有無
5 本件漫画1のネームの提出に係る債務不履行の有無
6 宣伝用漫画原稿の提出に係る債務不履行の有無
7 機密情報の漏えいに係る債務不履行
8 打上げのキャンセルに係る債務不履行
9 本件漫画2の無断公開に係る債務不履行の有無
10 「虚偽の事実」の告知の有無
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■事案の概要
『(1) 原告らは、「ラジオへんすて」という名称のサークルの共同運営者であるところ、自らが企画したクラウドファンディングのプロジェクト(以下「本件企画」という。)のために、漫画家である被告に対し、別紙著作物目録記載1の著作物(以下「本件漫画1」といい、本件漫画1を含め、「ウチのムスコがマザコンになった理由」という題名で被告が作成又は公開した漫画を「ウチムスマザコン」と総称する。)及び同記載2の著作物(以下「本件漫画2」といい、本件漫画1と併せて「本件各漫画」という。)などの作成を依頼し、被告との間で、原稿作成依頼契約(以下「本件契約」という。)を締結した。』
『(2) 第1事件
原告らが、被告は、本件契約を締結するに当たり、原告らに対し、本件各漫画につき、著作権法63条1項に基づく独占的利用許諾をする旨の合意(以下「本件合意」という。)をしたにもかかわらず、これに違反して、本件各漫画と同一の内容である別紙被告公開著作物目録記載の各著作物(以下「被告公開著作物」と総称する。なお、被告公開著作物の具体的な内容は、次に掲げる被告公開著作物一覧(1)ないし(5)のとおりである。)を公開したと主張して、著作権法112条に基づき、本件各漫画の複製、自動公衆送信及び送信可能化の差止め並びに被告公開著作物1ないし4の削除を求めるとともに、被告には、本件合意に違反して、被告公開著作物をインターネット上のウェブサイト等において公開した行為による債務不履行のほか、本件企画に関して委託した業務に関し、次に掲げる本件各債務不履行一覧(1)ないし(8)の各債務不履行(以下、順に「本件債務不履行1」ないし「本件債務不履行8」といい、併せて「本件各債務不履行」という。)があると主張して、損害賠償金353万9228円及びこれに対する訴状送達の日の翌日である令和2年8月16日から支払済みまで民法(平成29年法律第44号による改正前のもの)所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める事案である。(以下、略)』
『(3) 第2事件は、原告らが、第1事件の係属中に、被告が、本件企画に参加した他の漫画家9名に対し、「独占的利用権を許諾(譲渡)するということは、著作者(作家)であっても自分の著作物(作品)を一切使えない」などと記載された文書を送付したことが不正競争防止法2条1項21号にいう「虚偽の事実」の告知に該当すると主張して、被告に対し、同法4条に基づき、損害賠償金150万円及びこれに対する訴状送達の日の翌日である令和3年2月17日から支払済みまで民法所定の年3分の割合による金員の支払を求める事案である。』
(2頁以下)
<経緯>
H29.05 原被告打ち合わせ
H29.06 被告がpixivにおいてウチムスマザコンを公開
H29.07 原被告が打ち合わせ、本件契約を締結(書面なし)
H29.09 原告がクラウドファンディング実施
H29.12 原告が本件コミック「Thank U」発行、原稿料支払
H30.02 被告が本件漫画2の1コマをツイッターに投稿
H30.03 被告が単行本刊行
R02.05 原告らが第1事件提訴
R02.05 被告代理人が漫画家9名に照会書送付
著作物:「ウチのムスコがマザコンになった理由(ワケ)」「づま子のキセキ」
著作者:被告
発行者:原告ら
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■判決内容
<争点>
1 本件各漫画に係る独占的利用許諾契約の成否
裁判所は、原被告間で独占的利用許諾をする旨の合意(本件合意)が成立しているとは認めていません(65頁以下)。
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2 同人誌「絆」の原稿提出に係る債務不履行
同人誌「絆」の原稿提出に係る債務不履行として、原告らは、被告の不完全履行や履行遅滞を主張しましたが、裁判所は認めていません(73頁以下)。
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3 本件漫画2の原稿提出に係る債務不履行の有無
本件漫画2の原稿提出に係る債務不履行として、完成原稿の提出に係る履行遅滞やネームの提出に係る履行遅滞を原告らは主張しましたが、期限内に提出があり履行遅滞がないとして、裁判所は認めていません(75頁以下)。
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4 本件漫画1の原稿提出に係る債務不履行の有無
本件漫画1の原稿提出に係る債務不履行の諸点について、裁判所は原告らの主張を認めていません(78頁以下)。
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5 本件漫画1のネームの提出に係る債務不履行の有無
原告らは、被告が本件漫画1の追加4ページ分について、その内容や構図が確認できる状態のネームを9月末日までに提出する旨の債務を負っていたにもかかわらず、ネームを提出しなかったことが債務不履行に当たる旨主張しました。この点について、裁判所は、被告の債務不履行の事実を認めていません(80頁以下)。
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6 宣伝用漫画原稿の提出に係る債務不履行の有無
原告らは、7月28日の打合せにおいて、被告は8月までに宣伝用漫画を提出する旨合意したにもかかわらず、これを提出しなかったことが債務不履行に当たる旨主張しましたが、裁判所は認めていません(81頁以下)。
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7 機密情報の漏えいに係る債務不履行
原告らは、本件契約の締結に伴い、被告は、本件企画に関し、通常一般的に非公開であるべき情報を外部に漏洩しない義務を負っていた旨主張しましたが、裁判所は認めていません(82頁以下)。
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8 打上げのキャンセルに係る債務不履行
原告らは、被告が12月16日に開催されたクラウドファンディング企画の祝賀会の後の打上げに参加すべき義務を負っていたところ、11月30日になって参加をキャンセルしたことが債務不履行に当たる旨主張しましたが、裁判所は認めていません(83頁以下)。
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9 本件漫画2の無断公開に係る債務不履行の有無
原告らは、被告が、原告らとの間で本件合意を締結していたにもかかわらず、本件漫画2の原稿の1コマをインターネット上で公開したことが債務不履行に当たる旨主張しましたが、裁判所は本件合意締結の成立を認めておらず、原告らの主張を認めていません(84頁)。
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10 「虚偽の事実」の告知の有無
原告らは、被告代理人が本件企画に参加した他の漫画家9名に対し送付した照会書の「独占的利用権を許諾(譲渡)するということは、著作者(作家)であっても自分の著作物(作品)を一切使えない(出版、インターネットやツイッターでの表示、同様の作品や登場人物の絵を公表することも含む)ということを意味しています。」との記載部分が不正競争防止法2条1項21号にいう「虚偽の事実」に当たる旨主張しましたが、裁判所は認めていません(84頁以下)。
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■コメント
クラウドファンディングを活用した企画での漫画制作契約、業務委託契約を巡る紛争となります。メールでのやりとりが中心で、契約に関する書面の取り交わしはありませんでした。
裁判所は、合意の内容や経緯、実質を踏まえて、漫画制作契約の重要な部分である独占的利用許諾の合意の成立を否定しています。