最高裁判所HP 知的財産裁判例集より

従軍慰安婦問題ドキュメンタリー映画事件

東京地裁令和4.1.27令和1(ワ)16040映画上映禁止及び損害賠償請求事件PDF

東京地方裁判所民事第46部
裁判長裁判官 柴田義明
裁判官    佐伯良子
裁判官    棚井 啓

*裁判所サイト公表 2022.6.24
*キーワード:映画、取材、許諾、引用、同一性保持権

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■事案

ドキュメンタリー映画製作の際の取材方法や素材の利用を巡って争われた事案

原告:ジャーナリストら5名
被告:映画配給宣伝会社、映像製作者

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■結論

請求棄却

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■争点

条文 著作権法20条、32条

1 被告Fによる欺罔行為の有無
2 本件各許諾は本件規定に従い撤回されたか
3 本件映画1の製作、上映により原告らの社会的評価が低下したか等
4 本件各利用映像等の利用が原告Bの許諾に基づくものであるか
5 本件各利用映像等の利用が引用(著作権法32条1項)として適法か
6 被告らが本件利用映像等5、6を利用して本件映画1を製作、上映することは原告Bの著作者人格権を侵害するか
7 被告Fに原告C及び原告Dとの間の本件事前確認等条項に違反した債務不履行があるか
8 本件映画2の譲渡、貸与等により原告らの肖像権、名誉権(声望)が侵害され、原告らはこのことにより被告Fにアマゾンに対する意思表示をすることを請求できるか

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■事案の概要

『本件は,原告らが,
(1) 被告らは,原告らに対する取材映像等並びに原告B及び原告Dが作成した映像等を利用して本件映画1を製作し,これを上映することにより,原告らに対する取材映像等について原告らが有する著作権及び著作者人格権を侵害し,原告B及び原告Dが作成した映像等について原告B及び原告Dが有する著作権並びに原告Bが有する著作者人格権を侵害したと主張して,それぞれ,各著作権及び各著作者人格権による差止請求権(著作権法112条1項)に基づき,被告らに対し,本件映画の上映等の差止めを求めるとともに(請求の趣旨第1項関係),』

『(2) (ア)被告らは,本件映画1の製作,上映により,原告らに対する取材映像等について原告らが有する著作権及び著作者人格権,原告B及び原告Dが作成した映像等について原告B及び原告Dが有する著作権並びに原告Bが有する著作者人格権を侵害した(上記(1))ほか,原告らの肖像権,名誉権(声望),原告Aのパブリシティ権を侵害したと主張して,それぞれ,各不法行為による損害賠償請求権に基づき,被告らに対し,損害の一部として,原告A及び原告Bにつき各450万円及びこれに対する不法行為より後の日である令和元年8月1日(訴状送達の日の翌日)から支払済みまで平成29年法律第44号による改正前の民法所定の年5分の割合による遅延損害金の連帯支払を,原告C,原告D及び原告Eにつき各50万円及びこれに対する上記同様の遅延損害金の連帯支払を求め,予備的に(イ)原告C及び原告Dは,被告Fは,原告C及び原告Dとの間の各合意に反して本件映画1を製作,上映したと主張して,被告らに対し,各債務不履行による損害賠償請求権に基づき,各50万円及びこれに対する上記同様の遅延損害金の連帯支払を求め(請求の趣旨第2項,第3項関係),』

『(3) 被告Fは,本件映画1の製作に当たり原告らを欺罔して取材に応じるという役務の提供をさせたと主張して,被告らに対し,各不法行為による損害賠償請求権に基づき,各50万円及びこれに対する上記同様の遅延損害金の連帯支払を求め(請求の趣旨第2項,第3項関係),』

『(4) 被告Fが著作権を有する本件映画2がアマゾンにおいて譲渡,貸与等され,原告らの肖像権,名誉権(声望)が侵害されたと主張して,被告Fに対し,各肖像権及び各名誉権に基づき,アマゾンに対して本件映画2の上映等をしてはならない旨の意思表示をすることを求める(請求の趣旨第4項関係)』事案(3頁以下)

<経緯>

H28 被告Fが原告らに取材し映像製作
H30 被告Fが卒業制作映画として大学院に提出
H30 被告Fが本件映画1を製作、監督、撮影
H30 本件映画1が第23回釜山国際映画祭で上映
H31 被告会社が本件映画1を国内で配給
R01 原告らが本件提訴
R03 本件映画2がアマゾンでネット配信

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■判決内容

<争点>

1 被告Fによる欺罔行為の有無

まず、原告らに対する取材と本件各映像の本件映画での利用及び許諾について、裁判所は、原告らはいずれも被告Fから取材についての依頼を受け、これを承諾してその取材を受け、被告Fはその状況を録画等したものであると認定。
そして、本件映画1には原告らに対する取材の状況を録画等した本件各映像が利用されているところ、原告らは、いずれも被告Fが本件各映像を自由に編集してその製作する、「歴史問題の国際化に関するドキュメンタリー映画」に利用することができる旨の文言を含む本件各書面に署名等したと認定。
したがって、原告らは被告Fの依頼を承諾して取材を受け、また、本件各書面により被告Fが原告らに対して行った取材の状況を録音録画(本件各録画)した本件各映像を上記映画に自由に編集して利用することを許諾(本件各許諾)したと認定しています(45頁)。

そのうえで、本件各許諾は詐欺により取り消され又は錯誤により無効であるか、あるいは、被告Fが原告らを欺罔して取材に応じるという役務の提供をさせたかの各争点について、裁判所は、被告Fが原告らに対して取材を申し込み、また、本件各書面への署名押印を求めるに当たり、原告らが主張する欺罔行為によって、原告らを欺罔したとは認めるに足りず、本件各許諾をするに当たって原告らに錯誤があったとも認めるに足りないなどとして、原告の主張を認めていません。

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2 本件各許諾は本件規定に従い撤回されたか

大学ガイドライン規定に関連する原告の主張を裁判所は認めていません(50頁)。

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3 本件映画1の製作、上映により原告らの社会的評価が低下したか等

本件映画1の製作、上映により原告らの社会的評価が低下したか、本件各表現が違法性を欠くものであるか、及び本件映画1の製作、上映は著作者である原告らの名誉又は声望を害する方法により本件各映像等を利用するものであるかの各争点について、裁判所は結論として、原告の主張を認めていません(50頁以下)。

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4 本件各利用映像等の利用が原告Bの許諾に基づくものであるか

原告Bが、被告Fに対して本件利用映像等1から3、5、6の利用を許諾したとは裁判所は認めていません(61頁以下)。

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5 本件各利用映像等の利用が引用(著作権法32条1項)として適法か

本件利用映像等1から6の利用について、裁判所は、公正な慣行に合致し、引用の目的上正当な範囲内で行われたものであるなどとして、引用にあたると認めています(62頁以下)。

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6 被告らが本件利用映像等5、6を利用して本件映画1を製作、上映することは原告Bの著作者人格権を侵害するか

音声を削除して映像を用いたことなどが、名誉又は声望を害する方法による利用であったり、同一性保持権を侵害するとの主張がされましたが、裁判所は、認めていません(66頁以下)。

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7 被告Fに原告C及び原告Dとの間の本件事前確認等条項に違反した債務不履行があるか

結論として、裁判所は、被告Fに本件事前確認等条項に違反した債務不履行があったとは認めていません(70頁以下)。

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8 本件映画2の譲渡、貸与等により原告らの肖像権、名誉権(声望)が侵害され、原告らはこのことにより被告Fにアマゾンに対する意思表示をすることを請求できるか

結論として、裁判所は、本件映画2の内容は必ずしも明らかではないなどとして、原告の主張を認めていません(72頁以下)。

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■コメント

慰安婦問題のドキュメンタリー映画の製作にあたって取材素材の取扱いについて疑義が生じた事案となります。被告Fは原告らそれぞれから承諾書、同意書をもらっていました。

事件の概要については、ネット記事をご参照ください。

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■参考サイト

「勝訴したのに…「主戦場」はタブーなのか 慰安婦問題映画監督の闘志」
毎日新聞2022/3/14 16:00(最終更新 4/3 09:50)佐野格、和田浩明
記事(有料記事)

「炎上しつつ全国拡大上映中のドキュメンタリー映画『主戦場』監督と戦史研究家が対談。慰安婦問題「あった/なかった」論争はなぜ収拾がつかないのか?」
週プレNEWS(2019年07月14日)稲垣収
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